2024年6月19日、自民党の派閥の裏金事件を受けた改正政治資金規正法が成立した。
その2日後、岸田総理は記者会見で「私自身、覚悟を持って年明けに政治刷新本部を立ち上げ、必要な対策を示し、必要な行動を促してきた」と述べ、政治改革に向けた自らのリーダーシップを強調した。
しかし法改正の裏には、トップの決断に翻弄され、文字通り走り回った実務者たちがいた。
政治改革特別委員会で与党の筆頭理事として他党と交渉にあたり、条文を策定した大野敬太郎衆院議員(当選4回)もその1人だ。
法改正に向け時間が限られる中、難しい役割に葛藤しながらも、民主主義的な制度設計の展望を抱き続けた大野氏。今後の政治改革のあり方から新総裁への思いまで、胸の内をJNNの単独インタビューで語った。
制度複雑化で説明苦しく 与野党の協議混乱で国民に不信感
ー自民党の派閥の裏金事件を受け、改正政治資金規正法が成立した。大野議員は実務者として条文の策定にあたったが、審議は十分に尽くされ国民の信頼、納得を得られる内容になったと考えるか
基本的に、今回の改正だけで国民の皆様から再び信頼をお寄せいただけるようになるとは私は思えないんですね。
なぜかというと今回、悪意があったか、なかったかは別として関与している方が多かった。
したがって基本的に国民の皆様から、政治家のお金に対する意識に疑念を抱かれているという認識に立っています。
そのため、この改正法のみで信頼を再びお寄せいただけるということは、困難であると思っているので、今回を機会に改めて意識改革も含め制度改正というのを引き続きやっていかなくてはいけないと思っています。
ーJNNが改正案の衆院通過の直前に行った世論調査でも、改正案を「あまり評価しない」「全く評価しない」との回答が合わせて70%という厳しい結果。法改正の後、大野議員は地元などで有権者と接する機会もあったと思うが、有権者の反応はどうか
実際、私が地元に帰って有権者からいただく反応は正直、「中身についてはよくわからない」と。
しかしながら、「この後に及んで何かまた隠そうとしている」というようなイメージがやっぱり残っているように感じます。実務者としては制度を実装するときに、条文作業において理屈的に結構ハードルがあったわけで、そこに苦労した結果、制度が複雑になって、そして説明に苦しんだ結果、疑念を抱かれたというところもあった。
また与野党協議の中で結構混乱が生じましたよね、そこの部分があわせて不信感を増してしまったのではないかという印象を持っています。
一方、法律の内容については2つのパートに分かれています。1つは再発防止について。ここは間違いなく私どもとしては、ある程度の自信を持ってお届けをしている、現実的なものであると認識しています。
あまりにも過剰に穴だらけという印象が強くなり過ぎると、逆に議員側に「この程度か」という印象が残ってしまって、あまり確認しなくなることを心配している状況です。
もう1つのパートはいわゆる透明性の向上。ここの部分については、今後の検討というのは結構多いわけで、これはある種、まだ検討段階ではないかと、まだまだ足りないじゃないかという印象が残ったんだと思います。
政治資金というのは、民主主義を支える土台ですから、静謐な環境で議論ができたらなということは思いました。
総理決断に大変な驚き ビジョンの共有なく“政局化は必然”
ー実務者として自民党内の調整、交渉相手である与党の公明党・野党との間で板挟みになった部分も多かったと思う。
具体的にはパーティー券購入者の公開基準額について、当初の自民党案は10万円超で大野議員も国会などで説明をしてきた。
しかし公明党の反発もあり、最終的に総理が5万円超に引き下げるという決断をした。
これまで10万円超というラインで説明をしてきた大野議員にとっては、答弁の整合性を問われる結果となった。総理の決断をどう受け止めたか
基本的に平たく言えば、大変な驚きではありました。
一方で、われわれはあくまでも民主主義の土台である政治資金の規正のあり方、特に不正を許さないという部分と、一方で政治活動を支えるという部分のバランスのもとに、どのような制度を構築すればいいのかを追求したわけです。
それで最初の提案になったわけですけど、理屈の部分がわれわれであるとするならば、総理の決断というのはまさに公明党、あるいは野党の皆さんとの政治合意の話ですから、目線が違う。驚きであるのは驚きであったのですけど、それはそれで政治ですから、そういうことも結果的には、さもありなんということはあると思います。
ただ私自身が少し考えるのは、結局議論というのは、民主主義とか、あるいは政治資金とか、不正を許さないとか、こういう前提が共有できているか。
議論には前提がある。ここが果たして共有できていたのかと。
例えばコップあるじゃないですか。コップを上から見ると丸。でも横から見ると四角ですよね。絶対四角だと思っている人と、絶対丸だと思っている人、ここを合わせないと多分共有できない部分があるんですよね。
もう1つは視点としては何か制度を作るにあたって、表面的に見える、例えば5万円とか10万円とか表面的に見えるものと、それが与える影響ですよね。背景ですよ。ここも共有されないといけないと思うんですけど、この2点が果たして共有されていたのか、これは私は大きな疑問を持っている。もう少し議論の関係者の中でこういったものを共有しておきながら、あるべき姿を議論できた方がよかったなと思いますね。
ーそれは総理であるとか幹事長なり、もう少し上のレベルでそういった意識共有が与党間で詳細に詰められていた方が良かったのではないか、という考えか
全員ですよね。誰かがビジョンを共有して、その目的を明確にした上で、各関係者にそれぞれの役割に応じたミッション、役割を与えるというようなことが果たして行われていたのか。実はそういうことはなかった。われわれ実務者は実務者で、実務の観点で内容、条文を詰めていったということですから。実務者の協議、例えば自公では相当詰めた議論をしていましたけど、1つの反省材料ではあるかなと思います。
ーパーティー券購入者の公開基準額について、公明党の実務者との間では大野議員は意識共有できていた。それを覆す総理の決断の際、実務者レベルでは公明党とどのようなやり取りがあったのか
パーティー券は、なぜわれわれが10万円と言っていたか。国民の皆さんから見ると「これは何をやっているんだろう」と感じたのではないか。20万円だ、10万円だと。国民の皆さんとは少なくとも前提が共有されていなかったように思うんですね。
1つは、有権者の方から「普通民間だと1円から領収書は当たり前だろう。20万円、10万円ってなんだそりゃ」というご指摘をいただいたんですけど。これは決して、ご存知のように領収書の話ではなくて、全世界に1つ1つの取引(購入者や金額)を公開する、こういう基準ですよね。
だからもちろん領収書は全て1つ1つ発行しているのですけれど、それに加えて、5万円とか10万円とか、公開基準を下げると。
基本的にわれわれが答弁させていただいたラインは、政治参加が失われるという答弁のラインだったんです。誰か政治家を支えたいと思ったときに(氏名が)公開されてまで支援をしたいと思わないという方が大半なので。
逆を言えば当然、個々の議員の収入が下がっていくと。
政治活動の原資である政治資金が少なくなるので、結果的に党に頼ることになるわけです。党に頼った結果、党の言いなりとは言いませんが、その方向になる。
有権者の方に目線をしっかりと置いておくというのが、国民政党である自民党の考え方ですので、ちょっとそことは考え方が違いますよね、ということが背景にありました。
自民党、公明党の間ではそういった考え方は共有はいただいていたものだと私は理解をしています。
ただ果たして全体、議論の関与者全員でそういった観点が共有されていたのか、これは少し分からないところがありますよね。
ー規正法改正の議論が政局になってしまったことについてどう感じるか。憲法審査会では立憲民主党が、条文案を作るのであれば規正法の審議も含めて国会審議全て応じられないと発言したほか、9月に自民党総裁選を控えての岸田総理の判断というのも絡んできた部分があると思うが
基本的に一般論ですけども、何か議論を始める、ビジネスで勝負する、あるいは軍事作戦でもそうですけど、全てにおいて前提を共有する、ビジョンを明確に示した上で、そこに各組織の要員が与えられた役割で懸命に努力して、ビジョンを達成する、いわゆる戦略ですよね。
その部分が共有されていない限り結局、対処的になってしまうんです。
もちろん戦略を描くことが非常に困難な場合もあります。今回も確実に描ききれる内容だったのかというのはちょっと別ですけれども、そこが少なくとも共有されていなかったので、対処的にならざるを得なかった。
したがって政局に巻き込まれる、政局の問題に繋がってしまったと。ある種、私の中では必然な部分がありました。
特に今後、夏を越えて総裁選が控えているわけですし、各政党さんも代表選を控えているなか、当然そこは睨んでおかないといけなかった問題ではあるんですけれども、その中での規正法というのを明確に位置づけられていなかった。私は少なくともビジョンの話は誰からも伺ったことはないので、そういったものの不足感というのはちょっと考える、感じるところがあります。
議論に時間的制約の苦しさ 残る検討課題は全政党で議論を
ー日本維新の会とも今国会での旧文通費の扱いをめぐり認識に齟齬があった。もう少しこういう議論のやり方をした方がよかったなど反省点はあるか
日本維新の会もですけれど、全体像として国会の中で議論した結果修正ということになると、結構、時間的に余裕がないわけですよね。
もちろん反省の1つとしては、もっと事前から他の政党の皆さんと議論をして、一定の方向性、結論を得るということがあれば良かったわけですけども。
国会の審議の中で決まったものですから、それこそ1日2日で方向性を定めなくてはいけなかった。
そういった意味で、まず中身について議論できなかった、詰めた方向性を出せなかったというのは1つなんですけど、もう1つは短時間で合意をされていますので、中身についてどこまで(詰める)という認識の共有を図ることがいまいち進まなかったのかもしれません。
日本維新の会については、旧文通費について今国会でするかどうかということだったんですが、おおよそ(残りの会期が)1週間か2週間で、しかも今回対象としていた法律とは違う法律(歳費法)なので、そこはちょっと常識感としては絶対ないわけで、メディアの皆さんもさすがに今国会でとは思っていなかったという話をよく聞きますけども、という前提の認識の違いもあったのだと思います。
ー全党で、今国会中に規正法を改正することは意識共有としてあった。時間に追われる中で法改正をしなければならなかったという前提については正しかったと感じるか
われわれとしてはまず絶対やらないといけないと思っているのは冒頭申し上げた、この法律の2つのパートの再発防止というのと、透明性の向上という部分のうち、再発防止はきっちりとやらせていただくと。
われわれにとってもこういう事件、組織人として私としては国民の皆さんに本当に申し訳ないと思うと同時に、個人としては誠に遺憾であると。もう二度とこういうことを起こしてほしくないと。
われわれも結構マイナスくらいますから、絶対起こさない、起こさせないんだという意識でかなり真剣に取り組んだものです。
一方で透明性の向上の部分は、与野党の協議を通じて議論されなければならない問題だと認識していました。
というのは収入の構造も、それぞれの政党観も違うので。例えば機関紙発行で政治資金のベースとしている政党もございますけれども、例えば新聞1部3000円だとすると、2部お買い上げいただいて、年間通じておよそ5万円を超えてくるわけです。
この部分は全く何も具体的な制度がないわけです。
これまで問題が起きなかった、顕在化しなかったからなわけですけれども、一体どのように処理されているのか、いまいち不透明なんです。
そういったものも含めて、本当に適正な、日本の民主主義として各政党が持っている政治力というのがバランスを持って適正に発揮されるようにしなてはいけないというのが、私の意識でした。自民党こうしたい、ああしたいというだけでは、民主主義としてのバランスは欠いてしまうと思い、全政党が議論するべきだと思っていたので、やっぱり時間的に苦しさがあった。
逆に言えば透明性の向上の部分は検討課題として確実にやらせていただくということを明記しましたが、「検討だと不十分だ」という意見を相当いただきました。
ただこれは本当に国民の皆さんが政治をどうお支えいただくかという部分に関わる問題なので、そういった形にさせていただきました。
第3者機関 まず民間に監査依頼し段階的に強い権限もつ機関へ移行を
ー政策活動費の支出をチェックする第3者機関の設置について。誰が監督を行い、どこまでの権限を持たせ、いつ設置するのが適当か。あるいは機関について検討する際、どういった枠組みで検討すべきか
第3者機関については間違いなくほとんどの自民党議員が必要だと認識していました。特に政策活動費なんか典型で、これまで「公開できない部分があるんだ」という主張をしていたわけですね。
だけど、これではさすがに持たないわけです。規正法の理念は全部公開をすることで、国民に批判、判断してもらうことが理念ですので、「出せない」ではやっぱり持たないわけですよね。
どうしても出せないというなら、しかるべき人が第3者の立場としてチェックをいただいて、これだったら問題ないでしょうということを世の中に公表していただく。こういったものが第3者機関ですよね。だから必要だという認識に立っています。
その上で、じゃあどうやるのかと。法改正で制度全体が令和8年(2026年)から始まるわけですから、与野党の協議の中で、第3者機関も少なくともそこで一定の結果を得ないといけないのだと私は思っています。
ところがその令和8年というと、もうあと1年半ぐらいということになります。
ここで問題提起をしたいんですけれども、ご指摘いただいたような設置形態ですよね。
第3者機関というのは、前提として非常に民主主義のあり方に関わる問題。なぜかというとわれわれは立法府ですよね。立法府がどこにチェックされるのかということについて、1番ベストなのは不正を絶対許さないという観点に立つと、強制的な権限、つまり調査、それから勧告ですよね。強制的に勧告、あるいは是正勧告。あるいは検察に通報する機能とか、世の中に不正があったら公表するとか、非常に強い権限とともに、集める情報を全部保全する仕組み、これがほぼ100%の第3者機関としての機能。もちろん監査もやりますけどね。
そういったものが1つ考えられるけど、そういった強い権限は行政機関にあるんですよ。例えば公正取引委員会は非常に強い権限を持った独立機関です。
ただそれはあくまで政党が、国家の1機関に常にチェックされている。
民主主義の形としては私がどうのこうのとか、自民党がどうのこうのではなくて、国としての政党のあり方という意味では、政治というのは民衆なんですよね。
すると民衆のやっていることをチェックする方向になりますから、結果的にチェック機関としては権威主義国家の方向になるんです。
必ずしもそれは悪いことではないです。有識者である東大の谷口先生も行政機関に置いたらいいという考え方です。
ここまでいくと、組織の設置、権限、構成、人数、どういった方にお願いするのか、トップはどうやって指名するのか、これはかなり大きな制度になるので、1年半で果たしてできるのかというとかなり難しいんだと思うんですね。
ただ、これは私は1つの有力な案だと思います。
一方でドイツの例では立法府の問題なんだから、立法府がちゃんと調べた方がいいと。立法府に置くというのも1つの案です。野党さんも主張されているところもあります。
例えば国会図書館というとなんだそれ、と思うかもしれませんが、ああいう設置形態は完全に独立しているわけですね。
各政党に偏っていない。ただこれは権限があまり強くなれないんですよね。
そうしますと、もう1つは民間の第3者を国が指定して、そこで監査をお願いすると。これは有識者の中北先生がご主張になられましたけど。
そういった大きく言うと3つの形があると思いますが、令和8年の1月1日から制度がスタートするので、まず3番目に申し上げた民間からスタートして、とにかく行き着くところはある程度の権限を持った独立機関でチェックする、ここを目指していく、確実にやっていくというところは必要なんだと思います。
ーまず民間にお願いして、そこから段階的に移行していく
そうですね。いま政党は自主監査になっているんですよ。
自主的に第3者であるところの監査法人であるとか、税理士の先生とか、今も適正に処理されているものだと思っていますけれど、もう少し国民の皆様からご理解いただけるようなやり方、制度として担保するというのはあり得るんだと思います。
ただ、そこはゴールではなくて。やはり私は国民の皆さんにしっかりと説明ができるということが必要だと思いますし、私個人としても、仮に制度がなかったとしても、新聞の1面に「あなたがやっている事はけしからん」と書かれたとき説明できる、というのを1つの原理・原則にしているのですよ。それが信頼の第一歩、前提だと思います。説明を果たせることが重要で、できないならば制度で担保していくのは、ありうる選択だと思っています。
ー第3者機関に持たせる権限の強さについて。単に領収書と収支報告書などの数字を照らし合わせて、収支が合っているかだけを見るのではなく、支出が適正なのかどうかまでチェックする権限を持たせるべきか
ある程度の権限を持たせるべきなんですけれども、『有権解釈権』といいますけれど、適正なのか、正しく使われているのか解釈できる組織にいたしますと、結局強制的に調査できて、是正勧告もできてというところで、ほとんど検察なんですよね。
そうすると毎日検察にチェックをされている政治というのは、果たしてこの民主主義の中で正しい機能なのかということをやっぱり国民の皆さん全員で考えていただいて、それでも政治は悪いことしそうなんだということであればそういう方向になると思いますけども。
さすがに常に中国やロシアのような権威主義国家のように、行政機関の、仮に独立機関だとしても、常に民衆をチェックしている組織があるのは適正なのかどうかというのは私は今の時点で判断はできていません。
したがって深い議論が要るんだと言ったのはそういった部分で、そこは1日2日、1週間の議論の中でやれとかやるなとかいう話では決してない。これは非常に私は重要な部分だと認識しています。
ー30年前に平成の政治改革大綱ができたときは、竹下総理の元に諮問機関の有識者会議ができて大綱を詰めた。今回そのような組織はなかったが、有識者会議のような、広く国民を巻き込む形で政治改革の中身について議論する場の必要性についてはどう思うか
国民の皆さん、例えば有識者に入っていただくのは非常に意義があって、われわれが気づかなかった視点を提供いただいて、なるほどと思わせていただける議論ができます。
直接有権者に接して、なるほどと思うことは非常に多いです。ですから実際のわれわれの活動というのは非常に重要だと思うんですけど、果たしてこの政局的になるような議論、すなわちテレビカメラが入って議論したときに、相当制約を課されます。
それは何かというと、平たく言うと、かっこつけたがる人がいるんですよね。
いろんな自分の支援者に、私も幅広くいろんな支援者がいますけれども、どうしても偏りたくない、というのがある。
信念があってこうだと言いたい部分はあるとしても、どうしても偏らずに皆に納得いただくような議論を進めてしまう。
例えばですね、第3者機関は絶対作るべきだ、とにかく政治が悪いんだから全部チェックさせろというのはわかりやすい議論だと思うんですけど、本当にそれが果たして正しい方向なのかというのは、ある種落ち着いた議論からスタートしないと成り立たないと思います。もちろん最終的には国民の皆さん全員でご議論いただくだけの深い議論であると思います。
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