テレビ番組で活躍する気象予報士ら有志44人は5日、「気候変動問題の解決に向けて命と未来をつなぐ行動を加速させる」とする共同声明を発表した。天気予報の番組などで気候変動を伝える時間の拡大や伝え方の工夫に努める。  このうち8人が国連大学本部(渋谷区)で記者会見し、問題解決に向けて「今日が第一歩」などと話した。この日は、国連が定める世界環境デーだった。

気候危機の解決を目指す共同声明を発表した気象予報士ら=東京都渋谷区の国連大学本部で

 声明は冒頭で「気象予報士・気象キャスターの多くは気候変動に危機感を持っています」と強調。近年の研究で、猛暑や豪雨の深刻化に地球温暖化が影響していることが分かってきたことに触れ、「気象と気候変動を関連づけた発信」に取り組み、人々の行動を変化させていくことに貢献する、とした。

◆アンケートに回答した130人のほぼ全員が「危機感持っている」

 声明の呼びかけ人や賛同人8人は、1人ずつマイクを握った。

賛同人の斉田季実治さん

 NHKの報道番組などで活動する気象予報士の斉田季実治(きみはる)さんは「天気予報は常に未来に目を向けて発信している。その中で、より先の未来、気候変動も伝えていくことが、多くの方に理解していただくためには大事だと考えています」と語った。  呼びかけ人の気象予報士でキャスターの井田寛子さんは、昨夏の記録的な暑さを「1人の親としても危機感を感じました」と振り返り、「いま声を上げないと、変わるきっかけがないんじゃないか」と行動に移した理由を説明した。  声明の発表に先立ち、4~5月に全国の気象予報士や気象キャスターに募ったアンケートでは、回答した130人のほぼ全員が「気候変動の危機感を感じている」と答えた。  100人以上が「気象情報の中で気候変動をもっと伝えるべきだ」と考えている一方、過去に伝えたことがあるのは80人より少なく、気候変動の情報発信が不十分な現状も浮かんだ。

共同声明の呼びかけ人としてあいさつする井田寛子さん㊨と正木明さん

 共同声明の呼びかけ人たちは今後、メディア関係者との連携を深めて発信の機会増加を目指すほか、気候の専門家を招いた勉強会などで気象予報士らの知識向上も図る。(福岡範行)

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 ◇ 「本当はとんでもない数字」「空が変わってきている」。記者会見に参加した気象予報士たちは1人ずつ、それぞれの思いを語りました。残る6人全員の言葉を紹介します。

◆賛同人の森田正光さん「床屋さんに行ったら隣で…」

賛同人の森田正光さん

床屋さんに行ったら隣で「今年は暑いらしいよ」「毎年、言っているし」と話していた。話が深くなるかなと思ったら、そのまま終わって。 暑くなるということは知っているし、温暖化ってことは知っているけれど、それで終わっちゃっている。 (猛暑や豪雨などが起きたときに温暖化の影響を分析する)「イベント・アトリビューション」が最も重要なキーワードだと思っています。今回の猛暑は、温暖化がどのくらいの影響を与えたのか。定量的なことが積み重ねられないと本当のところは言えないし、大まかなところで分かった気になる。 CO2をどれだけ出したらどうなるかは研究が進んでいくでしょうし、われわれがそれを踏まえて、発信できたらいいなと思っています。

◆賛同人の山神明理さん「子どもたちは一生懸命」

賛同人の山神明理さん

小学校で防災教育をやらせてもらうことが多いです。 子どもたちは気候変動のことも一生懸命学んで、地域の人のために、世界の人のために何ができるかを一生懸命、考えているんですね。 大人は学ぶ機会がなかったなと感じていて、日々の気象情報の中で意識付けできる情報をお届けできればと思っています。

◆賛同人の今村涼子さん「1時間に100ミリでも『またか』」

賛同人の今村涼子さん

毎年、どこどこで40℃を超えましたとか、1時間に100ミリ以上の猛烈な雨を観測しましたという機会が増えているんですね。 40℃を超えても驚かなくなってきているんですよ。1時間に100ミリでも「またか」という状態になってきている。 本当はとんでもない数字なのに、慣れてきてしまっている状況なんですが、危険な気象状況にあるんだよ、ということをいま一度、確認してもらえる発信をしていきたいと思います。

◆賛同人の水越祐一さん「異常事態が日常に」

賛同人の水越祐一さん

2004年に台風23号で非常に大きな被害が出たのが衝撃的で、ショックを受けました。 大きな災害が今では毎年、当たり前のように起きている。異常事態が日常になっていることに危機感を感じています。 いち気象予報士として感じている危機感を多くの方にも共有いただけるような発信をしていけたらと思っています。

◆賛同人の名倉直美さん「関東や東北でも大きな被害」

賛同人の名倉直美さん

小学校向けの出前授業や、子ども向けのイベントなどでお話しするんですが、私は福岡県出身で、小学生のときに、いわゆるリンゴ台風の被害に遭いました。 そのときは強い台風は九州沖縄しかこないという認識だったんです。 けれど、大人になったときには温暖化の影響で九州沖縄だけではなく、近畿や関東、東北など台風の大きな被害が出る地域が広がってきています。 私が小学校のときには考えられなかった状況が、もう既に起きています。 なので、今から行動しましょうと伝えています。

◆呼びかけ人の正木明さん「けじめを付けたいと思っていた」

気象キャスターとしては今、35年目。私の場合は関西の空をずっと見ている仕事にしています。35年間、同じ関西の空を見ていると、昔と今と、変わってきてしまっています。

共同声明を読み上げた、呼びかけ人の正木明さん

もう20年前になりますが、子どもができた段階で、未来がどうなるのか非常に危惧しました。 気候変動の予想のまま行きますと、いろんなところに影響が出始めていて、頑張らなくてもニュースになってきてしまうんですね。その前に、しっかりと気象予報士、気象キャスターとして発信していきますよと、どこかでけじめを付けたいと思っていました。 たくさんのお仲間を得て、(共同声明を)することができました。今日はスタート。ネットワークをしっかりと持ちながら、気候変動の報道を充実したものにしたいと思います。 【関連ページ】共同声明の全文、賛同した44人の名前一覧も 

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