普段なんとなく支払っている自治会費。地域の行事や防災などのために必要とされている一方、金額の正当性や使途などに疑問を持っている人も多いのでは。これまで「慣習」として徴取されてきた会費をめぐり、小さな町の自治会が揺れています。

2年前に父親が死亡。空き家になった実家の「万雑割」は払うべき?

60代の男性が、空き家になった実家の自治会費の支払いは不当などとして、訴えを起こしました。

訴状などによりますと、男性の富山県氷見市飯久保の実家には2020年ごろまで男性の父親が住んでいましたが、男性がその期間の自治会費・合計35,380円を肩代わりしていました。この地区では自治会費のことを「万雑割」と呼んでいます。その後、2022年8月に父親が死亡し、弟とともに家や農地を相続しました。

男性は現在神奈川県に住んでいて、実家が空き家になったことから、当時の自治会長に自治会から退会する意思を伝えましたが、自治会長は「これまでそんなことをしたことがない」と答えました。

そのうえで男性が「市外在住でも飯久保に家があれば万雑を払っているのか」と尋ねると、自治会長は「県外に住んでいても、住民票がなくても、家があれば払ってもらわないと困る。県外に住んでいる人も皆払っている」と返答したということです。

自治会の会費要求に違法性なし

男性は自治会長が「飯久保在住ではないにも関わらず不当な万雑割と自治会費の支払いを執拗に強要してきた」として、現自治会長と前の自治会長の2人を相手取り、10万円の慰謝料と、支払った万雑割合計3万5380円の支払いなどを求める訴えを、高岡簡易裁判所に起こしました。

これに対し、富山地裁高岡支部は18日、原告の男性の請求を棄却する判決を言い渡しました。

平野剛史裁判官は判決で慰謝料請求について、自治会長らは「自治会の機関としての立場で万雑割を負担するという慣習を踏まえて集金した」としたうえで、「脱退を表明した構成員に翻意を促し、慣習に即した万雑割の支払いを促すことは違法と目するべきでない」などとしました。

また、万雑割の返還を求める訴えについては、「自治会の機関としての立場で集金した」もので、「仮に法律上の理由ない損失であったとしても、返還すべきは自治会であって個人ではない」としてこの請求も失当であるとしました。

今までの「慣習」なら支払うべき?そもそも自治会費「万雑割」とは?

訴状などによりますと、万雑割とは古くは平安時代から江戸末期まで領主が租税徴取の手段として行われてきた課税方式です。

草刈りや集会所管理経費など共同活動にかかる経費を、戸数に応じ割り当てる「戸数割」や、農地の面積に応じ割り当てる「耕作割」などがあり、集落によってはこれらを複合的に割り当てているのが「万雑割」または「万雑」だということです。

長く日本に根付いている慣習ともいえる「万雑割」。しかし今の時代にそぐわないのではと、男性は話します。

男性:「慣習が優先されていることに対しては懸念点ですね。私にすれば違法だらけのことをやってるんですよ。それが慣習だからOKっていう判決だとしたら非常におかしいと思います」

移住者が増えるなどライフスタイルが変化。自治会費の必要性とは?

男性は、いまと昔では住む人や暮らし方が変化していることを踏まえ、次のように話します。

男性:「これまでは人の出入りがほとんどなかったから、それでよしとしてきたが、いまは地方に移住を促進していたり、外国人を受け入れていたりする。そうやって都会のように人の流入が激しく増えてくると、こういうトラブルはこれからもたくさん起きると思います」

また、自治会制度そのものや、あり方について考えていく必要があると話します。

男性:「一番やっぱり思うのは、費用の出入りが情報公開されていない。今回の裁判で明らかになった明細には、神事・祭事にも使っているし飲み食いにも使っている」

他にも自治会費などをめぐる問題で、知人から聞いたこんな話も…

男性:「(知人が)年間で6万円の親睦会費を支払っていて、参加できなかったから返してほしいと言っても返せないと言われた。その人は自治会費3万円含めて9万円払っていると言っていた」

今後について男性は、控訴するなど弁護士と協議の上、検討するとしています。

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