アメリカ大リーグで活躍する大谷翔平選手の地元、岩手県の旧水沢市(現奥州市)。大谷フィーバーに沸く中、改めてその功績が見直される水沢ゆかりの偉人がいる。元東京市長で、関東大震災後の帝都復興院の初代総裁などを歴任した後藤新平(1857~1929年)だ。国民に有権者としての自覚を促す運動で、全国行脚した言葉は現代にも刺さる。改めて後藤の言葉を振り返る。(木原育子)

◆東京市長や復興院の総裁を歴任した後藤新平

 7月上旬、旧水沢市内。「SHO―TIME」と書かれたポスターや大谷選手の等身大パネルが至る所に立つ。市役所ロビーには南部鉄器の鋳造技術を用いた黄金の握手像が設置され、行列ができていた。

当時の貴重な資料が並ぶ後藤新平記念館=岩手県奥州市で

 その市役所近くにある市立後藤新平記念館。仙台市の畠山司さん(57)は「今の時代もこんなリーダーがいたらと思わずにはいられない」と興味津々。学芸調査員の佐々木菖子さん(38)は「大谷選手の人気はもちろんですが、同じ郷土の後藤新平に目を向けてもらえたら」と話す。  後藤はもともと水沢の医家出身の医師で、日清戦争後の検疫事業に尽力。頭角を現し、南満州鉄道初代総裁、逓信相、外相、東京市長を経て、復興院初代総裁などを歴任。関東大震災の朝鮮人虐殺では、朝鮮人の取り締まりを命じた警視総監を更迭させた。

◆クリーンな政治の実現を訴え全国行脚

 多くの人が注目するのが、1926年から全国行脚して政治を問う「政治の倫理化」運動で生まれた後藤の言葉の数々だ。  「政党がただ頭数を問題とし、政権獲得のみを目的とするとき、その立憲政治の弊害はかえってそこに発生する」  前年に納税額の規定をなくした普通選挙法(25歳以上の男子)ができたが、当時は汚職や投票買収など腐敗政治が横行し、政党政治への批判は高かった。

◆政治家へ痛烈なダメ出し 有権者にも自覚を求めた

 「政治とカネ」に終止符を打てず、政治不信も大きい現代にも重なる。

当時の貴重な資料が並ぶ後藤新平記念館=岩手県奥州市で

 「政治が金の力の第一義となれば、現在のごとく俗悪なる政治、物質萬能の非倫理なる政治で邪道に陥ることを免れません」  「政治の倫理化」は政治家の糾弾だけでなく、国民に有権者としての自覚を促す試みだった。  「むしろ国民自ら省みて各自救世主として立つの決心が必要ではないか」「濁った政治界を倫理化し浄化して、もって社会を一新せんがために各々(おのおの)自ら任ぜらるることだ」

◆「国民が奮起し政党が覚醒するにあらずんば、悔を千載に残す」

 後藤の功績をたたえる市民の会は東京都に加え、医学部時代を過ごした愛知県など4カ所にある。奥州市の人らでつくる後藤新平顕彰会副会長の佐藤一晶さん(74)は「困難な事業を次々にこなすスーパーマンのような人。時代を経てもこんなに市民に愛される政治家も珍しい」と話す。  元都副知事で後藤に詳しい明治大の青山佾(やすし)名誉教授は「東京市長時代、『市民一人一人が市長だ』と訴えるなど、民主的な発言が多く、政党政治の問題点も100年前から指摘した。行政と政治が緊張関係にある必要性も訴えた。今後の小池都政で参考にすべき点だろう」と続ける。  「政治の倫理化」運動を後藤はこう締めくくった。  「国民が奮起し政党が覚醒するにあらずんば、悔を千載に残すようになるぞ」 

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