警視庁の警察官に不当な事情聴取や個人情報の漏えいをされたとして、南アジア出身でイスラム教徒の40代女性と当時3歳の長女(6)が東京都に計440万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は21日、違法性を認めず請求を棄却した。訴訟では、目撃者が「警察官が3歳の女の子に『おまえ』と言った」と証言したが、「唐突で不自然」と退け、警察官の証言を全面的に認めた。原告は控訴を検討する。

◆警察側「女性の同意を得た」と主張

判決内容が不当だと訴える原告の女性=21日、東京・霞が関の司法記者クラブで

 女性は2021年6月、都内の公園で長女と遊んでいて、「子どもが女の子に蹴られた」と主張する男性とトラブルになり、外国人への差別発言を浴びせられたと主張。駆けつけた警察官の対応が焦点となり、女性は「帰宅したいと告げたが警察署に連れていかれ、承諾なく3歳の娘だけで聴取された」と訴えていた。  片野正樹裁判長は判決理由で、署への同行は「積極的に同意したと言えないまでも強制的に連行したと認められない」とし、娘だけの聴取は「女性から『時間がかからないなら構わない』と言われた」との警察官らの証言から承諾があったと判断した。  女性は自らの電話番号や住所をトラブル相手の男性に漏えいされたとも主張したが、「女性の同意を得た」という警察官らの証言を理由に認めなかった。  訴訟では、公園に居合わせ、日本語を話せない女性の通訳をした男性が証人として出廷し「警察官が3歳の女の子に『おまえ本当に日本語しゃべれねえのか』と言った」と証言。判決は「いきなり『おまえ』と呼び付けたというのは、いささか唐突で不自然」として信用性を否定した。  警視庁は判決について、「主張が認められたものと認識している」とコメントを出した。(加藤益丈)

◆「裁判官が『警察の言うことは全て正しい』とするのは問題」

 「人権侵害を助長する判決だと思っている」。女性は判決後、東京・霞が関であった記者会見で、肩を落とした。娘は6歳になった今もトラウマ(心的外傷)に苦しみ夜中に泣き出すこともあり、精神的な治療も受けているという。

判決後に記者会見する原告側の代理人弁護士ら=21日、東京・霞が関の司法記者クラブで

 女性は「警官には何度も『障害のある息子がいる。早く帰らせて』と言ったが、警官は『こちらへ』と(パトカーに)誘導し聞き入れてもらえなかった。娘を1人にさせ、5人の警官が取り調べるのはおかしい。日本の外国人に人権はないのか」と声を詰まらせた。  女性の代理人を務める中島広勝弁護士は「警察への連行も判決は『母親の同意があった』としたが、外国ルーツの母子が、明確に拒否していないから『任意』と判断していいのか」と判決に疑問を呈した。  西山温子弁護士は「裁判長は、弱い立場の人が感じる心境やプレッシャーが分かってない。裁判官が『警察の言うことは全て正しい』としたり、親子と利害関係のない第三者の証言を『唐突で不自然だ』としたりするのは問題。警官の言動が差別を助長していないか考えてほしい」と語った。  女性は「裁判長は警察の主張ばかりを受け入れ、なぜ、私たちの話を聞かないのか。日本は、外国人を皆締め出したいのだろうか。このような判決が、国際社会からどう受け止められるか。高裁に望みを託したい」と力を込めた。(望月衣塑子) 

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