改正入管難民法が17日の衆院法務委員会で可決され、税金や社会保険料の滞納などを理由に外国人の永住資格を取り消せるようにする制度が導入に近づいている。台湾出身で2018年に永住資格を取得した芥川賞作家の李琴峰(り・ことみ)さん(34)は、日本社会にくすぶる外国人への排外的な感情を刺激し、差別を加速させると警告する。李さんに、同制度についての考えを聞いた。(聞き手・池尾伸一)

 李琴峰(り・ことみ) 1989年台湾生まれ。2011年早稲田大に留学、13年に再来日し同大大学院で修士課程修了。18年に日本の永住資格を取得。21年『彼岸花が咲く島』で芥川賞受賞。同作では、「一つの警鐘」(李さん)として、架空の国〈ニホン〉が「外人」を全て追い出し人口が半分になるストーリーも描いた。レズビアンと公表しており、性的少数者(LGBTQ)の権利についても積極的に発言している。

李琴峰さん

◆「外国人だけをターゲット 不平等で差別だ」

 ―政府が導入しようとする永住資格の取り消し制度をどうみる。  「強く反対している。税金や社会保険料を払わない人にはすでに法律で罰則がある。外国人だけをターゲットに永住権を取り上げ生活基盤まで奪ってしまうのは過剰なペナルティーであり、不平等で差別だ」  「法案が成立すれば、『外国人は税金を納めていない者が多い』という誤ったメッセージを政府が発することになる。もともとくすぶっている日本人の排外感情を刺激し、ヘイトスピーチを加速させるおそれがある」  ―永住者の未納率が高いという根拠はないと。  「政府は国会で永住者全般の未納率についてデータを示さず、一部自治体が『払わない永住者がいて困る』などの声があると述べただけだ。必要性が証明できないのに、制度を無理に入れようとしている。政府が外国人労働者受け入れの新たな仕組み『育成就労制度』を導入するにあたっての排外的な保守勢力への配慮からだ。わたしたち永住者の生活基盤はこうした取引の材料にされている」

◆「成立すれば、日本の魅力は大きくそがれる」

 ―外国人への差別や排外的な感情は近年高まっているか。

衆院法務委員会で答弁を求め挙手する岸田首相。右は小泉法相=5月15日

 「そう感じる。わたしは、『名探偵コナン』など日本のアニメやポケモンのゲームが大好きで15歳から独学で日本語の勉強を始め、もっと勉強したくなって11年に来日した。大学で勉強し、13年には大学院に行き、その後日本語で小説も書くようになった。この間、筋金入りの保守派である安倍晋三氏(故人)が首相になったことで、普通の人たちも『ヘイト的な言説をしても許される』と思うようになったと感じる。過激な言説ほど閲覧回数が増えてお金になるSNS(交流サイト)の悪い影響もある」  「わたし自身、芥川賞をもらった際に『外国人がもらうなんて許せない』『反日は帰れ』などと中傷を受けた。母語でない日本語で小説を書くほど日本文化が好きなわたしが『反日』のはずはないのに。今回の法案はそうした排外的感情の高まりの結果ともいえる。与党は外国人に厳しい姿勢を示すことで選挙の票をとれると踏んでいる。人手不足で年金財政も危ういなか、外国人抜きでは日本社会がもう成り立たなくなっていることを認識していない人が多過ぎるのも問題だ」  ―法案は日本社会にどんな影響があるだろうか。  「成立すれば、外国人に『日本はあなたを労働力としてしかみていない。あなたがいかに日本社会に貢献しようと、日本はあなたの生活基盤を奪うことができる』というメッセージを送ることになる。日本の魅力は大きくそがれ、日本以外で働ける人はほかの国に行くだろう。行ける国が多い優秀な人ほど日本を選ばなくなるのではないか」

 永住資格 10年以上日本に在留している外国人や、日本人と結婚した配偶者、高度な技術や知識を持つ人などに許可され、昨年6月末時点で88万人。現行制度では1年超の実刑が確定した場合に失うことがある。新制度では取り消し対象が大幅に拡大され、住居侵入など一定の罪で1年以下、執行猶予付きの懲役刑を含めて有罪判決を受けた場合や、税金や社会保険料を納めない場合、在留カードの不携帯など入管難民法に抵触する場合も剥奪(はくだつ)の対象になる。



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