<Q> メダカやフナ、イワナなどの淡水魚は、川がつながっていないのに、なぜ日本の各地にいるのですか=岐阜県中津川市、73歳女性 <A> 人の手で各地に放流された魚もいますが、ふつうは移動できません。とはいえ機会がないわけでもないのです。  まず大雨。氾濫で隣り合う川がつながったり、大量の雨水で湾などの塩分濃度が一時的に下がり海を経て別の川に移ったりすることもあるといいます。  次は、海水面の高さの変化。極地の氷床や氷河が拡大する「氷期」には、海水面が低くなり陸地が広がります。約2万年前は、今より海水面が100メートル以上低かったといいます。すると、現在は独立した複数の河川が、当時は一つの川の支流だったということも起こります。昔は淡水魚が行き来できたというわけです。  三つ目は川どうしの「争い」です。流れが急で浸食の激しい川は、川と川を隔てる分水嶺(れい)を切り崩して、隣の川と接触することがあります。そして接触した相手の流域の一部を奪うのです。これを河川争奪といいます。このとき移動が起こる可能性があります。太平洋側に注ぐ川の上流域が、日本海側に注ぐ川に奪われることも、その逆もあります。太平洋側と日本海側の移動も起こり得るのです。  これらの移動は、数百年から数十万年という時間スケールで起きます。逆に、淡水魚はそれだけ長い間、それぞれの川に閉じ込められているということです。淡水魚はその間に、川の水温やそこにすむ天敵などに適応して進化します。こうして河川ごとの多様性が生まれます。同じヤマメやメダカでも遺伝子レベルで見れば地域差があり習性も異なるのです。  淡水魚の進化や保全に詳しい渡辺勝敏京都大教授は「各地域で長年にわたって育まれてきた地域個体群の歴史がある。それが別の環境に適応した外来の同種の個体に置き換わったり、混ざったりすることで失われると、今後に引き継がれなくなる。その結果、その地域での存続も危ぶまれることになる」と話します。  淡水魚は長い年月をかけて分布を広げたのです。それを人の手で簡単に移動させることは、多様性や川の生態系までも乱すことになりかねません。 (永井理) 

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