20日に告示され、過去最多の56人が立候補している東京都知事選挙。きょうから期日前投票が始まっています。異色のポスターが続々登場し、波乱の幕開けとなっています。

■「告示日に貼り始めることに無理が」 49人目以降は各自で増設

高柳光希キャスター:
東京都知事選挙は過去最多の56人が立候補し、ポスターを貼る掲示板が足りず、49人目以降の立候補者は各自で掲示板にスペースを増設することになりました。

東京都選挙管理委員会は、A3のクリアファイル2枚と画びょうやガムテープなどを支給し、掲示板の外側のスペースに各自で増設することを推奨しています。

東京都選挙管理委員会
「制度の目的を達成するために、許容される範囲にあると判断した」

本日取材をしたのですが、枠外に出ているポスターは少し風が吹いただけで見えなくなってしまいました。さらに土砂降りだったので、ファイルから出ている部分はかなりふやけてしまっていました。

都内の選挙管理委員会からは「公平性と安全性に懸念がある」という声があがっています。

日比麻音子キャスター:
致し方なく、という印象も受けますね。

早稲田大学教授 日野愛郎さん:
本当にいたし方なく、対症療法でこういう形をとっています。

告示日にならないと何人出るかわからない状況で、告示日に貼り始めることに無理があります。今回の選挙期間は17日間ありますが、全てを使ってポスターを貼っていく必要があるのかどうか、後半だけでも十分にこと足りるかもしれない。

そもそも約1万4000か所ある掲示板に、一人一人がポスターを貼るのは大変です。それも組織力によって貼れるかどうかが変わってくることを考えると、今後は全て電子版で提出し、印字して貼ったものを選挙管理委員会がまとめて貼ることも考えてもいいのではないかと思います。

日比キャスター:
そもそものあり方を見直さなければならないのかなという印象も受けます。

東京大学准教授 斎藤幸平さん:
(候補者と関係ないポスターが)バーっと並ぶのもひどいです。やはり今までのやり方が通用しなくなってきているという感じが、強く表れていますよね。

南波雅俊キャスター:
「選挙ポスターは一つの手段で全てじゃない」と言いますが、手段という意味では、ポスターを入口に「こんな人なんだ」と、自分の選択肢を広げる意味でも非常に重要なものだと思います。

早稲田大学教授 日野愛郎さん:
選挙公報、選挙ポスター、政見放送、これらは選挙公営制度の中で行われているものです。時代に応じて、媒体や伝え方は変えていく必要があると思いますが、それぞれに意味があります。

理念としては、資金力がなくても「開かれた選挙」であること。公職というのは、公(Public)で、開かれていて、被選挙権を持っている人であれば資金力がなくても誰でも出られるもの。

そのことを手助けするための制度として、理念は普遍なので、伝え方を変えていったとしても、理念はしっかり守っていかなければいけないと思います。

■掲示板の約半分をジャック 貼られたのは犬・立候補していない人の写真

高柳キャスター:
また、ある政治団体が掲示板のうち24か所をジャックしているという事態が起きています。

そこには犬の写真、立候補していない女性キックボクサーの写真などが掲載されていました。

さらに、ほぼ全裸の女性のポスターを掲示している場所もありました。警視庁は20日夜、候補者本人を呼び、警告しました。候補者は「合法の範囲内でやっていると思っていた」と話し、その後、ポスターをはがしました。

選挙ポスターの総務省の見解は…

総務省担当者
「他の候補への応援や虚偽の内容でない限り、記載内容を制限するものはない。掲示板に関しては、選挙候補者が政見を広めるためのものと認識している」

早稲田大学教授 日野愛郎さん:
それこそ、犬であれば動物愛護のような、政治的な主張があればいいと思います。ただ、脈絡もない形で並んでいるのを、有権者はどう受け止めていいかわかりません。

公序良俗に反するようなものは、これまでの社会通念上、ある種の規範みたいなもので、人々は行わなかったもの。法律に基づいた制度と規範は、健全な社会を前にまっすぐ進めるための両輪のようなもので、バランスよく今まであったものが崩れてきていています。

やはり法的にも何らかの形で制限をかけていかない限り、同じような問題は続くのではないかと思います。

日比キャスター:
その点を危惧する声は聞こえてきますね。

東京大学准教授 斎藤幸平さん:
法的に制限すると言っても、内容を精査するとなれば、例えば「斎藤はマルクス主義って書いているからダメだ」みたいなことに悪用されかねません。やはり政治思想の自由や民主主義を守っていくための「自由」は、コストとしてそういうことをはらんでしまう問題があると思います。

私が思い浮かべるのは、過激で炎上してもいいから、クリックやいいねや視聴数を稼げればいいというアテンション・エコノミーがいろんなところで蔓延しています。

それがついに選挙まで侵入してきて、政治のあり方を脅かしてると感じています。

日比キャスター:
今後はどうすればいいのでしょうか。

早稲田大学教授 日野愛郎さん:
事前審査で何人出るかということもやってきているので、この問題は対処しようとしていると思います。

ただ、貼られてから対応しているので、一定期間、このようなポスターが人目に触れたわけで、そのこと自体を重く受け止めなければいけないです。

判断するのは非常に難しいと思いますが、公序良俗に反するものはダメなど、今後何らかの基準を作る必要があるのではないか、と感じさせる事案だと思います。

日比キャスター:
子どもたちも、見たくなくても目に入る場所にあるわけですよね。

東京大学准教授 斎藤幸平さん:
そういう意味で本当に良くないと思うし、これが今の民主主義で私たちの置かれてる状況です。

有権者ができるのは、それを踏まえて誰に投票するか、今回しっかりと都民が考えなければいけないと思っています。

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<プロフィール>
日野愛郎さん
早稲田大学 政治経済学部 教授
専門は選挙制度 選挙研究など

斎藤幸平さん
東京大学准教授 専門は経済思想 社会思想
著書『人新世の「資本論」』50万部突破

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