ことしのインターハイ=全国高等学校総合体育大会、男子バスケットボールは福岡県で8月初旬に一回戦を迎える。その舞台に、圧倒的に不利な戦力で臨むチームが和歌山県から乗り込む…たった6人の部員たちで戦うのだ。
その和歌山代表は、日高川町にある学校法人南陵学園・和歌山南陵高校。驚くことに3年生部員6人だけで県予選を勝ち上がり、和歌山代表に。全員が県外出身者だという。
バスケットボールは、コート上に常に1チーム5人がいなければならない。高校バスケのルールは、1クォーター10分で計4クォーター40分で決着をつける。
40分間ほとんど走り続けなければならない彼らが、どのようにして和歌山代表にたどり着いたのか、知りたくなった。メンバーの母親を取材した。
キャプテンは3年生の二宮有志選手。身長172センチ。粘り強いディフェンスと3ポイントシュートが武器。私たちCBCテレビのすぐ近くにある、名古屋市立冨士中学校の出身だ。
二宮選手は、中学2年生の終わる頃、名古屋がホームのBリーグ『名古屋ダイヤモンドドルフィンズ』のU15カテゴリーのトライアウトを受けて所属することに。高校入学にあたって、そのままダイヤモンドドルフィンズのU18カテゴリーのメンバーとして所属する道もあった。
しかし、二宮選手は高校バスケットで全国大会の舞台を経験してみたいと思うようになり、2022年の春、名古屋を離れ和歌山南陵高校への入学を決めた。理由のひとつには、冨士中学の一学年上の先輩が和歌山南陵高校バスケ部で活躍していたこともあった。
「なぜ、和歌山なの?」と母親の三奈子さんは聞いたという。答えは「全国の舞台でなんとしても戦いたいから」だった。三奈子さんは続けて聞いた。「逃げるの?愛知の強豪高校の受験にチャレンジしないのはどうしてなの?」と。
愛知には、ネブラスカ大学で大活躍した日本代表の富永啓生選手が卒業した桜丘高校や、中部第一など強豪がひしめく。二宮選手は、愛知県内ではなく、学校数がずっと少ない和歌山県なら全国へより近道になるからと言ったそうだ。
入学の年を翌年にひかえた秋、和歌山南陵高校バスケ部の練習体験会に参加。その時、チームのプレースタイルがしっくりきたこともあり、家族の元を離れることを決心した。
入学すると、身長205センチのナイジェリア人留学生、アリュー・イドリス・アブバカ選手をはじめ、1年生は14人。和歌山県外から集まっていた。上級生と合わせると、当時の部員数は全部で46人だった。
バスケットボールはインターハイではベンチ入りは12人と決まっているため、熾烈なレギュラー争いが待っていた…はずだった。
しかし、二宮選手らが入学した直後の2022年5月、給与の未払いなどを理由に教員らがストライキを行う「異例の事態」に。
寮の朝ごはんは…「菓子パン」ひとつ
生徒たちは、人生を大きく左右されることに。高校の運営母体である学校法人は、静岡県菊川市にあったが、その静岡県から経営の改善を求める措置命令を受けた。校長が高校に常駐していないとか、図書室が未設置といったずさんな学校運営が明らかになった。そして、次の年からの生徒の募集は停止される事態に。
和歌山南陵高校の開校は2016年4月。少子化を背景に大幅な定員割れが当初から続き、3学年の定員360人の定員割れが改善されることはなかった。こうした中で教職員らへの給与未払いまでおきた深刻な経営難。生徒が身を寄せていた寮の3食の食事にも影響が出たという。
二宮選手の母、三奈子さんは「今は改善されていますが、ひどい時は出される朝のメニューは、菓子パンひとつ。ランチは、ご飯、少量のおかず、具なしのみそ汁。夜もご飯、少量のおかずと野菜、具なしのみそ汁といった内容でした」と証言。
実家に「インスタント食品を送ってほしい」とSOSを発信する生徒も、珍しくなかったということだ。二宮選手らバスケ部14人の1年生は、入学早々に前途多難な高校生活が始まったのだった。
そして、同級生の中には「心置きなくバスケをやりたい」と転校の判断をした生徒も。その年の夏休みが終わると、1年生部員は14人から一気に7人に。学年が終わる頃には現在の6人だけになってしまったのだ。
母、三奈子さんによると、二宮選手は「部員が4人になったら転校したかもね」と話していたこともあるそうだ。しかし、「全国の舞台を踏むチャンスは消えたわけではない」と、和歌山を離れる相談は家族にはなかった。
全国遠征も金銭的なサポートなし 保護者らは27万円をそれぞれ支う
二宮選手が2年生の12月に行なわれたもう一つの大事な全国大会「ウインターカップ」では、3年生たちと一緒に部員17人で東京入り。1年生部員はいなかった。つまり、年が明けて2024年シーズンになると二宮選手らが最終学年となり、生徒募集が再開されない限り、6人だけのチームになるということを意味していた。母、三奈子さんも「どうしてあげたらいいのだろうとずっと悩んでいました」と振り返った。
学校は、幾度か理事長が変わるも経営は改善されなかったという。全国遠征というのに学校側からの金銭的なサポートはバスケ部に対して皆無。保護者らは自分の子どもにかかるウインターカップ中の遠征費用として、27万円をそれぞれ支払ったという。和歌山南陵高校バスケ部の創部は2020年。その歴史は浅い。OBからの寄付などのサポートも期待できない状況だった。
野球部の部員は10人 吹奏楽部は2人 ギリギリの窮地
また、和歌山南陵高校ではバスケ部のほかに野球部と吹奏楽部も活動している。部活は全部でこの3つだ。野球部も状況は大変で、部員は10人のみ。そして、吹奏楽部は2人だけという。全校生徒は、バスケ部の6人を合わせて現在18人の高校。全ての生徒が部活動で人数問題に直面しているのだ。
野球部は、けがなどで1人出場できなくなると、9人ギリギリの窮地に立ってしまう。ピッチャーは試合で球数制限がある。交代選手はどうするのかというと「野手がいつでも変われるように準備しているらしいですよ」と母、三奈子さんは教えてくれた。一方、吹奏楽部の2人は、他校と合同でなければ吹奏楽としてのステージは踏めない状況にある。
ことし4月。学校法人の理事会があった。理事を含む経営陣全員の退任が決まり、新たな理事長が就任した。企業などの支援を受けて、今後は生徒を新たに募集できるように進めていきたいという改善方針が保護者にも伝えられた。「生徒ファーストの運営」が改めて示され、やっと明るい兆しが…
とはいえ、“崖っぷちバスケ部”の保護者たちは、前年のウインターカップでの各家庭27万円捻出の後遺症が残る中で、心配事が年明けから続いていた。
もし、6人で夏のインターハイ予選を勝ち抜いたら、私たち家族の生活もどうなってしまうのか?サポートのために今度はいくら必要になるのだろうか?
和歌山県から試合会場のある福岡県までの移動をはじめ、大会期間中のサポートとなると相当な出費が予想される。8月3日が開会式。その前に福岡入りする必要がある。4日が一回戦、勝ち上がればどんどん滞在日数はのびる。期間中の費用全てを保護者だけの力で支えられるのだろうか? そこで、保護者間の話し合いが重ねられた。そして、出場となった場合は、「クラウドファンディング」で支援をお願いするしかないということになった…
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。