やっかいな害虫の筆頭、と言えばシロアリです。
この時期【画像①】のような翅(はね)アリが飛ぶことがあり、見かけたら注意が必要です。(※「ムシ」や「密集」が苦手な方は画像に注意してください)
害虫駆除の専門家、東洋産業の大野竜徳さんによると、「翅アリが飛んだ」ということは、そこに3年くらいはいたはずだというのです。
まず敵を知ることが重要です。東洋産業の大野竜徳さんに、「シロアリの特性」を聞きました。
ー「翅のある黒いアリ」とは。。。黒いのに「シロアリ」なのですね。
(東洋産業 大野竜徳さん)
「ヤマトシロアリです。春先に大量に飛ぶ翅アリで、この子たちは将来できる巣の『女王』や『王』になります。雨上がりのさわやかな明るい午前中~お昼くらいにかけて飛び立ちます」
「シロアリという名前なのに黒いのは、まだ涼しい時期にしっかり太陽の光を浴びて体を温めるのと、紫外線で体にダメージを受けないために、真っ黒い体をしているのではないでしょうか」
「一方、女王と王以外のシロアリは、一生お日様に当たらず、暗くてじめっとしたところで一生を過ごします。だから職蟻(しょくぎ:働きアリ)や兵蟻(へいぎ:兵隊アリ)たちは、つるんとした体で乳白色、まさにザ・シロアリです」
雨上がり 結婚相手を求めてシロアリが飛ぶ!
ー【画像①】のように群れて飛ぶことがあるんですか。
(大野さん)
「これが『結婚飛行』と呼ばれる行動ですね。シロアリは巣をどんどん大きく(自分の家の増改築)していくのですが、ある程度、巣が大きくなって余裕ができると、ほかの場所に自分たちの子孫を残そうとします」
「とはいえ、近所に新しい巣があると、エサや場所の取り合いになったり、ケンカになったりするので、できるだけ広い範囲、遠くに子孫を増やそうとします。そのために、女王と王になる候補を大量に飛ばし、集団お見合い・結婚式をします」
「新しい女王や王は基本的には実家に居座ることはできず、飛び立った後は里帰りもできません。一度飛び立つと、結婚相手を見つけて新しい巣を作れなければそこまでなので、この時期、みんな必死に生涯添い遂げる相手を探している時期なのです」
「そして結婚飛行。突然外の世界に出て、天敵に襲われることなく、うまくペアになることができたら、新しい巣を作るために新婚さん二匹で裸一貫、新居を探して歩きだします」
「この時、もう飛ぶことはないので、いらない翅は落として歩き回るアリのようになります。体は真っ黒ですし、遠めに見たらどこがシロアリ?という姿(【画像②】)をしています」
ーということは、【画像②】のようなムシを見かけたら、要注意ということですね。
(大野さん)
「そうですね。ちょうど彼らは新居探しの真っ最中。私たちのおうちに居候してもらっては困りますからね」
シロアリの社会には「カースト(階級)制度」がある!
ーシロアリの巣はどう成り立っているのでしょうか。
(東洋産業 大野竜徳さん)
「シロアリの巣は分業で仕事が成り立っています。シロアリは『真社会性』昆虫です。女王(【画像③】)と王から生まれた子供たちだけで生活をしています。人間の社会とは違う社会です」
「階級で分かれ、子供を残さず、生涯自分の巣のために働く階級があります。人に置き換えると、ギョッとされる方も多いかもしれませんが、シロアリの一匹一匹が意志を持っている社会、ということではなくて、巣を一つの大きな社会だととらえて、シロアリの一匹一匹が血液だったり、臓器だったり、という分業から成り立つ生き物だとイメージをされるといいかもしれません。これを『カースト(階級)制度』と言います」
ー階級は、生まれながらに決まっているのでしょうか。
(大野さん)
「生まれたての卵の段階では、自分がどの階級になるかは決まっていません」
「女王や王が巣の中をフェロモンで制御しているといわれ、卵の段階ではまっさらで、決まっているのはオスになるかメスになるかだけで、巣の中をうまくコントロールしていて、フェロモンの命令に従って自分の運命は決まるようです」
(大野さん)
「女王アリと王アリは交尾して卵を産む専門です」
「女王と王は最初に巣作りを始めます。結婚飛行をして、無事新居にたどり着いた新婚さんは、すぐに子育てに励みます。どんなに大きな巣も、最初はこの2匹。シロアリは暗くてじめっとしたところが好きです、と最初にお話ししましたが、この時一番の敵は『カビ』などの菌類です」
「放っておくとこういう菌類にやられてしまいます。だから体をきれいにしないといけないので、お手入れが欠かせません。でも、一匹だと自分の体すべてをきれいにすることはできません。2匹がお互いの体をきれいにお手入れしあいながら一生懸命子育てします。不慮の事故などで一匹になってしまったらもうそこで命運が尽きてしまうのです。お互いの体をグルーミングしながら、卵も守って巣作りを始めます」
「しばらくすると、最初に産んだ卵が孵化して小さなシロアリの赤ちゃんが生まれてきます。この赤ちゃんは孵化してしばらくするとすぐに働くことができるようになります。最初の子供たちが餌を採ったり、卵を守ってくれたりするようになると、女王と王はいよいよ子作りだけに専念するようになり、子供たちから世話をしてもらいながら、女王は毎日多いと数十個の卵を産むようになります」
「それ以外の家事は子供たちに任せて巣を繁栄させるための産卵にすべての力を使うのです。昆虫の中では長生きで、最初の女王は10~20年、王は数十年この生活を続けます」
「職蟻」は巣の創設や仲間の世話などの雑用専門
「職蟻は巣を大きくするために一生働き続けるアリです。餌をとってくる、巣を大きく拡張する、卵の世話をする…。みんなで協力して巣の中で働きます。性別はオスメスいるのですが、色恋沙汰には全く目もくれず、子供も残しません」
「それもそのはず、職蟻たちはみんないわゆる幼虫で、成熟をしていません。自分の兄弟たちが立派な仲間になるように生涯をささげ、寿命は数年ありますが、その間巣のために毎日働きます」
「十分に大きくなった巣の中では、その中の選ばれた個体が、ニンフ(次の女王や王、いわゆる翅アリになるか、巣に残る補充生殖虫になる個体)と呼ばれる翅が生えそうな形の職蟻になったり、巣を守る専門部隊、兵蟻になったりします」
「兵蟻」は外敵と戦う専門
「兵蟻は巣を守るために育った、戦うことに残りの人生(蟻生?)を捧げるソルジャーです。体の3分の1にもなる大きな頭に、立派な大あごを持っています」
頭が大きく立派な大あごの「兵蟻」でも、臆病で鈍重?
ーそれにしても、役割によって見た目がずいぶん違うんですね。
(大野さん)
「立派な大あごを持つ兵蟻は、さぞかし勇ましい兵隊…かと思いきや、仲間が襲われていても助けに来ることはあまりありません。巣を守るための勇ましいヒーロー!…とは思えない臆病さです」
「巣の外に出してやると頭が重いようでほとんど動けないし、一目散に逃げだそうとします。何より敵に襲われたらその動きの鈍さから敵にとっては格好の的。逃げ惑う働きアリよりも先にやられてしまいます」
「頭が大きくて普段エサも自分で採れず、仲間のお世話をすることもできないので、働きアリにお世話をしてもらっているのに、なんとも弱腰の兵蟻で、数もそんなに多くありません」
ー兵隊アリが逃げだそうと??
(大野さん)
「これはあくまで外に出したシロアリたちを観察しているとそう見えるだけです。では、普段兵蟻アリが何をしているかというと仲間のための楯となることです」
「シロアリの天敵はアリなのですが、シロアリは木の中などで細いトンネルを作って生活しています。迷路のような巣の中にアリが侵入してくるとまさに塹壕戦のようです。天敵であるアリは集団戦術が得意で、時には自分よりも大きな獲物をしとめたり、敵を追い払ったりするのが得意です」
「巣の中に大量にいて、柔らかいシロアリはある種のアリにとって大好物のごちそうです。狭い入り口から侵入してきて、中にいるシロアリを襲おうとします。この時、兵隊アリがトンネルのフタになります。大きな頭でトンネルの狭い場所に陣取り、相手に顎を向けます」
「鈍重で目の前(目はありませんが)しか攻撃範囲はありませんが、こうしてしまうとどんなに強いアリでもこの厄介な障害物である兵蟻を倒すのに手間取ります。その隙にほかの仲間たちは危険な場所からどんどん逃げていきます。この時の時間稼ぎが兵蟻の最大の存在意義なのです」
「兵蟻はその他にも、結婚飛行の時期に翅アリたちと同じように巣から顔を出します。翅アリたちが戻ってこないように押し出している、ということもあるかもしれませんが、大きな頭は明るい薄茶色、翅アリたちが天敵に襲われにくくするように、自分のほうに敵を引き付ける囮になっているのではないかといわれます」
ーシロアリの天敵がアリだったとは!
【後編】では、シロアリとアリの関係について教えてもらいます。
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