不要になった網を裁断し、リサイクルして別の商品の素材にする取り組み。意外な形で網に触れながら漁の再開を待ちわびている。(井上靖史)
漁網を切るアルバイトに汗を流す沖崎勝敏さん(手前左)ら輪島港の漁師=いずれも金沢市で
◆「パタゴニア」の素材に
「大体これくらいやな」。4月下旬、金沢港近くの県漁協の資材置き場。輪島港を拠点とする漁師17人が、廃棄される網を2メートル四方に裁断していた。マグロを捕る巻き網漁に使われていたナイロン製で、鳥取県や大阪府から運び込まれた。 裁断を依頼したのは、千葉県山武(さんむ)市を拠点にする漁網リサイクル業「Ellange(エランゲ)」(本社・東京)。千葉県や茨城県内などから回収した網を裁断して海外の業者に送っている。網は布や糸に加工され、帽子や洋服などの素材になる。アウトドア関連ブランド「パタゴニア」がこの素材を使う。◆「支援のお願い」きっかけ
「仲間たちが困っている」との理由で漁師たちに作業を打診したのは、エランゲの関幸太郎社長。石川県の海産物を扱う仕事をしていたことがあり、以前から輪島と縁があった。生活の支えにしてもらおうと、3月中旬から平日の月―木曜に実働6時間、時給1400円で仕事を任せることに。金沢市周辺に2次避難する漁師20人が登録。作業場は県漁協に借りた。 関さんが窮状を知ったきっかけの一つが、輪島市小型底引き組合の沖崎勝敏会長(49)が発信した「支援のお願い」というホームページ。「輪島市の海岸は隆起し港は壊滅状態にあります」「この時期はまさにカニ漁の最盛期でした」などとつづった。その沖崎さんもアルバイトに参加している。「輪島におっても(収入になるものが)何もない。生活のため。でも、こういうリサイクルがあるとは知らなかったし、良いこと」と受け止めている。倒壊した家屋の下敷きになった際に負った左腕のけがの跡を見せる漁師の舩板大峰さん
◆ありがたい…でも早く漁に出たい
参加する漁師の中には元日の地震発生時、輪島市の親戚宅が倒壊して下敷きになり、左腕の骨折と眼底が陥没する重傷を負った舩板(ふないた)大峰(たいほう)さん(44)もいる。裁断のためのナイフを右手に「左腕はまひが残っている。何とか片手でできる作業はありがたい。でも元の港に戻って早く漁に出たい」と思いを打ち明ける。 輪島港では仮桟橋に漁船を移動させ、船着き場の海底を掘削する準備が進んでいる。いつごろ本格的な漁を再開できるか、見通しは立っていない。裁断のアルバイトは当面、続けられる予定だ。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。