<7.7東京都知事選・現場から>  東京には多くの企業や大学が集まり、仕事や充実した教育を求めて地方から人が流れ込む。新型コロナ禍を機に30〜40代には近郊に移る傾向がみられるものの、2023年は7万人近い転入超過となった。都知事選では各候補が0.99という衝撃的な合計特殊出生率を上向けるべく、子育て支援策などを競い合うが、それが東京一極集中に拍車をかける矛盾もはらむ。

◆「富裕層しか暮らせない街になる」

都内での子育てについて語る女性(右)=東京都内で

 「給付は根本的な解決にはならない」。都内で2児を育てる30代の女性会社員は打ち明ける。18歳までの子に年6万円支給する都の「018サポート」など支援の手厚さを実感するが、高い住宅費や物価への不安は尽きない。  コロナ禍で夫の収入が激減し、夫の実家がある香川県への移住を検討したが、夫婦の職歴を生かせる仕事は見つからなかった。女性は「仕事を含めあらゆるものが東京に集まり過ぎている。このまま一極集中が進めば、富裕層しか暮らせない街になる」と心配する。  新宿区で1歳から高校生までの4人の子の育児に追われる母親は「居住する自治体の子育て支援は、親にとって死活問題だ」と訴える。都は医療費無償化の対象を高校生までに引き上げ、23区などは独自に所得制限や自己負担を撤廃。このため、年に5万円ほどかかっていた長男の医療費負担がなくなった。  子育て中の友人との間でも「子どもの医療費が無償でない地域は転居先の候補から外す」と話題になったばかり。一方で「支援に地域差があるのはおかしい」との疑問も頭をよぎる。

◆「ブラックホール型自治体」

 これらの支援策は、東京へさらに人を呼び込むことにもつながり、地方は複雑な思いを持つ。民間組織「人口戦略会議」が4月に発表した分析によると、人口増を他地域からの流入に依存し、出生率が非常に低い「ブラックホール型自治体」は全国で25自治体が該当。17を都内が占めた。4人の子を育てる女性も中部地方出身で、ブラックホール型自治体に住む。  42万を超える企業が集中し、約1400万人が暮らす首都・東京。6兆円超の税が納められ、再分配される。潤沢な財政で実現した所得制限なしの高校授業料無償化もその一例だが、近隣の県は危機感を強める。  高校無償化に所得制限を設けている埼玉、千葉、神奈川の3県の知事は5月、都と周辺地域で子育て支援の格差が拡大しているとして、国の責任と財源で是正するよう政府に要望した。都と地方の格差が深まる中、都への一極集中を根本的に是正する妙案は見いだせていない。(大野暢子)   ◇

◆「都民さえ良ければいい」は結局、都民のためにならない

 早稲田大の小原隆治教授(地方自治)の話 都は法人事業税などの税収に恵まれていることに加え、特別区の一部税収を都税として集めている。そんな都が各種支援で所得制限を撤廃すれば、富裕層や教育熱心な層の流入を招く。他自治体の税収や活力がそがれ、国全体では経済停滞や社会不安など負の効果が生じる。教育無償化などは国が全国統一で実施するべきだ。  一極集中が進めば都民も過度な競争や生活コストの高騰、災害への脆弱(ぜいじゃく)性に直面する。都民さえ良ければいいとの発想に立つ都政運営は結局、都民のためにならない。 

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