全国的に感染の拡大傾向が見え始め「第11波」に入ったとの見方もある新型コロナウイルス。いま主流となっている「KP.3株」について、現時点で分かっていることを長崎大学高度感染症研究センターの森内浩幸センター長に聞きました。

新型コロナウイルスの「KP.3株」とはどんなウイルス?

「新型コロナウイルスはどんどん変異を繰り返している。最初に武漢から出たものから『アルファ』、『デルタ』、『オミクロン』になり、オミクロンの中でも『BA.1』、『BA.2』と変異してきた」

「いま流行している『KP.3』は『BA.2』の子孫の子孫がさらに変異したもの。オミクロン株という大きなグループの中での変異が続いている」

すでにゲノムの1%が変異した

「『武漢株』が生まれてから今の『KP.3株』に至るまでの変異を全部合わせるとゲノム構造の1%を超えている。人とチンパンジーのゲノムの違いが1%。《種の違い》がある程の変異が既に起きたことになる」

「当初のウイルスに対して免疫を持っている人でも、完全に逃れることはできない。これは新型コロナに限ったことではなく、インフルエンザでも他の風邪ウイルスでも同じ。一度かかれば終生免疫のできる「はしか」や「水疱瘡」のような病気とは違って、いわゆる風邪のウイルスは何度もかかる宿命にある」

■「KP.3株」毒性や感染力は?

「生き残るウイルスは必ず他のウイルスに比べて感染が広がりやすくなっている。変異によって、既に私達が実際に関わったりワクチンによって身につけた免疫からすり抜ける力が強くなっている。「KP.3」がしばらくの間は中心となって流行が起こるだろう」

「ウイルス自体の『病原性』『毒性』は従来株と極端な違いはない
「デルタ株までは一気に肺炎が酷くなって命を落とすような病気だったが、オミクロン以降はインフルエンザと同じように、高齢者が感染することで寝たきりになり誤嚥性肺炎を起こすとか、元々持ってる基礎疾患が悪化することなどによって命に関わるケースが出ている」

「健康な大人や子供たちにとっては、それほど深刻なウイルスだということではない。一方で高齢者や基礎疾患を持っている人などリスクの高い人たちの感染には気をつける必要があるということだ」

「久しぶりに孫に会いたいおじいちゃん・おばあちゃんたちがコロナを理由に諦める必要はないが、会いに行く孫や子どもは感染リスクが上がるような行動はできるだけ慎む必要がある」

「病状はウイルスの特性より、その人がどういう免疫状態、体調にあるか、基礎疾患はどうであるかなどの組み合わせによって変わってくる」

「KP.3」への感染は症状で分かるのか?

「《より高い熱が出る》とか《喉がより痛くなる》などの話もあるが『本当に他の株の流行の時と比べて明らかな違いがあるか?』というと、何となくそういう傾向があるかもしれないね、という程度」

「インフルエンザや他の風邪と極端に違いがあると捉える必要はない。唯一コロナ感染でかなり特徴的だった《嗅覚や味覚の障害》はオミクロン以降は相当少なくなっている。まずそういったことは区別をつける上では役に立たない」

熱中症との区別はつきにくい?

「それはそうだと思う。熱が出るし体がぐたっとなるのは、熱中症でもコロナやインフルエンザのひどい時でも全く変わりはない

「当初から分かっているように、このウイルスは3密の中で広がりやすい。日本の夏は過酷なので、当然屋内に入って窓を閉め切って冷房をつける。換気をする機会が減る。その中で人から人へのウイルスの伝播は起こりやすくなっている。《換気》も《熱中症対策》も大事なのでそのバランスが難しいところだ」

感染が疑われたらとるべき行動は?

「高齢者や基礎疾患を持っている方でなければ慌てる必要はない。診断を絶対につけないといけないということでもない。検査のために病院に殺到することで医療が逼迫する恐れが出てくるのは本末転倒だ」

「一方で新型コロナが厄介なのは症状のない人からでも感染が拡大すること。仮に病院に行かないという選択肢を取るのであれば、少なくとも《症状が完全に良くなるまで》はおとなしく家で過ごす。少しでも症状があったらその間は職場であれ学校であれ休む。それだけでも感染の拡大はかなり抑えられる。とにかくリスクの高い人を守るということに専念すべき」

妊娠中の人のリスクは高いのか?

「妊娠していない同じ年齢の女性に比べると、当然リスクは高くなると思う。ただ、ものすごく高いわけではないのですごく心配する必要はない。できるだけ感染しないように、感染が疑われた場合はちゃんと診断をつけることを心がけるといいと思う」

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