自転車を乗る際の「ヘルメットの着用」は、2023年4月の法改正で「努力義務」となりましたが、なかなか着用率は伸びていません。そんな中、愛媛県は約60%の高い着用率を誇っています。ヘルメット着用が「当たり前」の環境を目指す取り組みを取材しました。
愛知県のヘルメットの着用率は全国平均以下
2023年6月、山口県で自転車と自動車との事故が発生しました。前方を走っていた自転車に、自動車が歩道の方に寄っていき、後ろから追突。
事故の際、自転車の男性はヘルメットをかぶっていて、フロントガラスに打ち付けられましたが、大きなけがはありませんでした。
2024年5月、愛知県一宮市で警察が呼びかけを行った際は、ヘルメットをかぶらない人がほとんど。ヘルメットの着用は努力義務になりましたが、罰則や強制力はありません。
2023年7月の調査で全国平均が13.5%。愛知県は7.8%に留まっていて、警察の呼びかけだけでは限界がありそうです。
着用率全国1位は「愛媛県」なぜヘルメットの着用が浸透?
そんな中、愛媛県の着用率は、2023年7月の調査で59.9%と全国1位。全国平均と比べても圧倒的です。朝の通学風景を取材すると、自転車に乗る高校生たちのほとんどは、ヘルメットを着用しています。
(高校生)
「それが当たり前。大人もかぶった方が良い」
みんながかぶっているから当たり前。この環境をもたらしたのは、10年前のある事故でした。2014年、愛媛県松山市に住む渡邉明弘さんは、当時高校1年生だった長男・大地さんを交通事故で亡くしました。
大地さんは自転車で学校から帰宅する途中、横断歩道でトラックにはねられ、頭を強く打って死亡。ヘルメットはかぶっていませんでした。
(渡邊明弘さん)
「(高校入学時に)自転車を買いに行った時、ヘルメットコーナーで大地はヘルメットをかぶって、鏡を見ていたんじゃないかな。(ヘルメットを)買っていたら、どうなっていたのかなと考える部分はあります」
この事故がきっかけとなり、愛媛県では2015年、全国で初めて、県立高校で通学時のヘルメット着用を義務化しました。当時の旗振り役だった松山大学の長井俊朗教授は、着用率を高める工夫があったと振り返ります。
(松山大学・長井俊朗教授)
「(生徒が)実際に試着してみるのはいいことだった。生徒が思っているより、はるかに軽いと。全学年一斉に、無料で(ヘルメットを)配布した」
義務化前の2015年に0.6%だった高校生のヘルメット着用率は、私立高校でも義務化が進んだ2018年には97.3%になりました。
県の担当者は、高校生のヘルメット着用が当たり前になったことが、他の世代にも広がった一因とみています。
(ヘルメットを着用している愛媛県の男性)
「公道を走るから(ヘルメットを着用している)。こどもたちもかぶっているからね」
(千葉県からの旅行者)
「レンタサイクルでヘルメットも付けてくれた。愛媛の人は自転車に乗る時に結構ヘルメットをしているので、していないと変な目で見られるかなと思って」
ヘルメットの種類が増加 誰もがかぶりたくなるデザインに
子どもたちの間で着用が当たり前といえる環境を作る。ヘルメット着用を学生から広めようとする取り組みは、愛知県でも行われています。
知多市立知多中学校は、自転車通学をする生徒が4割を占めています。通学路は道幅が狭く、交通量が多い場所もあります。
警察も自動車の速度の取り締まりを行うなど目を光らせていますが、安全に自転車に乗ってもらおうと学校は校章が入った学校指定の白いヘルメット着用を呼びかけていました。
一方生徒たちに聞いてみると「友達と遊ぶ時、周りの人がかぶってないことが多い」などの理由で、日常生活ではヘルメットを着用しないことも多かったようです。
知多中学校では2024年4月、ヘルメットの指定をやめ、キャップのような見た目のものや、色鮮やかなものなど、生徒たちは好みのデザインを選べるようになりました。
休みの日でも、そして卒業後もかぶってもらうため、“かぶりたくなる”ヘルメットで「習慣化」を目指す試みです。
自転車店のヘルメット売り場にも変化が起きています。名古屋市中川区の「サイクルベースあさひ八熊店」の加藤弘樹店長によると、努力義務化に伴い、ヘルメットの種類は増加しているそうです。
軽くて風通しもよいスポーツタイプが相変わらず人気ですが、ヘルメットを買う人の世代が広がったことを受け、店ではカジュアルタイプの取り扱いが2倍になりました。
(サイクルベースあさひ・加藤弘樹店長)
「デザインがあまりスポーツチックじゃなくて、帽子みたいな感じでかぶれます。普段着で使われる方に人気です」
愛知県の大半の市町村で導入されている、ヘルメット代を補助する制度を利用する人も多いそうです。
愛知県では、2024年1月から5月までの自転車事故の死者数は10人。その全員が、ヘルメット未着用でした。
かぶるのが「当たり前」の光景をめざして、愛知でも小さな一歩が踏み出されています。
CBCテレビ「チャント!」6月18日放送より
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