能登半島地震では沿岸部の広い範囲に津波の被害が及びました。石川県能登町もその一つですが、小木(おぎ)中学校では、2011年の東日本大震災をきっかけに、生徒が中心となって地域住民に津波への備えを呼びかける活動を続けてきました。

そして今回、現実に起きた津波被害。これまでの取り組みはどのように活かされたのでしょうか?

中型イカ釣り船団の拠点でもある能登町小木は、湾が入り組んだリアス式海岸を形成する九十九湾(つくもわん)の奥に位置するのどかな港町です。

しかし、元日の能登半島地震では、小木から北東へおよそ4キロ離れた白丸地区を津波が襲いました。

能登町白丸地区を津波が襲う

小木も港のある中心部は津波の被害こそ免れたものの、ひとつ隣の湾には津波が押し寄せ、道路や建物に被害が出ました。

地区の高台にある小木中学校が津波防災の教育を行うようになったきっかけは、東日本大震災があった2011年から3年間校長を務め、現在は輪島市の教育長を務める小川正さんの存在です。

小川正さん(2012年)「日中、いざ何かあった時にこの地区もそうだが高校生はこの地区にはいない。それからほとんどの方が小木地区以外の地区で職業に就いている。そうすると今、この時間に何かあった時に一番動ける立場というのは中学生」

輪島市門前町に自宅があり、2007年の能登半島地震を経験した小川さんは、小木中学校に赴任する直前に発生した東日本大震災の被害を見て、海沿いの地区で津波防災の教育に取り組む必要性を感じたと振り返ります。

小川正さん「小木に最初に赴任して、東日本大震災のあの地形と全く似たような光景。もうひとつは赴任する前にすでに中学生が東日本の皆さんに対して募金活動を本当に一生懸命やっていたという話を聞いて、これはやはり東日本大震災、そして東北の人たちのことを念頭に置きながら教育活動を展開しなければだめだろうなと」

小川さんは、津波ハザードマップや避難経路をまとめたDVDをはじめ、津波を題材としたかるたや防災寸劇を作りました。さらに避難所の体験会や津波避難訓練など、地域の住民を巻き込んださまざまな取り組みを進めました。

日中、高校生以上の若い世代が少なくなるエリアでは、中学生こそが地域を支える存在になるとの考えは、最後に輪島中学校で教職を終えるまで変わることはありませんでした。

小川正さん「中学生は守られる側から地域の皆さんに働きかけて一緒になって率先してそういう活動を取り組む必要があるのではないかと」

そして、津波の被害が現実となった元日の能登半島地震。

かつてない激しい揺れと、押し寄せる津波の中、これまでの備えは活かされたのでしょうか?

5月10日、小木中学校の生徒たちが、停電した際でも地区の避難所までの道を照らせるペットボトル型の照明器具「ペットボタル」を道路沿いのガードレールに取り付けました。

「ペットボタル」はソーラーパネルとLED電球、センサーが一体となったもので、暗くなると自動的に点灯します。

また、余った給食用のトレーを生徒たちが再利用して作った避難所への誘導看板も設置されました。これまで10年近く続いている防災活動のひとつです。

給食用トレーを再利用し作った誘導看板

小木中学校3年・和田悠河さん「実際にペットボタルのおかげで逃げられた人もいて、スムーズに逃げられた人もいると思うので設置して役に立ったと思った」
小木中学校3年・浦田羽菜さん「地震が起こったことは悲しいけど、準備してきたことがたくさんあるのでそれが役に立ったのはすごく嬉しいし、これからみんなで、私たちだけじゃなくて地域全体で防災活動に取り組んでいけたら」

「ペットボタル」と看板を設置した場所を示すハザードマップも、2年前に今の3年生によって作られました。

こうした活動は、能登半島地震でも活かされたといいます。

住民「(避難所で)中学生がものすごく準備とかいろんなことをしてくれたって聞いてます」
小木中学校・六反田健生教諭「中学生を中心にリーダーシップを発揮してくれて避難所の運営にあたってくれたり、地域の方々も協力して避難所の運営であったり避難活動に携わって、そういう意味では小木中学校でやっている防災教育の活動も意味のあるものだったと感じた」

地震発生の直後にはおよそ700人が避難してきた小木中学校。

生徒たちは住民の避難所への誘導や施設の運営に積極的に関わりました。

小川正さん「繰り返し継続してやってきたことによって、いざ何かあった時に自分たちも少しは地域のためにという気持ちが自然とそこに根付いていたのではないかと。もしそうであれば自分たちが取り組み始めてきたことは決して無駄ではなかったと」

過疎化、高齢化が著しい奥能登で地域防災の担い手となってきた小木中学校の生徒たち。しかし、この13年間で生徒の数はおよそ3分の1にまで減少し、別の地区にある能登中学校との統合が決まっています。2025年3月に小木中学校は閉校します。

長年防災の活動を続けてきた小木中学校 2024年度いっぱいで閉校に

住民「寂しいです。なんか。子どもたちの声が聞こえなくなってくるのかなと思ったりすると、地域としては元気がなくなるみたいな気がして」

小木中学校3年・浦田羽菜さん「今回役に立ったという部分がすごく大きいので(津波防災の活動が)残っていってほしいなという部分はすごく思う。小木のことは小木で頑張って、私たちのこれまでの伝統というのを新しい中学校の方でも新しい文化と一緒に発展していけたらと思う」
小木中学校・六反田健生教諭「やはりこの活動も意味のある活動だと考えているので、今まで中学校がやってきた取り組みだが、中学校がなくなってからは地域全体の取り組みとして残っていってほしと考えている」
小川正さん「中学校がたとえ再編されても、その学校を起点としてどのような取り組みができるか。それぞれの地域でどのような活動ができるか。今やっていることを新しく再編された学校でも形はいろんなやり方があると思うので、ぜひ発展して継続していっていただければと」

東日本大震災以降、中学生の防災への熱意が地域を動かしたように、これからも災害への備えを幅広い世代で共有していくことが求められています。

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