離婚後も両親の双方に親権を認める”共同親権”の導入を柱とした改正民法が5月17日に、成立しました。長年、法改正を待ち望んだ当事者がいる一方、DVや虐待を経験してきた人たちからは、不安視する声があがっています。運用面での課題を取材しました。

「共同親権」で“親子の断絶”解消されるか?歓迎する親たち

5月11日の土曜日、離婚や別居などで子どもと別れて暮らす親たちの集会が行われた。

親子の面会交流を実現する全国ネットワーク 武田典久代表
「共同養育・共同監護・共同親責任ということが重要だと考えておりまして」

双方の親に親権を認める“共同親権”の導入を待ち望んできた当事者たちだ。

武田代表
「共同親権になると、どうなるかと言うと、色んなことに対して双方協議で決定することが前提となります」

これまで、親権を失った親は子どもとの面会がなかなか実現しないケースがあったと訴える。

参加者
「いつも向こう(親権者)の気分次第で会えたり、会えなかったりというのがずっと続いていて」

参加者
「いわゆる妻の浮気と、僕に対する暴力をしていたにもかかわらず、結局1年半以上子どもに会わせてもらえませんでした」

今回の法改正で、調停などで争っている場合でも、家庭裁判所が試しに面会交流を促せることが盛り込まれた。

さらに、当事者たちが問題視してきたのが、一方の親による“子どもの連れ去り”だ。

当事者
「約5年前、娘2人を連れ去られました。ばったり娘と会うと『家に帰りたい』『パパの家に戻りたい』そういう発言を正直聞いています」

参加者
「私は元夫に暴力を受けて、そのときに無理やり離婚届を書かされて、相手が親権者となってしまいました。ただその相手が私の子どもを連れ去りまして、どこにいるのかも分かりませんし、ずっと会えていない状況です」

共同親権が認められれば、子どもの住居や進学など生活に関わる重要事項を協議して決めることになり、親子の断絶が解消されるのではないかと期待を寄せる。

武田代表
「父母の関係と親子の関係というものは別物である。離婚しても別居する親も含めて、双方の親が子どもの養育に関わる。こういう立法宣言を国民に対して明確に発するという意味合いで、(法改正は)意味があると考えています」

「崖から突き落とされた気分」共同親権に反対の声も

先週、共同親権に反対する人たちが集まったデモ。

すでに離婚していても、共同親権が遡って認められる可能性があることに不安の声が上がっている。

DVが原因で、5年前に離婚したという女性は…

女性
「DVや虐待の恐れは過去のことだと思ってた。だけど未来のことだと言われて、崖から突き落とされた気分になりました」

村瀬健介キャスター
「そういったこの問題点が十分に国会で議論されたと思われますか?」

女性
「全く思わないです」

離婚したばかりだという別の女性は…

女性
「(共同親権が)今ないから、子どもと2人で穏やかな日々が暮らせている。共同親権だったら元夫と連絡を取って一緒に決めていかなければならない」

海外でも導入も…「元夫とのやり取り避けられず。暴言・中傷も続く」の声も 

共同親権の導入が進められた理由の一つは、海外ですでに採用されている国の数が多いことだ。

制度の問題点が指摘された国もある。

1995年「共同親権」に近い制度が始まったオーストラリアでは、共同での養育が強く推奨されてきた。

イザベラさん(仮名)は、夫から暴言など精神的虐待を受けたことで10年前に離婚した。単独での養育を希望していたが、法律が共同での養育について定め、裁判所もそれに従う傾向があったという。

イザベラさん(仮名)
「私は(虐待の)加害者である元夫の要求を100%のみました」

山本恵里伽キャスター
「実際に共同の子育てとなってから、ご自身にはどういうことが起きましたか?」

イザベラさん(仮名)
「いろいろな取り決めをするためには、元夫とのやり取りは避けられません。暴言やウソの中傷も続いています」

子どもたちも、母親への虐待を見てきたことで、精神的に不安定になり不安症と診断された。医師らから、カウンセリングを受けさせるよう勧められたが、父親の同意が必要となる。

イザベラさん(仮名)
「医師や学校から元夫に子どもたちへのカウンセリングに合意するよう伝えましたが、彼は拒否したのです」

オーストラリアでは子どもの養育に関して、意見が対立した場合、政府が委託した民間の支援センターが支援するのだが…

イザベラさん(仮名)
「支援センターは、ほとんど何もしてくれません。資金不足なのです。別居後の虐待被害への支援は皆無です」

2023年、オーストラリア政府は養育をめぐる裁判の乱用や長期化から子どもを守るため、それまでの方針を転換し、“共同での養育にこだわらない”とする法改正を行った。

日本で「共同親権」が新たに導入されることについて、イザベラさんは…

イザベラさん(仮名)
「とても胸が痛いです。日本の多くの当事者たちが、本当にストレスを感じていると思います。まるで、列車事故をスローモーションで見ているような感じです。列車を止めてほしい。でも、止めるために何もできないのです」

“共同親権”導入の狙いは? 「権利を親から子へ パラダイムの大きな転換」

なぜ「共同親権」が導入されたのか。民法の改正案を審議してきた一人、棚村氏に聞いた。

法制審議会(家族法)委員 早稲田大学名誉教授 棚村政行氏
「夫婦は離婚して他人になっても、子どもにとって父親・母親は変わらない。きちんと責任を果たしましょうというメッセージを、今回の法制度で与えていきたい。(共同親権を)到底出来そうもない人たちに強制することを考えているわけではない。何も決まらない人たちにやってもらっても、かえって子どもの利益にならない」

改正前の法律では、親権を「成年に達しない子は、父母の親権に“服する”」と定めていた。それが、「親権は“その子の利益のために”行使しなければならないもの」と変わった。

これが、改正民法の重要なポイントだと棚村氏は強調する。

早稲田大学名誉教授 棚村政行氏
「これまで親権=親の権利、親が子どもを支配する権利というイメージがどうしても拭えなかった。親の権利というより子どもの権利じゃないか?と。養育費も親がもらえるのではなく、子どもの成長のために必要なもの。子どもの利益や子どもの権利をいかに守っていくかという、親の権利から子どもの権利への大きな転換

山本恵里伽キャスター
「今回の議論は子ども目線での議論だと感じていますか?」

早稲田大学名誉教授 棚村政行氏
「対立があったりしますが、そういう議論は、非常に大人の目線ではそうだと思うんですよね。子どもの利益を守ろうという割には、子どもの意思や子どもの気持ちなどを条文の中に今回盛り込むことができなかった。賛成と反対の極端な議論の中で、40くらい提案されていたものが、7つくらいしか実現していない。これは本当に残念」

賛否が激しく対立したのは、法律が目指す理念に対して、それを実現するための支援体制が整っていないからだと指摘する。二年以内の施行に向けて、今後はガイドラインの策定や裁判所などの体制強化が課題となっている。

早稲田大学名誉教授 棚村政行氏
「(DV)加害者側は『やってない』と言うし、被害者側は『受けて恐ろしい』と。被害者側の気持ちに立って、安心安全を確保するような運用をすべき。不断の見直しをしながら、最新の海外の経験とか工夫も取り入れ運用や支援をしっかりとすることが、むしろ法制度が狙うところの実現に向かうのでは」

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