障がい者施設で働く職員による虐待が相次いでいる。2022年度には、956件と過去最多の認知件数となった(厚生労働省の調査より)。その一方で、障がい者施設は家族にとって大きな存在で、入居を待つ人が大勢いる。なぜ虐待が増加するのか、障がい者施設で働く現場職員にMBSが独自アンケートを実施し、背景にあるものを探った。

突然起こる自傷行為 強度行動障害の息子と暮らす母親

 長野県内に暮らす蒲和美さん(51)と息子の涼太さん(27)。涼太さんは自閉症の診断を受けていて、「強度行動障害」がある。普段は穏やかな性格の一方で、自ら壁に頭をぶつけるなど、突如として自傷行為を起こす。

 (涼太さんを止める蒲和美さん)「涼太もういい加減にして!」

 大人が数人がかりで止めるのがやっとだ。
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 (蒲和美さん)「自傷行為の頻度は不定期なんですよ。規模というか大きさも全く、なってみないとわからない。涼太と接しているときはずっと気を張っているんだと思いますね。無意識のうちに」 

 強度行動障害とは、自傷行為など周囲に影響を与える行動が高い頻度で起こる状態を指す。涼太さんは「時間」に強いこだわりがあり、日々の予定が少しでも狂うとそれが自傷行為につながる。和美さんはこうした生活に向き合い続けてきた。涼太さんが小学1年のころに綴った日記には…
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 【蒲和美さんの日記より】
 「4月の頃は毎日、何回もパニックになり、毎日戦争だった。体が痛い…」
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 (蒲和美さん)「心が折れたことは幾度となくあります。この世からいなくなりたいなって思ったことも本当にいっぱいありましたね」

 そんな障がいのある人と家族を支える存在がある。いわゆる障がい者施設だ。

 涼太さんは平日の日中、施設に通っている。強度行動障害のある人を受け入れる施設は少なく、ようやく見つかった場所は車で約1時間半のところにある。施設では決まったスケジュールを過ごせるため、涼太さんにとっても家族にとっても大切な時間となっている。
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 (蒲和美さん)「もう本当に買い物に行くにも市役所に行くにもどこに行くにも、涼太を連れて行かないといけないので、気が狂いそうになってました。自分の時間も一切ない。(施設が見つかって)本当に『やった』って感じですよね、うれしくて」

障がい者施設の職員による虐待が相次ぐ

 施設を必要とする声があがる一方で、障がい者施設の職員による虐待は後を絶たない。今年4月、大阪府岸和田市にある障がい者支援施設の職員4人が入居者の50代男性に対し、暴行を繰り返していたとして逮捕・起訴された。
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 さらに翌月の5月には、和歌山県の施設の女性職員(30代)が入所者の目と口をテープでふさぎ、その様子をスマートフォンで撮影したことが発覚。

 厚生労働省によると、職員らによる虐待は2022年度に過去最多の約1000件となり急増している。

「支援員も疲れている」「人手不足」アンケートで見えた過酷な労働環境

 障がい者を守るはずの職員がなぜ虐待を繰り返すのか。私たちは障がい者施設の現役職員が所属する全国の労働組合にアンケート調査を実施した。そこから見えてきたのは“過酷な労働環境”だ。

 【アンケートの回答より】
 「人手不足で過酷な環境になっている」
 「給料安い」
 「支援員も疲れている。心と身体に余裕がなければ、人に優しくなんて出来る訳がない」

 ほとんどの職員が「人手不足」「労働時間の長さ」「賃金の安さ」などを指摘。こうした状況による“余裕のなさ”が虐待につながるとする職員もいた。そして、虐待行為を見たり聞いたりしたことがあるか、という問いに対しては…
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 【アンケートの回答より】
 「あります」
 「施設でありました」

 回答のあった22人のうち半数の11人が見たり聞いたりしたことがあるとした。

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