「刃物の町」と呼ばれる岐阜県関市。鎌倉時代の日本刀作りから続く「匠の技」が、驚きの包丁を生み出しました。鋭さ無類の包丁の名は「KISEKI:(キセキ)」。半分にカットしたトマトに、横からキセキの刃先を滑らせると、手を添えなくても薄く切れていきます。これまでのモノとは段違いの切れ味と丈夫さの秘密は、新開発の「超硬合金」。そこには、世界初の金属素材と最新の技術が投入されていました。

ダイヤやサファイアに次ぐ硬さ!トンネル掘削にも使われる「超硬合金」 

関市の「福田刃物工業」は、創業1896年。130年近い歴史を誇り、雑誌や出版物などを裁断する工業用刃物のシェアは国内トップです。その工業用裁断機の精度は0.05ミリ。厚さ20センチ、700枚重ねた封筒用紙を一瞬で切断し、寸分のずれも出しません。国立印刷局で、紙幣の裁断にも使われています。

手動式のペーパーカッターで、雑誌や印刷物を一度に切断し、刃物の切れ味を試してみました。指2本で軽く力をかけると、厚さ3センチの雑誌が簡単に切断できます。この刃先に使われている特殊な金属素材が「超硬合金」です。

超硬合金は、岩盤を掘る「トンネル掘削用シールドマシン」の爪にも使われ、ダイヤやサファイアに次ぐ硬さ。福田刃物工業は、この超硬合金を加工して、究極の包丁を生み出すことに挑戦しました。

(福田刃物工業 福田恵介取締役)
「(超硬合金は)非常に加工が難しかったので、誰も包丁にすることができなかった。作るなら誰もやったことがないことをやりたいと、エンジニア3人で思った。世界で一番“切れる”包丁が作りたかった」

「ただ硬いだけ」では、薄い包丁の刃にすると欠けやすいため、“粘り”も兼ね備えた超硬合金を2年がかりで開発しました。

包丁によく使われる硬いステンレスは、砥石を使うと火花が散って大きく削れます。超硬合金の場合、砥石を当てても火花は全く飛ばず、ほとんど削れません。

超硬合金の固い素材は、直径0.25ミリの真ちゅう製のワイヤーを使って加工します。その精度は1000分の1ミリ。実際にワイヤーで切り出したデモ用の金属性のパズル2つを組み合わせてみると、切断面がピッタリ合います。拡大してみても、継ぎ目はまったく分からないほどです。

ステンレス製包丁の「10倍」切れ味が長持ちするという試験結果も!

キセキの製造工程を見せてもらいました。まずは、包丁用に開発した超硬合金の板40枚を機械に固定し、水の中へ。細いワイヤーに電流を流して放電を起こすことで、7000度の高熱で溶かして切断します。切断は1分間に0.5ミリのスピードで進み、包丁の形に切り出すまでには10時間かかります。

次は、切り出した板に刃を付ける工程。この金属に刃を付けられるのは、ダイヤモンドの砥石だけ。金属の厚みは1.2ミリで、刃先の角度は通常の約30度よりもさらに鋭い20度。ステンレスなど従来の金属では刃が耐えられず、超硬合金でしか実現できない「薄さ」と「鋭さ」です。

キセキは、ステンレス製包丁の半分の力で切断でき、切れ味は10倍長持ちするという試験結果が出ています。

柄は岐阜県産の天然木。作れるのは1日30本で、価格は1本3万4650円。現在2か月待ちの人気商品です。

「食材の細胞を壊さずに切れる」日本のモノづくりの力を世界に!

キセキを使う地元、関市の日本料理店「葉菜」を取材しました。キセキで切ると、食材の細胞を壊さないため、歯ごたえや舌ざわりが違うといいます。

(葉菜 水谷千佳さん)
「細胞を壊さずに切れるので、艶やかで中の水分が保たれる。化粧したように野菜がきれいになる」

試しに、キセキとステンレス製の包丁で、玉ねぎを切ってもらいました。断面を比較すると、一目で違いが分かるほどです。

(葉菜 水谷千佳さん)
「玉ねぎを切って、水にさらさずに生で食べても甘く感じる」

すでに海外からも引き合いが来ているというキセキ。日本のモノづくりを、改めて知らしめる存在です。

(福田刃物工業 福田恵介取締役)
「岐阜、関市から世界に。この包丁を広げていって、みんなに使ってもらいたい」

あくなき挑戦で生まれた「究極の包丁」…皆さんの家の台所にも1本、いかがですか?

CBCテレビ「チャント!」6月10日放送より

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。