震災と原発事故で心に傷を負った人々と、医療従事者たちを追ったドキュメンタリー映画が、6月7日から福島市で上映されます。13年が過ぎても続く「心の病」と、それに向き合い続けてきた医療従事者に話を聞きました。
蟻塚亮二さん「生きることに対する肯定。ぶっちゃけて言うと、死なねばいんだって。人って」
精神科医の蟻塚亮二さん。2013年から相馬市のメンタルクリニックで、院長を務めています。
蟻塚さん「例えば仮設住宅に暮らしていて、津波被害で仮設で暮らしていて、おばさんが亡くなったのをきっかけに眠れなくなって、あの場面がフラッシュバックするっていうPTSDみたいなものとか…」
震災の直前まで、沖縄で診療していた蟻塚さん。沖縄戦を生き延びた人たちが、半世紀以上経った後も心の傷を抱えていることに気づき、年月を経て発症するPTSD=心的外傷後ストレス障害の存在を見つけました。
福島でもこの、遅れて来るPTSDが起きていると話します。
気がかりは“子どもたちへの影響”
蟻塚さん「沖縄にいて原発事故が起きたときに、福島でも50年、60年するとお年寄りがみんなPTSDになるなって私思ったもんだけど、それは、50年経たなくても、こっちに来て、さっき言った津波で流されて仮設にいた女の人が、おばちゃんの葬式で寝れなくなったということがあった」
震災と原発事故がもたらした深い心の傷。いまも蟻塚さんのもとには、多くの人が通っています。
蟻塚さん「未来に対する借金なわけよ。トラウマってのはね。だから今後、ますます出てくるわけだね」
13年経った今も、終わることのない福島の現実。今後についても、気がかりな点があります。子どもたちへの影響です。
蟻塚さん「子どもは敏感だから問題を表面化させるけど、この子どもたちが10年先、20年先どうなるっていうことを考えると、20年先にどうなるかっていうのは、例えばうつ病が増えるとか自殺が増えるとか、そういうことはあり得ないとは限らない。沖縄はそうだったね」
喪失や絶望を抱えながら、毎日を必死で生きる人たちとそれを支える医療従事者。その姿を追ったドキュメンタリー映画が、大きな反響を呼んでいます。
タイトルは「生きて、生きて、生きろ。」
蟻塚さんも、主人公の一人として登場します。
被災地に限らない日本社会が抱える課題
映画を制作した島田陽磨監督。2020年から3年ほど福島に通い、取材を続けてきました。
島田陽磨監督「人間は物理的な基盤だけではなく、精神的な安定とか心の基盤っていうのがちゃんと整った状態でないと生活できない生き物ですので、メンタルクリニックを運営していらっしゃる蟻塚先生と、連携して活動されている米倉さんに連絡を取って、お2人の「背越し」に見える今の福島の現実があるんじゃないかと考えた」
インフラの復旧やオリンピックといった復興を伝えるニュースの影で、何が起きているのか。その疑問が制作のきっかけだったといいます。取材を進める中で、被災地に留まらない、日本の社会が抱える問題にも気が付きました。
島田監督「何か喪失感であったり、虚無感であったり、無力感であったり、何か葛藤を抱えて生きている方は非常に多いと思う」
映画は福島が抱える現実のひとつを描いた作品であると同時に「生きづらさ」という、より普遍的なテーマも含んでいると言います。
島田監督「生きづらい世の中と言われて久しくなりましたけど、そういった方々にも普遍的な視点で見ていただければいいなと」
蟻塚さんも共通する思いを映画に込めました。
蟻塚さん「世間の価値でなくて、生きていることそのものに対する感謝とか肯定的な思いとか、そういうものを伝えたい」
蟻塚医師によりますと、福島では震災後、児童虐待の相談件数が7倍以上に増えたというデータもあるということです。親の抱えているストレスが、子どもにも影響していると蟻塚さんはみていて、今後、ますますこういう問題が、深刻になるのではと指摘しています。
ドキュメンタリー映画「生きて、生きて、生きろ。」は、6月7日からフォーラム福島で上映され、9日には、蟻塚さんと看護師の米倉一磨さん、島田監督3人の舞台挨拶も行われます。
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