世間を震撼させたあの事件から1年。1日の裁判で新たな事実が明らかになりました。
 
貴田岡結衣記者(去年7月取材)
「遺体発見から一夜明けましたが、(事件が起きた)現場のホテルでは規制線が張られ、中では現場検証が行われています」

 札幌・ススキノのホテルで、頭の部分がない男性の遺体が見つかり、田村瑠奈被告ら親子3人が逮捕・起訴された事件。

6月の母親の初公判では、娘の言いつけに親が従う“歪んだ親子関係”と、おぞましい犯行の様子が明かされました。

1日の公判では、父親の修被告自らが証言台に…その口から語られたこととは?

ススキノで起きた首切断殺人事件。“瑠奈ファースト”のいびつな親子関係が明らかになりましたが、実は、子どもが支配的になる構図は、どこの家庭でも起こりうると専門家は指摘しています。

まずは、事件発生からの1年を振り返ります

 三栗谷皓我記者(先月27日取材)
「事件の現場となったホテルです。発生当初は昼夜を問わず、規制線が張られ、人が立ち入りことが出来ない状態でしたが、事件から一年が経った今は、営業再開しています」

1年前の7月1日の夜、被害者の男性とホテルに入った田村瑠奈被告。3時間後、スーツケースを手に、1人で現場を後にしました。

 2人が初めて会ったダンスクラブは、事件のあとに閉店し、姿を消しました。

切断した男性の頭の部分を自宅へ持ち帰った瑠奈被告。そして、父親の修被告、母親の浩子被告の3人。

異例の半年間の鑑定留置を経て、瑠奈被告は、殺人や死体損壊などの罪、修被告は殺人ほう助などの罪。

浩子被告は、死体遺棄ほう助などの罪で起訴されました。

先月4日に開かれた浩子被告の初公判では、浩子被告は、涙ながらに起訴内容を否認しました。

 浩子被告(先月4日・初公判)
《「あまりに異常なことだったので、娘に対して何も言えませんでした」》

弁護側は、浩子被告の無罪を主張しています。さらに…。

検察側(先月4日・初公判)
《「浩子被告と修被告は瑠奈被告が決めたルールを忠実に守る“瑠奈ファースト”の親子関係だった」》

 浩子被告と修被告が、瑠奈被告を「お嬢さん」と呼び、瑠奈被告も、修被告を父親ではなく「ドライバーさん」と呼ぶなど、いびつな親子関係が明らかになりました。
                              
◆【父親・修被告の証言~娘への感情】 
1日の公判であらためて、親子の歪な関係を示す証言がありました。弁護側の証人として出廷した修被告の証言です。証人尋問は1時間半ほど続きました。

▽事件後、警察に通報しなかった理由を問われ、次のように語りました。

 ・『娘を突き出すのは、娘が抱えていた何かを抱えきれず、裏切る行為になると思いできなかった』

・『いまも娘は相当苦しんで病んでいるから、これ以上娘を追い詰めたくなかった』

◆ 【父親・修被告の証言内~妄想】

 ・『それなりに躾をしてきたが、18~19歳から自傷行為やオーバードーズを繰り返し、取り返しがつかなくなりそうだったので、本人を追い詰めないようにすることが望ましいと思っていた』

精神科医で、穂別診療所副所長の香山リカさんに伺います。

法廷で修被告が証言した親子のやりとりから、親子の関係性について、どういったことを印象を持ったでしょうか?

精神科医・香山リカさん
「おそらく、この両親は、何か問題を持っている娘に対して、どう接するか…そのことが自分たちの生活の最優先事項、一番大きなテーマとなっていたと思う」

「その結果、いつの間にか、自分たちの問題を客観視できなくなって、その問題を核として、ある意味、家族が一体化することが、長年続いたと思う」

「父親としては、今となっても娘をかばいたい、追い詰めたくない気持ちがいまだにあって、こうした状況になったのではないかと思う」

事件全体を通じて、両親が田村瑠奈被告に非常に"従属的な様子""が分かってきています。

こうした親子関係について精神科医の香山リカさんは、こう指摘しています。

 「程度の差はあれ、子どもが家庭の中で、支配者になることは構造として起きがち」ということです。

精神科医・香山リカさん
「一般論になるが少子化が進む中で、親は子供によかれ…と思って育てるわけだが、何か子供が要求をしたり、少し乱暴なことを言ったりしたときに、親はどうにかして機嫌よく勉強してもらったり、あるいは何か問題を抑えたいと思ったりした時に、子どもの要求に応える」

「そうした対応で問題が解決するんじゃないかと考えがちだが、一度そういう対応を取ってしまうと、子どもは悪意がなくても、要求がエスカレートしていくことがある」

「親は、こういう欲求を聞いてあげたら、今度こそ、子どもは気づいてくれるはずだ…、成長してくれるはずだ…と、どんどん悪循環に陥ってしまう…」

「その結果、子どもが要求したことに、親が何でも従う、子どもの顔色を伺いながら、親がビクビクしながら生活を送るようになってしまうケースは、どこの家庭でも程度の違いこそあっても、起こり得ること」

今回、弁護側の証人として出廷した父親の修被告は、事件以前の瑠奈被告の様子を語りました。

◆【“自分はシンシア"~ジェフと結婚】
瑠奈被告の"妄想"について、質問された父親の修被告は、こんな証言をしています。

「10年ぐらい前から娘に対して、『瑠奈』と呼びかけると"ルナはもう死んで自分はシンシア"だと。"ジェフと結婚式を挙げる"と言い出し、こういう風にして…と相談され、お香をたいたり、われわれが音を鳴らしたりして列席した」

香山さん、こうした様子からどんなことが考えられますか?

精神科医・香山リカさん
「これは別人格が現れているということで、誰もが考えることとして、医学的には解離性同一性障害、いわゆる多重人格ということだが、一般論だが、何か大きなトラウマがあって起こることだと言われている。田村瑠奈被告が、そこまでトラウマがあったのかどうかが1つのポイントとなると思う」

「自分の中で空想の人格を作り上げて、まるで友だちであったり、自分のパートナーであるかのように接したりということは、特に多重人格でなくても起こることなので、田村瑠奈被告が“シンシア”や“ジェフ”という存在を作り出して、どうしてこだわっていたのか…今回の証言だけでは、病気と診断できることではない」

「一番の問題は“ジェフ”との結婚式を挙げるといって、瑠奈被告に完全に両親が巻き込まれている。家族が“一体化”していて、瑠奈被告に意見も言えずに、逆らえない状況が固定化してしまっていたことが、一番の問題だったのではないか…と考える」

修被告は、娘の田村瑠奈被告に、精神科の受診を勧めてことも、1日の公判では証言しています。どこかで歯止めをかけることはできなかったのでしょうか。

精神科医・香山リカさん
「家族3人だけの閉じた世界で、こうした状況が10年以上も続いて生きたわけで、何かそこで圧力を抜くような突破口がなかったのかと思う」

「そこで精神科の受診を瑠奈被告に、父親の修被告も勧めたのだと思うが、精神科医の立場から考えた時、無理に受診させることに躊躇いがあったのかもしれない」

「ただ精神科の受診だけでなく、かつてなら親族の誰かだったり、近所の人だったり、第三者がこうした“閉じた家庭”に入るチャンスもあったと思うが、現代社会ではそれも難しく、長年にわたって、親子三人で悲惨な家庭状況が続いてしまっていたのだと思う」

次回の公判は8月30日で、引き続き証人尋問が行われます。

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