旧優生保護法のもと不妊手術を強制された人たちが国に損害賠償を求めた一連の裁判について、3日最高裁判所大法廷は「除斥期間」の適用を「著しく正義・公平の理念に反し到底容認できない」として、国の賠償責任を認める判決を言い渡しました。
民法の除斥期間は「不法行為から20年がたつと賠償請求権がなくなる」と定めています。
1968年に発覚した戦後最悪の食中毒事件と言われるカネミ油症事件では、発覚から30年以上たってようやく患者と認められた新認定の被害者が2008年に加害企業を相手に起こした損害賠償請求訴訟で「除斥期間」が適用され、54人の原告は《患者と認められる前》に賠償請求権が無くなっていたとする判断が2015年に最高裁で確定しました。
原告の1人だった福岡県に住む森田安子さんは、不妊手術を強制された被害者の訴えに「除斥期間を適用しない」とした今回の最高裁の判断について、「当然の正義が認められた」と喜びの声を上げる一方、除斥期間によって訴えが退けられた自分たちの判決について「全身に渡る症状に何十年も苦しめられ、体も心も経済的にも追い詰められる中ようやく患者と認められたら賠償請求権がないとされた。今でもどうしたらよかったのか分からない」と振り返りました。
カネミ油症事件は、市販の油に混入した化学物質「PCB」が熱変性した「ダイオキシン類」が健康被害を引き起こした食中毒で、今もダイオキシン類が高濃度に体内に残存している被害者も多く、さらに胎盤やへその緒を通して「ダイオキシン類」が子どもに移行したケースも確認されており、次世代にまで及ぶ深刻な被害が続いています。
森田さんは「認定が遅れたことも次世代にまで被害が及んでいることも私たちの責任ではない。今後、次世代が被害を訴えることがあった場合、除斥期間で訴えが退けられることがないように、今回の判決をきっかけに法の在り方を考えてほしい」としています。
【カネミ油症事件】1968年に西日本一帯に及ぶ被害が発覚した食中毒。
福岡県北九州市に本社を置くカネミ倉庫が販売した米ぬか油に、製造過程で化学物質「PCB」が混入して起きた。およそ1万4000人が皮膚の色素沈着や吹き出物、全身倦怠感などの全身症状を訴えた。事件前、PCBの毒性は一般に知られておらず国も流通を認めていた。
PCBを製造した「カネカ」(当時鐘淵化学工業)や「カネミ倉庫」、国などを相手取った裁判は1989年までに終結したが、2004年の診断基準改定で新たに認定された患者らが2008年に加害企業を相手に提訴。企業の不法行為責任は認められたが「除斥期間」が採用され訴えは退けられた。
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