今年還暦を迎えた男性。地域おこし協力隊として山口県山陽小野田市の山あいで活動しています。その活動と視点はとてもユニーク。山あいの地域に溶け込みながら絶えず新しいことに取り組む、還暦の挑戦に密着しました。

憩いの場・直売所にひと工夫

朝6時半。山陽小野田市の北部、川上地区には早朝から賑わう場所があります。農産物直売所「ゆめ市場川上」。気が早いお客さんは開店前から品定めをしています。

地元の人
「野菜が新しいし、安いし、ここに来れば友達も出来るし、話してる」

営業は週に2回。地元で採れた新鮮な野菜が並びます。7時のオープンと同時に勢いよく野菜が売れていきました。店の一角でコーヒーを準備する男性がいました。

林茂夫さん
「はい、どうも」

地域おこし協力隊の林茂夫さん(60)です。

林さん
「土曜日の朝7時から9時の間だけやっている、無料のコーヒーサービスですね」

憩いの場でもあるゆめ市場でゆっくりくつろいでもらおうと、2月から始めました。

地元の人
「林さんが来ちゃったらコーヒーが入る。そりゃあいいね」

地域の若手として体力仕事に汗

山口県長門市出身の林さん。ちょうど1年前に、東京から山陽小野田市に移住してきました。年齢は60歳。人口は84人、平均年齢が63歳の川上地区では若手です。就任当初から草刈りや柵の取り付けなど、体力仕事に率先して取り組みました。

林さん
「何でも屋ですよ、まずは。まずは一人の人間として、あ、この人来てくれてよかったなっていう純粋なところから始めないと、信頼関係なんて作れないですよね」

地域の声拾いロゴを作成

住民と関わりながら「困っていること」や「要望」を集め、それをもとにいろいろな取り組みを始めました。そのひとつが、店のいたるところに見えるこちらのロゴ。4月に完成しました。東京にある高等専修学校「東京表現高等学院MIICA」に呼びかけ、作ってもらいました。

林さん
「普通、一般常識だと90人の地区のためにロゴ作るっていう発想はないと思うんですけど、ぼくはとにかく地域ブランディングを念頭に置いて動いているので、逆に90人しかいないことを強みにすることを考えています」

ロゴは、店の人気商品のひとつ、農産加工グループ「ゆめ農房川上」が作るもちのパッケージにも使われています。

川上地区農産加工グループゆめ農房川上・松尾恭子さん
「今から徐々に浸透していくんじゃないかなと思うんですけど。林さんの活動はとてもいいことだと思いますね。私たちも活気づくしね」

地域住民も林さんのアイデアに期待

住民に活動の様子を知ってもらうため「川上通信」を定期的に発行。全世帯に配っています。林さんと一緒に活動するのは「川上ゆめプラン協議会」の山本晃会長です。

ゆめプラン協議会会長・山本晃さん
「林さんはすごいアイデアマンなので、いろんなことを出されるので、できるだけ具現化して地元に反映したいなと思って一緒にやってます。地元の人間としてはやはりすごく保守的な地域なので、カンフル剤といいますか、え、そんなことできる?っていうようなことを言い出すので、楽しいですよ」

次の一手は「ミャンマー人向け野菜栽培」

就任2年目を迎え、林さんは、新たな挑戦を始めることにしました。

林さん
「手前側がモリンガ、その次がローゼル、その次にミャンマー系のトウガラシとかいろいろ植えてみます」

なんと、ミャンマー人向けの野菜の栽培です。

林さん
「これはモリンガの種。一晩水につけてあります。こっちがローゼル」

先月初旬、種をまきました。種は東京に住むミャンマー出身の妻・シーマさんが知人から譲り受けたものを持ってきたのですが・・・

林さん
「これなんの種?」

妻・シーマさん
「見せて。わかんないじゃん」
林さん
「まあ、そういうハプニングもつきものということで」

「母国の野菜を食べてもらいたい」

以前はベンチャーやIT企業で経営や事業の立ち上げに携わっていた林さん。5年間ミャンマーに住んでいたことあります。ミャンマー滞在中も、学校への寄付活動に携わったり、テレビ番組を作ったり…。とにかくいろんなことに興味をもって実践しました。近年増えてきた日本に住むミャンマー人に母国の野菜を食べてもらいたい。ミャンマーとのつながりもあり、栽培を決めました。

林さん
「追求して、ミャンマー人が喜びそうなものを作っていきたいなと」

ミャンマーの青トウガラシやパクチーなど7種類を育てる予定です。最終的には川上地区内で加工・販売までする6次産業化を目指します。

林さん
「今まではどっちかって言うとビジネスなので利益優先。今のところは周りの人との関係を作りながら地域を盛り上げる、みたいなスタンスなので、お金じゃないんですよね。そこがものすごく生きがいを感じます」

「地域を元気に」思いはひとつ

種まきからおよそ1か月。林さんが肥料をまき、山本さんがトラクターで耕します。うねも立って、ずいぶん畑らしくなりました。林さんにとって、山本さんの存在はとても大きいようです。

林さん
「正直僕がこの地域に入ってきて、山本さんみたいな方がもしいないと、相当1人でなんか変なことやってるやつだなっていう、要は地域の方の理解をなかなか得られなかったんじゃないかなと」

地域を元気にしたい思いは、山本さんも同じです。

山本さん
「仕掛けを考えるのがすごく好きな人なので、そういうのが、林さんがやったことが残るように、その手伝いをしたいなと思ってます」

畑ではミャンマー野菜のほかに「ゆめ市場川上」で売れ筋の日本の野菜も育てる予定です。

林さん
「店で野菜が足りなくなったときに、ちょっと待っててくださいって言って畑に行ってぱっと大根2、3本抜いてまた戻ってくるとかいう風にできれば面白いかなと思ってます。ミャンマー産の野菜でも日本でもここでしか作られないとか、もしくはここならではというようなキーワードで何かできないかなと思っています」

種からは順調に芽が出ていました。

林さん
「愛着めちゃくちゃわいてますよ。実ができて口に含んだら、涙流すんじゃないですかね」

必要とされて感謝されることが1番のモチベーションになるという林さん。残された任期は1年と10か月。林さんの挑戦ももうすぐ芽吹きそうです。

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