目の不自由な人が自分で投票できるよう手助けしたい―。視覚障害者をサポートしている日本点字図書館(東京都新宿区)は、投票用紙の記入部分が手触りで確認できる補助具を作り、東京都内の自治体を中心に利用を呼びかけている。このうち23区の中では12区が同館の補助具を導入し、さらに4区が独自に作成。7日投開票の都知事選で使われる。(山下洋史)

日本点字図書館が作った補助具。投票用紙の記入部分が指で分かるようになっている=6月27日、東京都豊島区で

 視覚障害者の投票方法 公選法では、投票者が自ら候補者名を書くと規定。視覚に障害のある人のことを考慮して、点字での投票と、選挙管理委員会の担当者が代わりに記入する代理投票を認めている。補助具の利用は自治体の裁量で認められている。

◆触れば候補者名を書く場所が分かる

 補助具はプラスチック製のファイルで、候補者の名前を書く部分だけ切り抜いており、表面を手で触れば名前を書く位置が分かる仕組み。  今年4月に作成し、1枚250~390円(税別、購入枚数に応じて値引き)で販売している。これまで、関東地方1都6県では17自治体に約3000枚を販売した。

視覚障害者の投票を助ける日本点字図書館が作った補助具

 補助具を導入する東京の16区では、都知事選の投開票日の全投票所に加え、期日前投票所でも利用できるようにした。事前の申し出も不要。7日投開票の都議補選でも使える。

◆介助で「誰に投票したか知られる」

 目黒区選管の担当者によると、これまでに利用した人から「視覚に障害のある知人に伝えたい。投票のハードルを下げられる」との声が寄せられている。  日本視覚障害者団体連合によると、視覚障害がある人は健常者に比べ、投票に行きづらい環境にある。そもそも選挙の時期などの情報を事前に把握しづらく、投票所までの介助を事前に頼まないといけないからだ。投票用紙に候補者名を自分で書くのが難しく、介助してもらうことで誰に投票したか他人に知られてしまうことも理由に挙げられるという。

◆当事者の訴えで厚木市などが導入

目黒区選管が自作した記入補助具と模擬投票用紙

 同様の補助具は神奈川県厚木市などが先行して導入してきた。目が不自由な同市内の柏木容子さん(65)から「自分で投票したい」と対応を求められたのがきっかけだった。神奈川県は厚木市の取り組みを参考に、県内すべての自治体に補助具の導入を呼びかけている。  点字図書館生活支援部の島田延明部長(49)は「自分で投票するのが難しく、投票を諦めてしまう人が多い」と指摘。「補助具を導入する自治体が増えて、視覚障害者が投票しやすい環境が全国に広がってほしい」と話した。 <都内で補助具を導入した16区> 中央区、港区、新宿区、文京区、台東区、墨田区、目黒区、世田谷区、中野区、杉並区、豊島区、北区、荒川区、板橋区、練馬区、江戸川区   ◇  ◇

◆一般の人と同じブース「ストレスなく投票できた」

 豊島区盲人福祉協会の市原寛一会長(57)は6月下旬、期日前投票で区役所を訪れ、補助具を初めて利用した。2001年から強度の弱視となり、これまでは代筆や点字で投票していた。(中村真暁)

補助具を使い自筆で投票する市原寛一さん=6月27日、東京都豊島区で

 市原さんは職員に投票用紙を挟んだ状態で補助具を手渡され、一般の投票ブースへ。記入欄を指で確認し、候補者名の文字を思い出して記入した。点字投票は専用の場所で専用器具などを使う必要があり、「否定はしないが、特別な感じにちょっと気持ちがざわついた。一般の人と同じブースで、ストレスなく投票できてよかった」とほっとしていた。  補助具を初めて導入した区選挙管理委員会は、障害者団体に意見を聞くなど準備を進めてきた。増子嘉英(ましこ・よしひで)事務局長は「不安なく投票できる一助となれば」と期待を込めた。 

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