全身の筋肉が徐々に低下していく国の指定難病「筋ジストロフィー」を患う畠山駿也さん(30)=岩手県紫波町=が7月に米国で開かれる世界最大級の格闘ゲーム大会に挑む。特製コントローラーを使ってゲーム操作し、人気格闘ゲームで世界上位の腕前を誇る畠山さん。「自分の経験が誰かの次の挑戦につながれば」。そんな思いを胸に渡米の日を待つ。(岸本拓也)

◆あごと指先で操作する特製コントローラーを自作

 6月上旬、東京都中野区にあるゲームスペースで大会のメイン種目の「ストリートファイター6」に興じる畠山さんの姿があった。SNSなどを通じて知り合った友人たちと、大会に向けて、特製のコントローラーの最終調整をしていた。  小学2年生から車いす生活の畠山さん。病気で徐々に筋肉が衰え、今では首から下がほとんど動かせず、人工呼吸器も欠かせない。ゲーム操作は、あごで動かすスティックと、かすかに動く指先で押せるコントローラーで行う。いずれも友人たちと意見を交わして自作したものだ。

大会に向けて自作のコントローラーを調整する畠山さん(左)=東京都中野区で

 この日、気になっていた指先のコントローラーの調整を終え、「デバイス(装置)面の不安はなくなった。大会で100%の実力が出せるかは自分次第」と笑顔を見せた。

◆世界から1万人がラスベガスに集結、夢の大会

 米ラスベガスで7月に開かれる「EVO2024」は、世界中から約1万人ものプレーヤーが一堂に会する。高校生のときに格闘ゲームを始めた畠山さんも参加を夢見てきた。付き添いの介助者を含めた旅費など約400万円はクラウドファンディングで集めた。「たくさんの人から支援してもらい、感謝しかない。10年以上前にはEVOに行けるなんて想像もしてなかった。一つずつ課題を解決してきたから、昔の夢に、今挑戦できるんだと思う」  課題を見つけて攻略し、成長する。ゲームを通じて学んだことだ。高校生の時に格闘ゲームを実況するネット動画を見て興味を持った。自分にできるか不安もあったが、ゲーム機と、当時最新作だったストリートファイター4を購入すると、あまりの面白さに寝る間も惜しんで没頭した。  「環境さえ整えば、障害の有無は関係ない。勝つも負けるもすべてが自己責任。平等で自由なことが格闘ゲームの魅力」と語る畠山さん。格闘ゲームを通じて友人も増え、人生が豊かになった気がした。

◆病気の進行で一時はゲームを諦めた

 しかし、病気は体を動かすほどに進行する。19歳のころには軽量のコントローラーさえ握れなくなり、一度は格闘ゲームを諦めた。ウェブ制作会社に勤める傍ら、友人との旅行や映画鑑賞などに新たな楽しみを見つけた。実りある時間だったが、コロナ禍が襲う。自宅から出られず、悶々(もんもん)と過ごす中で、自分にとって本当に好きなこと、やりたいことは何かを改めて考えた。「やっぱり格闘ゲームともう一度向き合いたい」  ゲーム操作が課題なら、どう乗り越えるか。友人と試行錯誤してコントローラーを自作し、格闘ゲームの世界に戻った。対面で行われる国内の格闘ゲーム大会にも参加。ストリートファイター6のランキングは世界上位になった。

◆課題があるから目標が生まれ、努力もできる

 ゲームで恩返しをしたいという思いから、eスポーツを通じて障害者の社会参加を支援する企業「イーパラ」に転職し、昨年9月には障害者と健常者が競うeスポーツイベントを地元・岩手で開いた。  クリアしてきた課題の先に今回の挑戦はある。「自分が越えられない壁と思っていたことは実は壁じゃなく、工夫次第で攻略できる課題なんだっていうことはいっぱいある。課題があるから目標が生まれ、努力もできる。多くの人に、そうした視点からも今回の挑戦を見てもらいたい」 

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