止まらない“超円安”で海外旅行は割高、国内旅行先も、羽振りの良い外国人旅行客と宿や食事の席を競わなければならず、今年の夏休みの旅行を楽しくするためにはなにか工夫が必要なようです。経済的負担もほとんどなく、何年にもわたって旅の楽しさが続く工夫をご提案します。それが「旅の思い出手帖」作りです。

作り方はいたって簡単。チェックインの際にフロントにB5サイズ程度の手帖を渡し、チェックアウト時に受け取るだけ。旅館やホテルのスタッフが手帖に宿の名前、宿泊日、そして自由にメッセージをしたためてくれます。実はこの「旅の思い出手帖」、旅の達人たちの中では割と知られた“習慣”なんだそうです。2000年から始め、いまや集まった手帖は10冊に迫るというエキスパートに「思い出のページ」の魅力や、始め方、ページの増やし方のコツなどを教えてもらいました。

プロの添乗員が一目惚れ「これからは、これだ!」

「ある旅行で、チェックインの際にフロントにノートのような物を手渡しているお客さんに気が付きました。『何をお渡したのですか』と聞いた答えが手帖だったのです」静岡市の大手旅行代理店で長年添乗員を務めた扇(おおぎ)英樹さん(67)は、そのお客さんに「旅行に行くたびに手帖に記入してもらっている」と教えてもらいます。そして、それぞれの旅館やホテルのスタッフが、土地に伝わる詩歌や、施設が掲げる「おもてなしへの考え方」などが手書きされたページを見せてもらったそうです。「それまでは国内外各地に添乗するたびに地名の入ったキーホルダーなどを買い求めていたのですが、手帖を知り、集めるならこれだと思いました」ときっかけを語ります。

扇さんが集めた手帖

訪れた310軒中、断られた宿泊施設はゼロ。客船もOK

しかし、どの宿泊施設でも手帖への記入の申し出を受け入れてくれるのでしょうか。「中には初めて手帖を知ったビジネスホテルもありましたが、書いてもらいたい内容を説明すると、快く受け取ってくれました。断られたことはありません」と合計310軒の宿泊施設で書き込みを依頼した扇さんは説明します。

アパホテル天王寺駅前(扇さん提供)

手帖の習慣がないと思われた海外旅行にも持参し、現地の通訳ガイドを通して依頼すると、どのホテルでも断られることなく書いてくれたそうです。「客船『さんふらわあ』での大阪港から別府港までの1泊のナイトクルーズでも、船内フロントが受け付けてくれましたよ」。表立っては知られていませんが宿泊施設の長年の習わしとして「手帖」に対応しているそうです。

客船でも受け付けてくれます
それぞれの宿泊施設の個性が光ります

天皇陛下の歌から料理のイラストまで、施設のプライドがずらり

扇さんのコレクションを見せてもらうと、それぞれの宿泊施設の個性が表現されたページが続きます。力強い筆使いで、オリジナルの歌を詠み、地元名士のイラストを添えたり、名物料理のイラスト、宿泊への感謝のメッセージを綴ったりするなどなどさまざま。宿坊はご詠歌や経典からの一節を引用、宿泊された昭和天皇が残した御製(ぎょせい)を引き継いでいるホテルもあるそうです。

徳島県の宿坊、温泉山安楽寺(扇さん提供)

伊豆市の老舗旅館「おちあいろう」では以前は書家免状を持った人が、季語と周辺の自然の様子や感謝の言葉をアレンジしていたそうですが、今はスタッフの若い女性が持ち回りで、与謝野晶子が詠んだ短歌をしたためているということです。

与謝野晶子がおちあいろうを詠んだ歌

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