能登半島地震の被災地で次の住まいの見通しが立たず、今も車中泊や避難所暮らしを余儀なくされている人たちがいる。仮設住宅に入居できず、自宅にも戻れない。支援制度の隙間にある被災者には、丁寧な個別対応が求められている。(奥田哲平)

◆アパート退去を求められ

 石川県輪島市の道の駅「ふらっと訪夢」の駐車場で19日夜、軽ワゴン車の中で男性(66)が寝泊まりしていた。助手席のシートを倒して横になり、足裏がフロントガラスに付くほど。「足を伸ばしてゆっくり寝たいな」と力なく笑った。

今も車中泊を続ける男性。助手席のシートを倒して横になる=19日、石川県輪島市で(奥田哲平撮影)

 男性は地震発生時に市内の2階建てアパートに1人で暮らしていた。指定避難所は住民であふれ、感染症を心配して車中泊が始まった。アパートの建物は損壊程度が低い「準半壊」だったため、電気と水道が復旧した3月初旬に戻った。  だが、取り壊す意向の大家から退去を求められた。避難所に身を寄せようとすると、管理者から「新規の受け入れはしない」と告げられ、再び車中泊に。すぐにオンラインで仮設住宅への入居を申し込んだ。

◆窓を閉めてエアコンを切り…

 「家がないんだから、入れるものだと思っていた」。仮設住宅の入居要件が、罹災(りさい)証明で「半壊」以上が対象なのを知らなかった。  寝泊まりする場所を転々とし、日中は風が通る日陰を選んで過ごす。道の駅などのトイレを使って顔を洗い、友人宅などでシャワーを借りる。猛暑の車中泊は過酷だ。蚊が入ってくるため、窓を閉め、ガソリンが減るのを抑えるために途中でエアコンを切り、寝ている途中で汗だくになる。

石川県輪島市内の仮設住宅

 輪島市の担当課によると、開設中の避難所は「2次避難先から仮設住宅入居が決まり、生活準備のため滞在する被災者」だけに新規の受け入れを認めている。男性のようなケースは「新しいアパートを探してくださいとしか言いようがない」という。

◆「準半壊」は入居要件満たさず

 だが、市内の民間賃貸住宅は被災し、空室がない。男性は「この先、どこに住めるのか」とつぶやく。  輪島市内の避難所で生活する女性(76)も「八方ふさがりだ」と悩む。2階建ての自宅の床は傾き、裏山の擁壁が割れた裂け目が駐車場のアスファルトにまで延びている。「崖が崩れるのが怖い」と自宅に戻らずに仮設住宅を望むが、被害は「準半壊」とされ入居要件を満たさない。現在は不服を申し立てて3次調査を待っている。  仮設住宅入居や被災者生活再建支援金などの支援は、「半壊」以上と「準半壊」「一部損壊」では格差が大きい。

◆年金生活では自宅再建もできない

 「準半壊では仮設住宅も入れず、アパートもない。年金生活では自宅再建もできない。避難所が閉鎖されたら、どこに行けばいいのだろう」と女性は嘆く。  輪島市は仮設住宅建設が完了する予定の8月末をめどに避難所を閉鎖する方針。ただ、山本利治企画振興部長は16日に「すぐに自宅に戻れない人は、集約しながらお世話をする場面が出てくるだろう」と話し、個別に福祉的支援を検討しているという。 

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