バスの窓を拭いている男性、実は運転手なんです。
北海道千歳市の路線バス会社では、運転手がいるのに減便や路線の縮小をしています。いったいどういうことなんでしょう。
千歳市を走る、千歳相互観光バスの路線バス運転手・江崎毅(たけし)さん57歳です。
千歳相互観光バス 江崎毅さん(57)
「(妻に)毎日お弁当を作ってもらっています」
自宅から徒歩15分。いつも歩いて出勤します。
勤続25年のベテラン運転手の江崎さん。雨がちらついていたこの日は、乗務で注意するポイントを話してくれました。
千歳相互観光バス 江崎毅さん(57)
「歩行者がいるので傘にぶつかることが多い。巻き込みとかに気を付けてはいますけどね」
江崎さんの住む、人口およそ1万人の千歳市の向陽台地区は、千歳駅からおよそ8キロメートルにある住宅街。
この地区には千歳相互観光バスの本社もあります。
公共交通機関はこの会社のバス路線のみ。バスは地域の交通の命綱です。
住民
「不便ですね、これ(バス)ないと。病院行くにも駅行くにもバスは絶対に必要」
千歳相互観光バスは4月から、運転手不足を理由に千歳駅から向陽台地区に向かう最終バスの時間を20分早め、減便しました。
さらに4路線あったうち、2路線は帯広市を拠点とする十勝バスなどが運行を引き継ぎました。しかし…。
千歳相互観光バス 江崎毅さん(57)
「今日もやることがないのでバスの窓磨き。これを今日1日中やるつもりです」
「完全に運転手が余っている。人が余っているなら減便や路線を譲渡をする必要はなかったんじゃないのか」
運転手がいるのに、バスを運転せず、窓磨きや草むしりをしているというのです。いったいなぜなのか。
労働組合の組合長を務める江崎さんによりますと、会社は将来、運転手が退職する前提の人数で路線を維持しようと、4月から運転手をバスの乗務につかせない、日勤という業務を組んでいるのです。
日勤は、バスの清掃や草むしりなど、運転手の仕事とはほど遠いもの。
高齢化が進んでいるとはいえ、バスに乗務できる運転手がいるのに、路線や便数を縮小しているのです。
千歳相互観光バス 江崎毅さん(57)
「運転手という職種で会社に雇われている。運転してなんぼのものだと思っている。“草むしりをしろ”と言われたらするが、それではお客様のためにもならない。1便でも2便でも路線を多く運行して、1人でも2人でも取りこぼしのないように、地域の皆さまに利用していただいての路線バス会社。走りたい」
シフト表に日勤を示す“日”という字が目立ちます。
1日に4人ほどが入る日勤。多い人で月に8回も日勤に入ることもあるといいます。
バスに乗務しないため、乗務手当がつかず、残業もないため、給料が下がることが必至だといいます。
江崎さんは両親と妻の4人暮らし。2人の子どもは独立しています。
ベテランの江崎さんですら手取りの月給は18万円ほど。
ただでさえ厳しい収入に、追い打ちとなります。
千歳相互観光バス 江崎毅さん(57)
「(年収)300万円切る。今年はもう切ってもおかしくない状況に今なっている。4路線あったうちの2路線を他の会社に譲渡してしまったので、その分仕事がない」
組合は去年4月、待遇改善や点検を適切に行うことなどを会社側に求めていましたが、交渉が決裂。
ストライキを行い、バスは終日運休となりました。
千歳相互観光バス 江崎毅さん(57)(2023年4月)
「交渉してきた結果がこんな風に終わってしまって残念に思います。本当に申し訳ございません」
その後も会社との交渉を重ねてきた江崎さん。
ストライキからちょうど1年のこの日も、日勤の問題はもちろん、
給料のベースアップや最終バスの復活を求めて、団体交渉に臨みます。
<会社との団体交渉の様子>
千歳相互観光バス 江崎毅さん(57)
「われわれは乗務員なんで、バス運転してなんぼのものなのに、バスを磨けだとかタイヤ交換しろだとか言うのであれば、なぜそんなの(路線)を譲渡したんだ」
会社側
「余力人員もない中で、感染症などで運休だけは避けたい。そういった結果です」
「働き方改革など、なるべく皆さん(運転手)に負担をかけないように考慮した結果」
千歳相互観光バス 江崎毅さん(57)
「収入に負担がかかっています」
1時間半にもおよんだ団体交渉。江崎さんたちにとって、満足のいく回答は得られませんでした。
千歳相互観光バス 江崎毅さん(57)
「ストライキからちょうど1年経ったが、何ら進展がない状態でいる。(事業を)やめてもらって私たちはそのまま新しい会社でやるほうが幸せだ」
会社側はHBCの取材に対し、「組合との協議中である事項の詳細は、信頼関係もございますので、回答は控えさせていただきます。今後も、組合との団体交渉を拒絶せず、協議を継続していく所存です」と回答しています。
千歳相互観光バス 江崎毅さん(57)
「経営陣はみんな札幌市内に住んでいる。団体交渉のときくらいしか来ない。何も分かっていない、そこが問題じゃないか。今日も外に(労働組合の)旗ありましたね。3年前からずっと立っている。ここに住んでないから恥ずかしくないのかな。普通はありえない」
35年連れ添っている妻の愛妻弁当が、仕事中のつかの間の癒しです。
千歳相互観光バス 江崎毅さん(57)
「妻の支えがないと、やっぱり途中で辞めていた。ここに住んでいるので、路線バスを無くすことは絶対できないなという決意もあります」
地域の足を守りたいと話す江崎さん。その闘いは続きます。
千歳市は市内の路線バス会社の赤字を全額補てんしていて、千歳相互観光バスにも補助金を出しています。
江崎さんたち組合は千歳市に対して、以前まで運行していた22時台の最終バスの復活などを求め、復活した場合のシフト表などを作成し提出しましたが、具体的な回答はまだ得られていないということです。
公共交通である以上、地域の人々を第一に考えて経営してほしいと思います。
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