青信号、青リンゴ、アオガエル・・・。「青」で表現されるものは多くありますが、ふと疑問が。
「これってみんな緑じゃないですか?」
そんな疑問を解決しようと、調べてみました。そこには東アジアの文化、宇宙観にまで話が及ぶ、壮大な理由がありました。
ことの発端は、先日のテレビ山口(山口県)の情報番組「mix」で放送したカメムシの特集。
永岡克也tysアナウンサー
「ツヤアオカメムシ、チャバネアオカメムシという3種類になっております・・・」。
原稿を読みながら、永岡はひそかに思いました。
「名前はアオカメムシだけど、正直、これ…緑じゃないか?と…」
身の回りには、緑なのに青と表現するものがたくさんあります。
代表的なものは、青信号。ほかにも、青葉、青リンゴ、アオガエル…。
あくまで主観ですが、みなさん、「まあ、そういうものだから」と理由も知らずに青と言い放ち、自分をごまかして生きていませんか?ちょっと大げさな言い方になってしまいましたが、そのぐらい違和感があったのです。
そんなモヤモヤを解消したい。「青」の秘密に迫る調査は始まりました。
疑問を整理します。
例えば信号機。私は、小さな息子に信号機の色を教えるとき、どう見ても緑なのに、「青になったら渡るんだよ」と教えるのが、心苦しくて仕方ありませんでした。
この疑問に答えてくれる人が、なんと近くにいました。
話を伺ったのは、山口大学人文学部の小林宏至・准教授。この方、「青と緑」に言及した論文を発表しています。ずばり、その答えは??
山口大学人文学部・小林宏至准教授
「端的に言ってしまえば、青という日本語の表現の中に、ブルーとグリーンが含まれるからです。日本語の色彩感覚として、青っていうものの含む範囲が広いっていうことですね」
永岡アナ
「ちょっと分かったような、分からないような感じなんですけども、すみません」
言葉で聞くと少し混乱してしまいましたが、ひと言で言うと、「青という言葉の中に緑も含まれる」とのこと。
…とはいえ、緑は緑!青竹も緑!まだ納得できません。なぜ青が緑を含むのか、その理由まで突っ込んでみました。
小林准教授
「日本語表現の中で、あるいは東アジアの中で、青っていうものは非常に重要な色で。赤、青、黒、白ですね、この4つの色っていうのが非常に対比的に使用されているということになります」
なになに? 東アジア?大きな話になってきました。
つまりはこういうことです。日本を含む東アジアでは、黒、白、赤、青の4色が古代から基本の色彩表現となっていたそうです。
小林准教授
「見た目の実際の色というよりもベクトルですよね。こちら側寄りという意味で、青(寄り)、これは赤(寄り)、白(寄り)、黒(寄り)というふうに言います。東アジアにおける概念ですね。色の分け方になります」
小林准教授の言う「対比的に使用する」とは、例えば「白黒はっきりさせる」という言い方や、赤と青で言えば、赤さび・青さび、赤リンゴ・青リンゴ、顔が赤い、顔が青い…などの表現。
これらは、見た目の色彩どおりという訳ではなく、対照的なものを比べるときの表現として使われてきた、とのこと。
青信号の呼び方も、「実際の見え方よりも赤信号との対比の意味での表現と捉える方が適切」と小林准教授は話します。
小林准教授
「これがですね、東アジアの一般的なですね、コスモロジー、宇宙論っていうか宇宙観ですかね」
ついに宇宙という言葉まで出てきてしまいました。
こちらが基本の4色。
日本社会でも特に重要な色とされていて、それを裏付けるように、この4色は形容詞にできる。黒い、白い、青い、赤い…。緑い、紫い、とは言わない。
実は小林准教授は中国の社会人類学が専門なので、その分野に基づいて解説いただきました。
まさに東アジアの宇宙観、中国の風水にも関わる話で、東西南北、春夏秋冬、架空の生き物、青龍、白虎、朱雀、玄武にもそれぞれ4色のイメージが割り振られています。
皆さんも、子どもに「なぜ青って言うの?」と聞かれたら、「東アジアの宇宙観だよ…」と、教えてあげてください。
さて、青の範囲が広い理由は分かりましたが、小林准教授はこんな話もしていました。
小林准教授
「私の調査に基づけばブルー系が増えていると、青鬼はブルーになりつつあるということですね。青色を与えるとき私たちはこれまではグリーン系を含めて与えていたのに、最近はブルー系が増えているっていうのはあります」
青鬼がブルーに?いったいどういうことなのでしょうか。実在しない空想上の「青鬼」の色は、絵を描く人の「青のイメージ」に委ねられます。
小林准教授は、青鬼が登場する「泣いた赤鬼」の絵本を調べました。
1949年以降に出版された28作品を比較したとき、昔はグリーン系の青鬼が多かったそうです。
ところが、最近の作品はほとんどがブルー系とのこと。
そこにはどんなナゾがあるのでしょうか。
以前は、緑に近い色の青鬼がいましたが、だんだんグリーン系よりもブルー系に寄ってきていて、最近はパープル系も出てきているそうです。
小林准教授によると、青鬼はあくまで1例ですが、ここから分かるのは、青という色からグリーンを思い浮かべる人が減ってきている可能性が高いということ。青のブルー化が進んでいる…とはそういうことです。
最後に、青と呼ぶものの代表格、信号機の色についてです。
小林准教授によると、日本で初めて信号機が導入された当初は、法令上「進め」は「緑信号」とされましたが、人々は「青信号」と呼んでいたそうです。
その後、その呼び方が定着し、法令上も「青信号」に統一されました。
一時は、この呼び方に合わせてブルーの青信号ができましたが、ある理由から不評で、グリーンに戻ったそうです。
それはなぜかというと・・・そう、見えづらかったんです。
確かに東アジアの概念上は赤の反対は青ですが、工学的、つまり見え方的には赤の反対は緑なんです。
反対の色を使うから見やすくなるそうで、実際に、JAFによると、ほぼすべての国で、信号機には赤とグリーンが使われています。
素朴な疑問から出発した「青」問題。私たちが歴史的に持っている、色についての考え方、捉え方を深掘りする結果となりました。
(2024年6月12日 テレビ山口「mix」放送より)
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