生まれつき体に赤いあざがある難病の男性が大分県にいます。病気を理解してもらおうと、自身のあざを公表し、多くの人を励ましてきた男性の命に向き合う姿を取材しました。

“赤ザル”と言われて…

杵築市に住む首藤雄三さん66歳。右上半身に赤いあざがあり、2015年、血管やリンパ管に異常がある難病「クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群」と診断されました。

今はゆっくりした時間を過ごしている首藤さん。体の変化を感じながらもほぼ毎日、近くにある学校の草刈りに出かけます。ボランティアで4年間続けていて、学校からも感謝されています。

首藤さん:
「小学校の草を刈っているのは、誰かしないといけないと思ってやり始めた。僕の考え方はそれなんですよ」

生まれつきあざがあった首藤さんは、両親からあざのことには一切触れられず育てられました。

しかし、小学校に入学した直後から、『赤ザル』『うつるぞぉ~』『きたない きたない』と、からかわれていたといいます。いつもヘラヘラと笑いながら、嫌なことが通り過ぎるのを待っていましたが、心無い言葉に怒りを抑えきれないこともありました。

首藤さん:
「おやじとおふくろの前で言われたときに、『何でそんなこと言うんだよ』と血がのぼって…。それから2、3日たって、おやじが『雄三あんまり気にすんなや』と言ったのが最初で最後です」

本当の友達が欲しい…そう考えた首藤さんは、本心をさらけ出し、本気の笑顔でみんなと接することを決めました。その結果、小学校を卒業する頃までには『赤ザル』と呼ぶ同級生はいなくなりました。

体のあざを公表、反響も…

大学を卒業後は、スイミングコーチや病院職員などの仕事に携わってきましたが、2015年に転機が訪れます。自身のSNSにあざの写真を投稿したところ、大きな反響がありました。

首藤さん:
「いつか何かの役に立つだろうと考え、娘に体の写真を撮ってもらっていたんです。そしてフェイスブックに載せてみようかなと思い、僕みたいな人もいるよと何気なく出したんですよ。そうしたら世界中からコメントがいっぱい来ました」

同じ悩みを持つ人からの相談など数多くのメッセージが届き、首藤さんはできる限り返信しました。一方で、『裸になって金目当てか』『遠山の金さんみたいで笑える』『キモイものをネットに流すな』などと誹謗中傷もあったといいます。

応援してくれる人や家族がいるから立ち止まっても後退しても必ず前に進める…そう確信し、首藤さんは差別や偏見を受けてきた自身の体験談を絵本にして、人権に関する講演活動を行うようになりました。

講演する首藤さん 2018年

首藤さん:
「同じようなあざのある男の子と会話したことがあって、その子は夏でも絶対に長袖を着ていたそうです。自分がこれまで体験したことを伝えたあと、一緒にランチに行くことになったんですが、その子が自ら半袖に着替えてきました。その時の両親はとてもびっくりしていましたね」

「隠すという行為は、自分を失っているよということを当事者に伝えてきました。講演で『あざがあるだけで僕は普通の人なんです。あなた方のお子さんも普通の人なんです』と言った瞬間にお母さん方が号泣していた。親が普通と思わなくて誰が普通と思うのか…そういう話をする活動をしていました」

新しい使命感を胸に生きる

コロナ禍で講演活動もなくなり、いまは愛犬と一緒に悠々自適な生活を送っています。しかし、脳出血の後遺症で右半身不随となり、あざがある右腕のしびれと痛みはひどくなっています。

首藤さん:
「医師からもう飲む薬はないと…CTを見ながらこれから検査していくけど手術の可能性は大きいと言われた」

父子家庭で2人のこどもを育ててきた首藤さんが頼りにしているのは、娘の夏菜さん。看護師をしながら折を見ては父親を訪ね、手助けしています。

夏菜さん:
「父は友達みたいな感じだったので、仲良く過ごしてきた。自分が大事と思うものに対して絶対に守る、有言実行なところがすごいと思う」

手術の可能性を告げられ『終活』を意識したという首藤さん。自身の命に向き合う中で、将来はあざがある右上半身を献体として病院に提供したいという思いを抱くようになりました。

首藤さん:
「10年後、20年後の医学が進んでいる中で治せる技術が生まれるかもしれない。僕の右腕と右肺と脳を保存してほしい。献体も誰かがしないといけない…この体で生まれた最後の責任だと思う」

多くの人とつながり、笑顔を届けてきた首藤さん。これから生まれる子どもたちのために今、新しい使命感を胸に生きています。

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