<7.7東京都知事選・現場から>  週末の都電荒川線町屋2丁目駅(東京都荒川区)の周辺は、ベビーカーを押す家族連れや、食べ歩きを楽しむ人でにぎわう。少し歩けば狭い路地に2階建ての木造住宅が並び、下町らしい風情が残る。

◆危険度「3要素」が改善しない

「地域危険度」1位の荒川6丁目=東京都荒川区で

 その一角の荒川6丁目地区で、能登半島地震の発生から半年を目前にした6月27日夜、住民ら10人ほどの「防災まちづくりの会」が開かれた。メンバーらは少し前に地元を歩き、首都直下地震などが起きた時の課題を洗い出すマップを作ったばかり。「歩いてみるのが大切」「(防災関連イベントに)人を集める」。住民の意見が、ホワイトボードに張り出されていく。  都が2022年に公表した「地域危険度」で、この地区は都内約5200町・丁目で最も危険な地区と判断された。概ね5年に1回実施される調査では08年発表分以降、ワースト10から抜け出せない。危険度の算出の基となる、建物倒壊と火災の起きやすさ、救助活動の難しさの3点が改善しないためだ。

◆「不燃化特区」の指定はあるが

 地盤は、かつて海底だった時の堆積物などでできていて軟弱。その上に木造家屋が密集する「木密地域」で、幅4メートル未満の網の目のような道路は消防車が入りにくい。西尾紀子・荒川6丁目新地町会長は「より住みやすくするためにも、公園のような避難場所を確保してほしい」と話す。

「防災まちづくりの会」で住民からの意見を書き留める区側の担当者(右)=東京都荒川区で

 危険度の差こそあれ、木密地域は都内に約8600ヘクタールある。23区の面積の約14%に当たり、JR山手線の外周部を中心に広がる。うち荒川6丁目周辺など計52地区(3350ヘクタール)を、都と各区が「不燃化特区」に指定。建築士らを派遣して建て替えの相談に乗るほか、建物除去や建築設計費を助成している。

◆住民には改築を望まない人も

 荒川区によると、荒川6丁目では徐々に新築住宅への更新が進む一方で、地元に長く住む高齢者を中心に改築を望まない人もいる。助成額に限りがあることも一因のようだ。区の担当者は「やはり時間はかかる。地道に声をかけていくしかない」と話す。  このため区は、家屋倒壊後の漏電での出火を防ぐ感震ブレーカーや、家具の転倒防止器具の購入費用を助成。住民が町歩きをして危険な箇所を見つけるマップ作りといったソフト面での対策にも力を入れる。

「地域危険度」1位の荒川6丁目=東京都荒川区で

 能登半島地震で大規模な火災が発生した石川県輪島市中心部の観光名所「朝市通り」周辺も、木密地域だった。都知事選では、延焼の危険をはらむ木密地域の解消促進など、防災施策を訴える候補者もいる。  荒川区の担当者は「地域危険度が高ければ助成金を増やすといった、メリハリのある助成制度を創設してほしい」と都に求める。さらに25年度までとなっている都の不燃化特区制度の延長も期待する。「後押しがなければ、建て替えなどは遅々として進まない」。都内で最も危険な地区を抱える実感がこもる。 

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