静岡放送の前ニュース編集長で現ディレクターの増田哲也(41)が第2子誕生を機に育休を取得し、日々の体験を日誌に書き留めた。専業主婦の妻に家事育児のほぼ全てを任せてきた増田にもたらされた変化とはー。増田とは対照的に夫婦共働きで家事育児を担う同ディレクターの伊豆田有希(41)が日誌を読み、「仕事と育児」について増田と対話した。

<シリーズ全6回>
【1】妻は上司 /【2】「休めた?」にモヤっ /【3】妻への嫉妬?/【4】「育休は逃げだ!」 /【5】隙間時間は結局仕事 /【6】育休終えての結論

(伊豆田)
日々時間を共にするからこそ見えることってあるよね。育休を終えてどう?

(増田)
すっかり元通り。“会社員”に戻れた。育休前、育休中に感じた不安は何だったんだ?っていうくらいに。

(伊豆田)
連載2回目の「職場で自分が必要とされなくなる不安」「居場所がなくなる不安」のことね。

(増田)
自分の存在意義を長らく仕事、職場に依存してきたことを痛感したね。そして、育休から復帰した自分の指針となっている言葉は、「金を残すは三流、名を残すは二流、人を残すは一流」(元プロ野球監督 故・野村克也さんの座右の銘)。自分の名が残るような仕事をして、それを2人の子どもたちにもいつか見てもらえたら。

(伊豆田)
育休終えての感想が「もっと仕事を残さねば」? なぜそうなるんだろう…。我が子に残したいものも仕事なんだ。まぁ、増田の奥さんと子どもたちがそれでいいなら、いいけどね。他人の私がつべこべ言うことでもないしね。それにしても、家族への向き合い方に変化はなかったの?

「戦力外の自分でさえ、多少は…」

(増田)
子どもの成長を見るのが、こんなにも楽しいことなんだというのは、育休を取らなければ分からなかったと思う。長男ツンと次男タダチン、2人の成長や人生にすごく興味を持った。自分の父や祖父はきっと、子育てにこれほどの楽しさがあるとは知らなかっただろうな。増田家の男における“進化”だと思う。

(伊豆田)
それはすごい進化だね!…じゃなくて、逆にツンくんが生まれてからのこの2年、増田は一体何をしてたの?と突っ込みたくなる。せっかく子どもを授かったのに、究極の楽しみを知らないまま子育てを卒業してしまったらもったいない。良かったね、2年で気付けて。

で、これから育休を取るか迷ってる後輩がいたら、どうアドバイスする? 連載4回目に登場したYくんに言い放ったように、「育休は逃げだ」なんて発言はもうしないよね?

(増田)
うん。しないと思う。もし、育休取得について迷っている後輩が、自分のように育休中も頭の半分で仕事のことを考えてしまうタイプなら「大丈夫。育休の経験はきっと仕事に活かせるから」と勧める。

自分と違って、日頃からすでに家庭の“戦力”になっていそうな人には「絶対取った方がいい。戦力外の自分でさえ、多少は妻に頼られたんだから」と言うかな。どっちのタイプだとしても、背中を押すよ。

(伊豆田)
いいじゃん。父親としてだけでなく、会社員としても進化したんじゃない?

(増田)
ありきたりかもしれないけど、子育てをしながら働いている女性の、いわゆる苦労は妻を見ながら肌で感じた。

「子どもが熱を出したから保育園に迎えにいかないと」「風邪の子どもを看るために在宅で働く」そういう、一時的に否応なく仕事を離脱せざるを得ない場面は、より具体的にイメージできるようになった。イメージする映像の解像度が上がった感じ。

男性社員に対してはどうなんだろう・・・目に見えた進化かは分からないけど、自分が言われて嫌だった「(育休中に)休めてる?」や「育休取得できるならもっと休んだ方がいいよ」といったことは後輩には言わないと思う。それだけでも進化と言えるのかな。

(伊豆田)
うん。大きくはないけど、着実な進化だと思う。
私は別に、「子育てしながら働く女性は大変だ」「共働きで子育てしてる男性は大変だ」と主張したいわけじゃない。それ以前に、子育てしながら働いている人だけが大変だなんて思ってない。子育てしている人、家族の介護をしている人、自身が病気を抱えている人…周りからは見えないけど「仕事だけ」を生活の主軸にできない人、しない人はたくさんいるよね。

増田はバリバリ働いてきたから、これから管理職になるかもしれない。その時に必要となる、社員一人ひとりが抱える事情に対する想像力を、育休中に“強化”したんじゃないかな。

何より、一時的にでも家族とじっくり向き合ったことで、増田の人生そのものがより豊かになったらしいことを確認できたのが、対話の一番の収穫だったよ。

(増田)
ありがとう。あー、この記事を妻が見たらどう思うんだろうか。会社も、家庭も、気を抜ける瞬間は少ないな。

(伊豆田)
いや、気を抜いてよ。気を抜いてくれないと、周りがしんどいから(笑)

プロフィール
増田哲也:静岡県牧之原市生まれ。2005年静岡放送入社。社会部記者や編成、営業を経て、2022年から夕方ニュース番組「LIVEしずおか」編集長。2024年4月からバラエティーやドキュメンタリーを制作するディレクターに。アスリート、会社員を経て現在は専業主婦の妻、長男ツン(2)、次男タダチン(0)と4人暮らし。近所に頼れる親族はなく、長男の誕生以降、家事育児は妻が担ってきた。2024年4月の次男誕生をきっかけに約1か月半の育児休業を取得。

伊豆田有希:広島県福山市生まれ。静岡新聞などで18年間新聞記者。人事異動で2023年から静岡放送報道部の記者兼ディレクター。小学生の長男(11)、次男(8)、保育園児の長女(5)、メーカー勤務で遠距離通勤の夫と5人暮らし。2023年3月まで9年間、短時間勤務制度を利用した。次男と長女の誕生後はそれぞれ1か月ずつ、夫も休みを取得。現在は夫が週2日在宅勤務。2週に1回は家事代行業に頼りながら、夫婦2人で家事育児を分担している。

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