6月1日は、就職活動の選考解禁日です。売り手市場の学生の中には、すでに複数の会社から内定をもらい、どこで働こうか迷っている人もいるかもしれません。元ビッグモーターの社員で、現在は中古車販売会社「BUDDICA」の代表取締役社長を務める中野優作さんに、企業選びのポイントを聞きました。

「成果を上げる人間には天国だった」元社員が語るビッグモーター

「完全なオフっていうのは、月に1回なかったでしょうね」
ビッグモーターで働いていた約10年間のハードワークをそう振り返るのは、中野優作さんだ。

中野さんは、2008年にビッグモーターに入社。在籍していた約10年間、トップセールスとして活躍し続け、幹部にまで上り詰めた。

──ビッグモーターでの働き方は、どうでしたか?

「僕は1年半営業をやった後、店長になるんですけど、その間は完全なオフっていうのは月に1回なかったでしょうね。お正月の店が閉まってるとき以外は1回も休んでないかもしれない。ただ僕の場合は、楽しかったんですよ。やればやるほど売れちゃうので。当時はみんなが酒を飲んでる間に、1人でリストを作ったりして喜んじゃってましたね」

──ブラックな働き方とも言えそうですが…ビッグモーターは、どんな会社でしたか?

「ビッグモーターにいたのは2017年までですが、わかりやすい体育会系の会社でした。実力があれば上がれるし、実力がなければチャンスは回ってこない。僕が感じるのは、辞めた人からすれば完全にブラック企業なんですが、成果を上げる人にとっては天国ですね。当時、社員が4000人近くいたんですけど、成果を上げている人間は『会社が好きだ』ってちゃんと言ってました」

──成果を上げる人には天国…当時のビッグモーターでの成果とは?

「具体的には、粗利と販売台数です。この二つが評価軸なので粗利を出して、台数を売ったり、買取りしていれば、すごく称賛されてどんどん上がっていける感じですね。ただ行き過ぎはもちろんあったっていうから、今回のような問題になったんですけどね」

中野さんは、問題になった不正請求と関わっていない。しかし、自身の働き方が社内の利益至上主義を加速させた一つの原因になったと考えている。

「トップセールスの僕がやっているので、それ(ハードな働き方)がデフォルトになっていく。周りも同じようにやらないと成績を取れないじゃないですか。そういうふうに周りを巻き込んだところはあったかもしれない。彼らはしんどかったと思います」

そう語る中野さんも、一時は2カ月で体重が10キロ以上減り、過労死してもおかしくない状態にまで陥ったという。

「成果主義的なプレッシャーというのはやっぱりありましたね。心を病んだ人もたくさんいたでしょうし、全国展開をガンガンする会社だったので、家族がバラバラになったり。それで家庭が壊れた人たちもたくさんいたでしょうね」

ブラック企業は「会社のメッセージ」で見分ける

エン・ジャパンが運営する「エン転職」が5700人以上を対象に実施したアンケート調査(2023年)によると、回答者の32%がいま働いている会社をブラック企業だと回答している。勤めている会社がブラック企業だと思う理由のトップは、「仕事に見合わない低賃金だから」。ほかにも、「離職率が高いから」「仕事で成長できるが、長時間労働が当たり前だから」という理由が並ぶ。

──約3人に1人がブラック企業に勤めていると考えると、他人ごとではありません。中野さんなら、どうやって見分けますか。

「まず前提条件として、労働基準法を守ってなければ、やばいじゃないですか。それは当たり前の中で、一番わかりやすいのは、メッセージにお客さんの話がないのはまずいかなと思います。僕がビッグモーターにいたときは、『お客さんの期待に応えたい』『お客さんに求められてるから出店する』という、絶対お客さんがセットだったんですよ。

ところが、辞める前ぐらいから、“男のロマン”とかってなってきて。最後の方に辞めた社員の話を聞くと、『お前がやらんと俺が怒られるんやで』っていうプレッシャーのかけ方だったらしいんですよ。『これだけ給料もらってて、その仕事で許されるわけねえだろう』『俺が怒られる』っていうオペレーションになってたらしいので。主語からお客様が抜けたらやばいですね」

それでも…ブラック企業に入ってしまったら?

──もしブラック企業に入ってしまったら、どうすればいいと思いますか?

「僕も相談を受けるんですけど、一番多いのは、『会社が変わってくれる』という期待を8・9割の人が持っていて、下りのエスカレーターに乗ってることに気づいてない。

僕がおすすめするのは、外に通報するかやめるかだけですね。ただ、やめるという前提でどこまで爪痕を残すのかが僕は重要だと思っていて。そんな会社においてでも、腐らずに結果を残して、キャリアアップした方がいいし、逆にそういうストーリーは僕ら経営者からすると、『骨のあるやつじゃねーか』と感じる。『僕はこの1年で結果を出して、御社に入るつもりで頑張ってきました』って言う方が、やるやんけ!とはなりますよね」

中野さんはこれまで、土木作業員、ビッグモーター社員、中古車販売会社の社長…とさまざまな挑戦を重ねてきた。どんな環境においても、重要なのは「出口を決める」ことだと指摘する。

「今置かれた環境をどうするのって、自分でやるしかない。環境に頼らず、置かれた中でがむしゃらにやって、出口を探す。そこに向けて頑張るんです」

中野さんは今、テレビ電話とチャットを使った「クルマの通販」に挑戦している。腹の探り合いや、値引き交渉もなく、オプションも強要されない。ユーザーが安心して車選びができ、真っ当に車を売っている人が報われる業界にしようともがいている。

「お客様のために現場があって、現場のために管理職がいて、管理職のために取締役や社長がいるわけなので、全部お客さんのため。消費者にとっても社員にとっても、透明性こそが全ての時代になるんじゃないかなと思います」

聞き手:TBSアナウンサー篠原梨菜 構成:古瀬真理奈
(TBS NEWS DIGオリジナルコンテンツ「シノキャリ」より)

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