長野市にある県立病院に勤務する医師の加藤雄大(かとうゆうだい)さん。
大けがで車いすでの生活を余儀なくされながら、自身の経験を医療に生かしたいと患者と向き合っています。


長野県立総合リハビリテーションセンター。

患者に夜間、体調の変化がなかったかどうか確認するのは、リハビリテーション科の加藤雄大医師35歳です。

リハビリテーションセンターは、病気やけがにより手足を切断したり、後遺症が残ったりした人たちが、自宅での生活や社会復帰を目指す場所です。

加藤医師はいま、脳血管疾患の後遺症のある患者を主に担当しています。

患者:
「ここにきて頑張るということが、社会に復帰するうえで大事なことになってくるのかなと思います」
「(加藤先生は)優しく説明してくれますし、とてもよく教えてくれるのでいい先生」

加藤雄大医師:
「(リハビリ医は)身体を診るのはもちろんなんですけど、全体を診るというか、マヒだけじゃなくて隠れた病気がないか診るのもドクターの仕事ですし、この方がどうやっていけば、スムーズに社会に戻れるのかというところを見ていく仕事なのかなと思います」


白馬村出身の加藤さんは、看護師だった母親の姿を見て、人を助ける職業に就きたいと信大医学部に進学しました。

特技はスノーボード。


しかし、医師の国家試験を翌月に控えた2017年1月、気分転換にと出かけたスキー場のジャンプ台で事故は起きました。

加藤雄大医師:
「その大きさの台にしては速度が出すぎた状態でジャンプ台に入って飛びすぎてしまったんですね。投げ出される状態になって背中おしりのあたりからランディングバーンを越えたところに落ちて、大けがをしてしまった」

担架に横たわりながら手で体をなでてみると、足の感覚は失われていました。

背骨が折れ、脊髄を損傷。

手術のあとセンターに転院し、本格的なリハビリが始まりました。

腕で床を押して体を持ち上げ、車いすやベッド、トイレなどに移動するトレーニング。

下半身がマヒしているため、安定した姿勢で座れること、排泄が自分一人でできることもリハビリの成果です。

自立へのめどが立ったとは言え、医師になることには大きな葛藤がありました。


加藤雄大医師:
「不便は相当なものだろうと思い浮かぶんですけれど、じゃあ家に引きこもって寝たきりでいいのかというのは、それは違うだろうというのは自分の中でもありましたし」

背中を押してくれたのが、当時の主治医です。


当時の主治医・清野良文所長:
「脊髄損傷になってもリハの分野で活躍している人がいっぱいいる」
「加藤さんの経験が生かせるという意味では、そういう分野がいいのではと話した」

けがをした翌年、国家試験に合格。

信大病院などを経て、2023年春からリハビリテーションセンターに勤務しています。


当時を知る北島勇希看護師:
「医者を(目指すか)迷っているところはありつつも、すごく勉強も同時にやってた。夜も12時くらいまでやっているから全然起きれなくて、朝たたき起こすみたいなことが日課になっていた」

加藤雄大医師:
「弱いところもみられていて、気恥ずかしさはありますけれど、一緒に仕事をしていればチームというか対等な立場ですので、今は同じチームとして頑張ってます」

リハビリには大きく分けて3つの分野があります。

立つ、歩くなど基本的な動きにかかわる理学療法。

食事や着替えなど実際の生活に必要な手先の動作や補助道具を使う訓練などをする作業療法。

そして、話す、聞くなど言葉に関する障がいに対応する言語聴覚療法です。

この日、加藤医師のほか、リハビリ担当者や看護師など10人ほどが集まり、ある患者の退院に向けた対応を検討しました。

担当分野が違う多くのスタッフが関わる中で、患者の置かれた環境も考慮してリハビリの方向性を決めていきます。

目を向けるのは患者の体だけではありません。

清野所長:
「頸椎損傷も脳外傷も普通にできていたことができなくなる。この悲しみや苦しみは想像を絶するものがある」
「気持ちに沿うことが必要」

リハビリの意欲につながるのが「前向きな気持ち」です。

清野所長:
「訓練するとともに、残された機能でこういうことができるという道筋を示すのが重要な役割だと思う」

加藤さんは、毎朝、愛車で通勤します。


加藤雄大医師:
「手元のアクセルブレーキだけで、足を使わずに左手で操作できるようになっていて…」

けがで脊髄を損傷した加藤さんは、7年前、患者として過ごしたリハビリセンターで運転の訓練も受けました。

障がい者専用の教習施設は県内ではここだけ。

車は、両足が使えない場合はすべての操作を手で。


右半身にマヒがある場合は、左足でアクセルとブレーキを踏む改造が施されています。

この日、アクセルとブレーキを手で操作する運転に挑戦したのは、病気で足が動きにくくなった50代の男性です。

障がいの程度によるものの、すでに免許を持っている場合、10時間から15時間の訓練で乗れるようになるといいます。

2年ぶりとなる運転に男性は・・・。

「本当に久しぶりでしたけど、楽しいのひと言ですね」

リハビリテーション科の医師になって7年目の加藤さん。


患者向けの講演では、車いすで観光地やレストランなどにも積極的に出かけている様子を紹介しました。

加藤雄大医師:
「リハビリを重ねる中で、できることが増えて、これならできそうだとうことが、ちょっとずつ増えて自信を取り戻していった」
「ちょっとずつ活動範囲を広げていて、その過程をほかの方にも共有できれば力になるのかなと」

仕事のかたわら、いま加藤医師が熱中しているのが卓球です。


中学時代は卓球部に所属。

車いすになってから再びラケットを握りました。


さらに、バドミントンをすることもあるそうです。

加藤雄大医師:
「スポーツ用の車いすに乗っていろんな競技をすることもできる」
スポーツマンなんですね?
「(笑顔)しっかりのめり込むものはのめり込むので」

リハビリテーションの、より専門的な資格を目指す加藤医師。

2025年の試験に向けて、主治医でもあった清野所長などとの勉強会を重ねています。

リハビリに取り組む患者たちは、それぞれ、以前のような日常生活が送れなくなる悲しみや苦しみを抱えています。

同僚の看護師:
「僕らは(患者の)痛みや足が動かない気持ちがわからないと言われたらわからなない。(加藤さんは)唯一わかって、それをわかってあげられる医療スタッフ」

加藤さんは自身の経験を生かし、多くのスタッフと力を合わせて「その人らしい生活」を取り戻す手助けができればと考えています。


加藤雄大医師:
「勉強して知っていることと、実際なってみて抱く思いは全く違いますので、障がいを分かち合いながら患者さんに寄り添って、その患者さんの救いになれるような医師になりたいとは思います」

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