横浜市教委の傍聴妨害問題 2019年度から今年4月にかけて横浜地裁で審理された教員が被告の刑事裁判4件で、市教委は1回当たり最大50人の職員を動員。傍聴席を埋め、一般の人を事実上、締め出した。19年度に3回、23〜24年度に8回の計11回、延べ約500人を業務として出張させ、手当を出したケースもあった。今月、外部からの問い合わせを受けて対応を検討し、20日に今後は動員をやめると決め、21日に公表した。下田康晴教育長は22日の市議会委員会で「一般の方の傍聴機会が損なわれた。大変申し訳なく思う」と謝罪。弁護士を交えて法的な問題点を整理する意向も示した。
◆かえって裁判に注目集める結果に
市教委は21日に記者会見を開き、職員動員による傍聴妨害を認めて謝罪し、今後は動員しないと表明した。この日の傍聴席は48席のうち、記者約20人を除くと、傍聴愛好家らでほぼ埋まった。傍聴妨害が図らずも、裁判に注目を集めてしまった格好だ。元校長の判決公判が開かれた横浜地裁=24日、横浜市中区で
判決によると、元校長は2021年9~10月ごろに複数回、校長室で児童にキスするなどした。倉知泰久裁判官は、犯行場所を「県内の小学校校長室」と自治体名にも言及せず、被害者についても名前など人物の特定につながる情報は完全に伏せた。ロビーに貼り出される開廷表でも、被告人の氏名欄を空白にする徹底ぶりだった。 明確性が求められる刑事裁判の判決にもかかわらず、具体性を欠く形で認定事実を示したのは、性犯罪で被害者保護の必要性が高いためだ。◆「被害者保護は口実」「不信感抱かせる対応」
市教委は21日の会見で、動員を始めたきっかけは、過去の裁判で被害者の保護者が一般傍聴者に事件の内容を知られるのを望まなかったことだと説明。しかし、性犯罪被害者を支援する上谷さくら弁護士は「裁判所は、法廷で話された内容がそのまま知られても個人情報が分からないよう(どこまで伏せるかという)範囲を決める。被害者を守ることを口実にするのはおかしい」と疑問を呈す。 上谷弁護士によれば、通常、検察から被害者側に秘匿の提案があり、相談した上で裁判所に申請する。「市教委は専門家でもないのに勝手に判断した。自らの立場を守ろうとしていると疑念を抱かせ、被害者の不信感につながる筋違いの対応だ」と断じる。 元裁判官の水野智幸法政大法科大学院教授(刑事法)は、2000年以降、裁判で被害者名の秘匿を認めたり、加害者に起訴状などに記載された被害者名を知られないようにしたりする刑事訴訟法改正が続いたと指摘。市教委の対応について「裁判所の判断以上に傍聴人をはじくのは、憲法に違反する許されない行為だ」と指弾する。 ◇◆盛山正仁文科相「動員、適切でない」
横浜市教育委員会が、教員によるわいせつ事件の裁判で職員を動員して一般の人が傍聴できないようにしていた問題で、盛山正仁文部科学相は24日の閣議後会見で、市教委による動員は「適切ではなかった」と述べた。その上で、市教委が、このようなことが二度とないよう指導を徹底すると表明していることに触れ、「その状況を見守りたい」と話した。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。