血液中のコレステロール量を下げる薬「スタチン」を開発した東京農工大特別栄誉教授の遠藤章(えんどう・あきら)さんが5日、病気のため東京都の施設で死去した。90歳。秋田県出身。   ◇  

◆6000種もの微生物を調べ、薬となる物質を探した末に

 5日亡くなった遠藤章さんの研究は、日本の農村によくあるカビやキノコから始まり、世界の人々の生活習慣病を改善する薬「スタチン」に発展させた。「コレステロールを下げる物質の発見は、種を見つけたようなもの。育てて花を咲かせるのは大変でした」と話していた。

「スタチン」の発見の経緯を振り返る遠藤章さん=2012年、東京都小金井市の東京農工大で

 秋田の山村の篤農家に生まれ育ち、子どもの頃からキノコやカビが好きだった。「みそ汁にするとおいしいハエトリシメジが、ハエにとって猛毒であることがとても不思議だった」。農業技師を目指して東北大農学部に進学。青カビから抗生物質ペニシリンを発見したフレミングの伝記を読み、道が定まった。製薬会社の三共(現・第一三共)に入社後、米国に留学し、コレステロール低下剤の必要性を知った。  焦点は、コレステロールの合成に働く酵素を妨げること。「欧米の研究グループは酵素を妨げる物質を化学合成で作ってくる。張り合っても勝てない。キノコやカビはいろいろな抗生物質を作り出しているから、この酵素の働きを妨げるものもあるだろうと考えた」  帰国後は6000種もの微生物を調べ、京都の米穀店のコメから分離した青カビから、有望な物質を発見した。スタチンの第1号となる「コンパクチン」だった。臨床試験にもたついたが、同様の構造の物質がスタチン類として、三共を含む各社で開発され、爆発的な売り上げを記録した。  晩年はスタチンのパイオニアとして評価され、日本国際賞、米ラスカー賞など大きな賞を相次ぎ受けたが、一般には知られない存在だった。人間ドックで医師から「コレステロールが高いですね。でも心配ありません、いい薬がありますよ」と言われたという。実用研究一筋の「無名の英雄」だった。(吉田薫) 

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