去年、札幌ススキノのホテルで、頭の部分がない男性の遺体が見つかった事件。逮捕・起訴された家族3人のうち、母親の裁判が4日から始まり、無罪を主張しました。


世間を震撼させた事件の初公判。傍聴券を求め、およそ360人が列を作りました。

 傍聴希望の人
「全てが理解できない事件だったので」

札幌・ススキノのホテルで、頭の部分がない男性の遺体が見つかり、親子3人が逮捕・起訴された事件。

 4日の初公判で、母親の田村浩子被告は、涙を流しながら「犯罪を手伝う意思はまったくなかった」などと無罪を主張しました。

事件が起きたのは、去年7月。ススキノのホテルで、当時62歳の会社員の男性が殺害され、頭の部分がのこぎりで切断され、持ち去られました。

 男性の頭の部分は、その後、札幌市厚別区内の田村被告の自宅の浴室から見つかりました。

 起訴状などによりますと、娘の瑠奈被告は、ホテルで男性を殺害し、頭の部分をのこぎりで切断して自宅に持ち帰り、傷つけるなどした罪に…。

 夫の修被告は、犯行当日、瑠奈被告を車で送り迎えし、自宅で瑠奈被告が頭の部分を傷つける様子をビデオで撮影するなどした罪に問われています。

 一方、浩子被告は、瑠奈被告が男性の頭の部分を自宅に隠すことを容認した「死体遺棄ほう助」の罪と、瑠奈被告から頭の部分を損壊するビデオ撮影を求められた際、修被告に撮影を依頼した「死体損壊ほう助」の罪に問われています。

裁判の争点は、この2点が「ほう助」の罪に問えるのかどうか。

4日の初公判で検察側は、浩子被告は、瑠奈被告が頭の部分を自宅に隠匿していることを容認しながら生活を続けていたこと。

さらに、瑠奈被告が遺体を損壊することを知りながら、夫の修被告にビデオの撮影を依頼した、などと主張。

一方の弁護側は、浩子被告は、頭の部分を自宅に保管することについて、容認するようなは発言はしておらず、修被告に依頼したビデオ撮影についても、損壊する計画を認識していなかったなどとして、無罪を主張しています。

起訴内容について問われた浩子被告は、涙を流しながら「助けを求める気持ちで夫に撮影を依頼した。犯罪を手伝う意思は全くなく、損壊を手助けするつもりも全くなかった」などと、起訴内容を否認しました。


(堀内大輝アナウンサー)
今回の裁判のポイントは次の通りです。

【裁判のポイント「母・浩子被告の行動」】
▼瑠奈被告が切断した頭部を自宅に隠したことを認識。
 →「保管容認」発言していない~「死体遺棄ほう助」無罪主張

▼瑠奈被告からビデオ撮影依頼された。
 →頭部損壊する計画の認識なし~「死体損壊ほう助」無罪主張

(堀内大輝アナウンサー)
浩子被告は裁判の冒頭で、田村瑠奈被告が、自宅で頭部を保管したことを認識しながら生活していたこと、また、瑠奈被告にビデオ撮影を依頼されたことは認めています。

その一方で、警察に通報したり、瑠奈被告を咎めたりしていませんが…、

▼「保管を容認する発言もしていない」

▼「ビデオ撮影をしながら頭部を損壊する計画は認識していなかった」

…といったように“死体遺棄・死体損壊”のどちらについても【ほう助=手助け】はしていないとして、無罪を主張しました。

(堀啓知キャスター)
裁判官が、こうした浩子被告の主張について、どう判断するのかが、今回の裁判の争点となります。

元裁判官で弁護士の内田健太さんに話を伺います。「ほう助」の立証は、印象として難しいのでしょうか?

《内田健太弁護士(元裁判官)》
・一般的に“ほう助”とは、物理的に犯罪を手助けすることだが、今回の事件はちょっと特殊で、瑠奈被告の行動を“心理的に後押し”することで手助けしたかが争点になるのではないか。

(堀啓知キャスター)
その「ほう助」の立証について、内田さんは、検察側の主張をどうご覧になりましたか?

元裁判官 内田健太弁護士
・パッとしなかった印象。事実関係しか出てこなかった…。

 (堀内大輝アナウンサー)
4日に開かれた初公判における、検察側、弁護側双方の冒頭陳述の内容をまとめました。

【検察側の冒頭陳述より「瑠奈ファーストの家族関係」】
▼瑠奈被告から「わたしは奴隷です」という誓約書を浩子被告は書かされるも、反抗しなかった。

▼瑠奈被告は、家族の中で圧倒的な上位者で、文字通り“瑠奈ファースト”の家族関係が形成されていた。

▼浩子被告は遅くとも、去年7月3日には“頭部の隠匿”を知ったが、去年7月24日まで容認し、瑠奈とともに生活を続けた。

▼遺体の損壊作業を“撮ってほしい”と求められ、それを容認。さらに修被告にLINEで「撮影カメラマンするでしょ?」と伝え、計画を容認した。

 【弁護側の冒頭陳述より「田村家の家族関係」】
▼瑠奈被告の言葉を否定すると、怒りが爆発して手が付けられなくなってしまう。

▼瑠奈被告が、自分のものを触られることを嫌がり、ゴミも捨てられず、父親は寝る場所がなくなり、ネットカフェで寝泊りしていた。

▼瑠奈被告は、18歳のころから精神的に不安定な言動を繰り返す。

▼瑠奈被告を刺激しないように、瑠奈被告の言うことを否定できない両親とのいびつな生活状況があった。

(堀啓知キャスター)
検察と弁護側の双方が、家族関係を出してきた狙いについて、どう捉えているでしょうか?

また元裁判官として、今後の裁判に対して、どのような思いがあるでしょうか?

《内田健太弁護士(元裁判官)》
●双方の事実に差はないが、証明しようとする「結果」が違う。
●検察側は“異常な行為を普段から容認”していた…というストーリーか。
●一方、弁護側は“両親には何もできなかった”という主張の補強か。

●裁判官もどうしてもニュース見てしまう。法廷内の事実だけで判断することが必要。
●予断持たず審理、判断する。純粋に証拠からどのような事実が認められるかを判断。

●「被告人がどんな行為をどういう意図で行ったか?」「瑠奈被告は、母親の浩子被告の行為をどう受け止めたのか?」「心理的に犯罪行為を促進したと評価できるか?」法理論に照らして、慎重に判断する必要がある。


とはいえ、目の前に遺体、頭部を持ち帰ってきた家族がいる…そうした場面に立ち合いながら、警察に届け出をせずに、罪にも問われないということもあるんでしょうか?

《内田健太弁護士(元裁判官)》
●親族間での犯人隠避は罪に問われない。

●自分が弁護士でも同じように「無罪」の主張をする。

●母親の浩子被告が、物理的に何かしたわけでもない。たとえ、浩子被告が反対したからと言って、瑠奈被告が止まったわけではない。そこを突ければ“犯行が容易になったとは言えない”という主張ができる。

(堀内大輝アナウンサー)
今後の裁判ですが、次回期日は7月1日午後1時半からです。弁護側は今後、修被告の証人尋問や浩子被告の被告人質問で無罪を立証したいとしています。

(堀啓知キャスター)
今後の裁判の進行、瑠奈被告らの裁判への影響は考えられますか?

元裁判官 内田健太弁護士
・今回の裁判で認定した事実が、父親や娘の裁判で証拠として採用される可能性もある。
・安易な認定をせず、丁寧な判決文を書く必要がある。

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