松本市の小さな博物館が、アメリカの新聞を通して世界に紹介されました。
「時を守り続けている」日本でも珍しい博物館です。


アメリカを代表する新聞「ニューヨーク・タイムズ」に4月、ある特集記事が掲載されました。


「この日本の博物館は実際に時を刻んでいる」

紙面と電子版に6枚の写真とともに紹介されたのは、松本市の中心部に建つ時計博物館です。

館内工事のため休館していた2月中旬、松田館長のもとに、ニューヨークタイムズの記者から「博物館を取材したい」という一通のメールが入りました。

松田佳子館長:
「大きなお話すぎてピンとこない部分もありまして、驚くと同時に大変うれしく思いました」

宝飾分野を担当しているという記者は、カメラマンと通訳を伴なって3月に来館。

展示内容を丁寧に取材すると、「この博物館の特徴は、多くの時計が実際に動いていることだ」と驚きとともに記事を掲載しました。

記者を惹き付けたのが博物館がこだわってきた「動態展示」です。

「ガチャガチャギーギー」

学芸員の小林駿(しゅん)さんの一日は、古い時計の調整から始まります。

ぜんまいを巻いたり分銅のついた鎖を引いたりして、一つひとつ時刻を合わせていきます。

学芸員 小林駿さん:
「巻き過ぎてしまうと、負荷がかかってしまうので、巻き過ぎないようにすることですね。動かして展示しているところが少ないので、その分やっぱ気をつけてますね。古い時計ってのもあるので」

時計博物館は、時計技術者で収集家でもあった諏訪市の本田親蔵(ほんだ・ちかぞう)(1896‐1985)が、松本市に寄贈したコレクションを展示する目的で2002年にオープンしました。


16世紀から20世紀に活躍した西洋の砂時計や機械式時計、江戸時代に日本で作られた和時計など800点余りの貴重な時計の中から、常時120点ほどを展示しています。

そのほとんどが今も時を刻んでいるのです。

学芸員 小林駿さん:
「時計に命を吹き込むみたいな意識でやらせていただいてます。どうしても便利な世の中になると、人間が機械に使われてるっていうような感覚があるんでけど、これは本当にまさしく人間が、時を刻んでいるような感覚があるかなと思います」

ニューヨーク・タイムズの記者の案内役を務めた小林さん。

記者がほかに興味を示したのが和時計が並ぶ部屋でした。


日本独特の時の計り方に「日本は17世紀初頭から19世紀の大半にかけ鎖国状態にあったため、時計職人たちは独自の時刻表示システムを開発した」と考察。

「この部屋の中で私が最も興味を覚えたのが、江戸時代中期の香時計(こうどけい)だった」と伝えています。


学芸員 小林駿さん:
「お香をおいて火をつけて、その燃える速度が大体一定ということで、燃えた長さで時間を計れるような時計になってます。日本らしさを感じる時計なので、本当に食い入るように見ていらっしゃいました」


このほかにも、ブランコに乗った女の子の人形が、上下に動いて振り子の役割をする「ブランコ時計」や、糸で釣った振り子が左右のポールに巻きついては離れる「振り子飛球置き時計」などを興味深く紹介しています。

そして、「時計は動いてこそ価値がある」という本田氏の思いで記事は締めくくられます。

「カチコチカチコチ」

耳を澄ますと時を刻む懐かしい音が聞こえてきます。

大きな振り子時計が並ぶ「古時計(こどけい)ロード」です。

紙面でも「振り子の動きと鐘の音を楽しむことができる」と紹介されました。


中でも背が高いのがフランスの「グランドファーザー・クロック」。

日本語で「おじいさんのとけい」です。

あの有名な歌にもなりました。

学芸員 小林駿さん:
「カチコチって音も、この音こそ昔の時計の特徴かなと思うので、デジタルになったらもうこの音はないですし、あの古時計の機械式の歯車が入ってる時計だからこそこういう振り子があって、それが揺れることによって音が生まれるっていうところがあるので、その音ってところもぜひ注目いただきたいなと」

博物館では毎年、市内の幼稚園や保育園の園児を招いて見学会を行っています。


「これなんだかわかる?」
「龍!」

小林さんが取り出したのが中国の「火時計」。


一定の間隔で並んだ鉄の玉をぶら下げた糸が、線香の火で切れると、鉄の玉が落ち、音で時刻を知らせる仕組みです。

「カン!」
「うわ!びっくり」

学芸員 小林駿さん:
「今のお子さんの世代は、生まれた時からもうスマートフォンがあって、スマートウォッチがあってという時代なので、生まれる前に日本でこういう時計があった、世界にはこういう時計があったというのを知っていただいて、それを皮切りに、時計に少しでも興味を持っていただけたらうれしいなと」


ニューヨークタイムズの記事も追い風となり、4月の入館者は2700人余りと過去最多を記録しました。

古い時計を大切に守り続けてきた博物館は、これからも時を刻み続けていきます。

「カチコチカチコチ…」

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