症状の改善がないのに障害基礎年金の支給を打ち切られた1型糖尿病患者らが、異例の「再提訴」を経て、国に支給再開を求めていた裁判の控訴審。大阪高裁は4月19日、1審判決を取り消し、全患者への支給再開を国に命じました。

 糖尿病は大きく「1型」と「2型」に分類されます。生活習慣が大きく影響する2型糖尿病に対し、1型糖尿病は、免疫機能の異常によって、すい臓の細胞が破壊されインスリン(血糖値を下げるホルモン)が分泌されなくなる病気です。

 幼少期・若年期での発症が多く、インスリン注射などが生涯必須となります。さらに、逆に低血糖になることによる神経機能低下といった、副作用にも苦しめられます。現在の医療では“不治の病”とされています。

 大阪府などに住む9人は、未成年で1型糖尿病を発症。「障害等級2級」にあたるとして、年間78万~100万円の障害基礎年金を受給していました。症状の改善も現在まで見られません。

 ところが国は2016年12月までに、9人が「障害等級3級にあたる」として、障害基礎年金の支給を停止しました(年金の支給対象は障害等級1級・2級)。

 実は国は2016年、糖尿病をめぐり、障害等級の認定要領を “厳格化” しました。しかし9人への通知書には、認定を3級に変えた具体的な理由は記されていませんでした。

 9人は支給停止処分の取り消しを求めて大阪地裁に提訴。

 裁判で国は、▽年金給付の処分数は膨大で、通知内容は定型化せざるをえない ▽原告らの障害は、日常生活が極めて困難で、労働収入を得られない程度(=2級相当)とは認められない と反論しました。

 しかし大阪地裁は2019年4月の判決で、「通知書は結論のみを示したものと評されても、やむをえないほど簡素」「行政手続法が定める理由提示の要件を欠いた、違法な処分だ」として、支給を停止した処分の取り消しを国に命じました。

 一方で地裁は、原告らの症状が、障害等級2級か3級のどちらにあてはまるかは判断しませんでした。

 国は控訴せず、判決は確定。ところが国は「判決はあくまで通知書の不備を問題にしたもの」として、理由説明を付けた上で、改めて年金を支給しない処分を患者9人に通知しました。

 患者側は反発し、2019年7月、異例の“再提訴”に踏み切ります。

 2回目の裁判で9人は「改めて理由を付けて同じ内容の処分をするのが許されるなら、行政庁の判断を抑制できない」などと主張しました。

 しかし大阪地裁は2021年5月の判決で、それらの主張を退け、改定後の認定要領を重視するなどして、9人の症状を個別に検討。

 障害等級2級に該当すると判断した1人についてのみ、支給停止処分の取り消しを国に命じました。

 1回目の裁判から一転、支給再開が認められなかった患者8人は、大阪高裁に控訴。

 控訴審で患者側は、
 ▽1審判決は、過去の就労経験を重視し、患者の労働能力の程度を乱暴に推認した
 ▽糖尿病をめぐる障害等級の認定要領は、ほかの障害と比べても厳しすぎる 
 ▽グルカゴンというホルモンの分泌異常で血糖値が乱高下する点など、糖尿病をめぐる最新の医学的知見に基づき、血糖コントロールの難しさを評価すべき
などと主張していました。

 大阪高裁は4月19日、「糖尿病については、認定要領で障害等級3級の具体的基準は示されているが、2級の具体的基準は示されていない」と指摘した上で、「8人の血糖コントロールの状態・症状や日常生活の状況を詳細に検討すれば、個人差はあれど、『日常生活が著しい制限を受ける』程度=障害等級2級にあたると認められる」として、8人全員について、障害基礎年金の支給を再開するよう国に命じました。

 判決言い渡しが終わると、傍聴席から拍手が起きました。

 判決を受けて国は「判決内容の詳細は承知していませんが、8人全員の支給が認められたと聞いております。今後は関係省庁において判決内容を精査した上で対応していきたい」とコメントしています。

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