東京都知事選のポスターを巡る問題を受け、鳥取県の平井伸治知事は18日の記者会見で、条例制定を視野に独自の対策を検討すると表明した。都知事選では掲示板に候補者と無関係なポスターが大量に張られるなどして物議を醸した。どんな条例を想定しているのか興味深いが、そもそも自治体独自に規制を設ける話なのか。選挙運動の自由との兼ね合いはどうなっていくのか。(曽田晋太郎)

◆今の公職選挙法の規定を基に対処できると説明

鳥取県の平井伸治知事

 「選挙が民主主義、地方自治の大切な基盤として今後健全な発達を遂げていくよう、私どもも最善の措置を取るべきだろうと思う」。公職選挙法を所管する総務省の官僚だった平井知事は18日の記者会見で、条例制定を検討する理由について、こう説明した。  都知事選では無関係なポスターがはびこっただけでなく、掲示板の枠が売買の対象にもされた。平井知事は「憂慮にたえない」としつつ「公選法の運用上、仕方ないと諦めている状況がある。集団催眠にかかっているのではないか」と、都選管の対応への批判もにじませた。  公選法では、公職の候補者は選挙運動ポスターを掲示場に各1枚掲示できると定めている。平井知事はこうした現行法の規定を基に、無関係ポスターなどに対処できると主張する。  条例は「公選法の解釈運用を徹底する」という理念のもと、掲示板の営利目的利用の禁止を明確化し、選挙運動目的ではないポスターについては、所管の選挙管理委員会が掲示しないように求めるほか、管理権に基づいて撤去させられることを盛り込む方針だという。

◆「早ければ9月議会で条例案を提出」

東京都知事選で、同一のポスターが多く張られた掲示板=7月、東京都中野区で

 平井知事は「選挙は常に執行されるので、できるだけ即効性を出した方がいい」とし、早ければ9月議会での条例案提出を目指す。一方で、罰則は設けず義務規定にとどめる考えも示している。「条例の検討が全国にも注意喚起、問題意識の高揚を図っていくきっかけになれば」と望んだ。  都知事選のポスターの問題を受け、福岡県の服部誠太郎知事が「選挙や政治と関係ない内容には何らかの規制をかけるなど選挙制度を見直す必要がある」、熊本市の大西一史市長が「公選法は大きな見直しの時期に来ている」と述べるなど、他の首長からも対策を求める声が上がる。  国政レベルで与野党も公選法改正による規制強化を主張しているが、法改正を待たずに条例制定で対策を図る鳥取県の姿勢は、現状に一石を投じそうだ。ただ、個別の自治体レベルで規制するのは適当なのか。

◆「選挙の条件が地域で異なるのは平等原則に反する」との声も

特定団体のポスターが掲示板のスペースを大きく占めた東京都知事選の掲示板=東京都新宿区で

 一橋大大学院の只野雅人教授(憲法学)は「そもそも公選法は選挙運動の自由を規制する法律で、かなり細かく最大限の規制をしている。法律の立て付けや性格を考えると、条例で規制を上乗せするのは難しいのでは」と指摘。「鳥取県だけ特に規制をしなければならない強い事実があるかという問題もある。選挙運動の自由の規制は慎重にやらなければならず、さまざまな法解釈の余地はあるが、簡単にはいかない部分もある。まずは法改正を含めた国の検討に任せるべきだ」と主張する。  法政大大学院の白鳥浩教授(現代政治分析)も「選挙の条件が地域によって異なるのは投票者の公平性や投票の平等原則に反する。また、選管なり県当局が営利目的かどうか判断すること自体が検閲に当たる可能性が高く、表現の自由に大きく抵触する可能性がある」と問題点を指摘。「国政選挙を考えると地域レベルでやるのではなく、全国的な議論をすべきだ。条例化や法改正をすると、場合によっては知る権利や表現の自由が侵される可能性もあるので、慎重な議論が必要。まずは現行法でできることを考えた方がいい」と話した。 

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