世界平和統一家庭連合(旧統一教会)側の違法な勧誘で高額献金被害に遭ったとして、元信者の女性の遺族が教団側に約6500万円の損害賠償を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷(堺徹裁判長)は11日、女性が「損害賠償請求を一切しない」と書いた念書を「公序良俗に反し無効」とする初めての判断を示した。

◆審理を差し戻し、裁判官5人が全員一致

旧統一教会の献金被害を巡る損害賠償訴訟の最高裁判決を受け、記者会見する原告女性(手前)と弁護団=11日、東京・霞が関の司法記者クラブで

 献金勧誘の違法性はさらに審理が必要として、教団勝訴の二審判決を破棄し、審理を東京高裁に差し戻した。裁判官5人の全員一致の意見。念書を書いた元信者は複数おり、今後の同種訴訟への影響は必至だ。  小法廷は「訴訟を起こさない」といった合意の有効性を判断するには、合意の経緯や目的、当事者の不利益の程度などを考慮すべきだとした。  その上で、女性は念書作成時に86歳の単身者で、約半年後に認知症と診断されたほか、約10年間で1億円超を献金するなど「教団の心理的な影響下にあった」と認定。念書は文案を信者が作るなど教団側が締結を主導し、女性が合理的に判断することが難しい状態だったことを利用して一方的に大きな不利益を与えるもので、「公序良俗に反して無効」と結論付けた。

◆「勧誘が相当な範囲を逸脱する場合は違法」と初判断

 また、献金の勧誘行為の違法性については「勧誘のあり方が社会通念上、相当な範囲を逸脱する場合は違法」との判断枠組みを初めて明示した。女性は土地を売却してまで献金するなど「献金の態様は異例。将来の生活維持に無視しがたい影響を及ぼした」と認定。最高裁が示した判断枠組みに沿って高裁で審理を尽くす必要があるとした。  訴訟は、2017年に女性と長女が起こし、女性は二審で係争中の21年7月に死去した。一、二審判決は、女性には正常な判断力があり念書は有効と判断し、訴えを退けていた。  判決後、教団側は「当法人の主張の正しさを差し戻し審でも主張していく」との声明を出した。(太田理英子)  ◇  ◇

◆信者の長女「やっとまっとうな判決出た」

 「長い年月がかかったが、やっとまっとうな判決が出た」。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)による高額献金を巡り、最高裁は11日、「返金や賠償を求めない」との念書を無効とした。信者だった女性の長女=60代=は判決後、東京都内で記者会見し、安堵(あんど)した様子で語った。  一、二審判決は、教団側の主張通り、女性には正常な判断能力があり、不安をあおるような献金の勧誘行為もなかったと判断。同様の被害が各地で起きている実態も考慮されなかった。女性は二審で係争中の2021年7月、91歳で死去。「地裁でまともな判決が出ていれば母に聞かせてあげることができたのに」と長女はこぼした。

◆「教団側は念書を取りにくくなる」と原告側は評価

 原告側弁護団は今回の最高裁判決について、「従前の一面的判断を是正してくれた。新たな判断枠組みが示されたのは画期的で、教団側は念書を取りにくくなる」と高く評価した。  弁護団によると、信者だった人が献金を巡り訴訟を起こさないとする念書や合意書を作らされたケースは十数件確認されている。いずれも、教団が強引な勧誘を改める「コンプライアンス(法令順守)宣言」をした09年以降で、「賠償責任を逃れる目的」とみる。

◆念書を理由にあきらめていた人も「相談を」

今回の原告とは別の被害者が弁護団に提供した念書のコピー

 元信者らが教団側に損害賠償を求めた訴訟で念書や合意書の有効性が争点となったのは、今回も含めて5件あり、有効性について判断は分かれている。木村壮弁護士は「最高裁判決は、どういう状況で作成されたのかも判断するよう示した。今後の訴訟でも大きな指針になる」と期待を込めた。弁護団は、東京地裁で審理中の教団への解散命令請求についても一定の影響があると見る。  全国統一教会被害対策弁護団の村越進団長は「これまで念書を理由に被害回復をあきらめていた人はたくさんいたはず。この判決を機に、相談を寄せてほしい」と呼びかけた。(太田理英子)


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