先日、鹿児島市に1日限定でオープンしたカフェです。接客に挑戦したのは、言葉を滑らかに話すことができない「きつ音」の若者たちです。
言葉にそれぞれの思いを込めて会話を楽しむ時間を取材しました。

鹿児島大学に1日限定でオープンした、「注文に時間がかかるカフェ」。

店員は全員、きつ音の若者です。クラウドファンディングなどを活用しこれまでに全国24か所で開かれました。鹿児島では初めての開催です。

企画したひとりで、店員の鹿児島大学2年、鬼束倫太朗さん。SNSでカフェの存在を知り、去年、広島で開催された際に参加しました。

(鹿児島大学2年 鬼束倫太朗さん)「きつ音者同士の繋がりがあまりない。自分の周りでもそういう場を作れたらと計画した」

きつ音は言葉が滑らかに出ない症状で、日本には100人に1人いるといわれています。鬼束さんが話し方に違和感をおぼえたのは保育園のころです。

(鹿児島大学2年 鬼束倫太朗さん)友達の名前がすっと言えなくて、両親に相談したらきつ音というのがあると教えられた」

周りの人には自分がきつ音であることを伝えていない、鬼束さん。カフェの開催が決まっても友人に声をかけることができませんでした。

(鹿児島大学2年 鬼束倫太朗さん)「きつ音だからと気を使わせてしまうのではと思うと相手に中々言えない。不安なこともあるけれど、せっかくなら楽しい時間にしたい」

もう1人の店員、鶴丸高校1年の初田心音さんです。中学生のころ生徒会長を務めていましたが、きつ音の症状が重くなり悩んだといいます。

(鶴丸高校1年 初田心音さん)「いつもなら言えることが言えなくなって、人前に立っていたけれど時間がかかっちゃうこととか、申し訳なかった」

それでも大好きな「人と話すこと」を諦めたくないと、カフェへの参加を決めました。

(鶴丸高校1年 初田心音さん)「不安もあるけれど、人と話すのがとても好きなので楽しみ」

時間はかかるかもしれないけれど、それぞれの思いを込めて。1日限りのカフェがオープンしました。

(記者)「予約のお客さんで席は満席。接客に決まったセリフやマニュアルはない。話しやすい自分の言葉でコミュニケーションをとっている」

客の多くは、きつ音の人やその家族です。体験談を交えながら、交流を深めます。

(鬼束さん)「入学式とか卒業式の返事の時は一番緊張する」

(客)「うちの子もそういう感じで、音読で言いづらかったりしているところ」

(鬼束さん)「音読のときに先生がタンバリンでリズムをとってくれた」

きつ音について知ってもらおうと、クイズも用意しました。

(初田さん)「きつ音がある人と同じクラスになったらあなたはどうしますか」

(子ども)「話しかける」

(初田さん)「正解。ほかの人と同じように話しかけてくれるとうれしいな」

(客)
「この子がきつ音で、ぜひ店員に会って立派に大きくなって、普通に働いたり学校に行ったりしているのを見せられたからよかった」

「同じ症状を持った人たちがいて、その人たちも頑張っているんだと思って自分も頑張ろうと思った」

接客の様子を優しく見守るふたり。初田さんの両親です。

(初田さんの両親)「知らない人とちゃんとコミュニケーションが出来ているのだと、見ていてうれしかった」「本人が喋ることが楽しかったと言って社会に出ていく良いきっかけになれば」

ゆっくりと、丁寧に。自分の言葉で会話のキャッチボールを楽しんだふたり。
3時間でおよそ30人が訪れ、カフェは盛況に終わりました。

(鶴丸高校1年 初田心音さん)「いつも話さなかったりして、相手に本当に伝わったか心配になるけれど、きょうはありのまま、自分の言葉で話せたので思いが伝わったと思う」

初田さんの将来の夢は、小児科医になることです。

(鶴丸高校1年 初田心音さん)「きょうこうやって初対面の人とも楽しく話せた経験を自信に変えて、自分も支えられてきたので、その分を次の子どもたちに返していきたい」

自身がきつ音ということを友達に伝えることができなかった鬼束さんにも、心境の変化がありました。

(鹿児島大学2年 鬼束倫太朗さん)「きつ音の悩みを共有できる人がいてくれて良かったと言われて、カフェをやってよかったと思った」「きつ音は恥ずかしいことではないと思えたので、今度テレビにでるよみたいな感じできつ音だと友達に伝えられるかなと思う」

1日限りの、特別なカフェ。エプロンを外したあとも、二人のこれからの支えになる時間になりました。

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