貴重な生物が暮らす北海道の釧路湿原に今、大量のソーラーパネルが立ち並んでいます。
 なぜ、こんなことに?釧路湿原の未来はどうなるのでしょうか?

 視聴者からの疑問や悩みを調査するHBCの「もんすけ調査隊」にこんな疑問が寄せられました。

依頼者(ポンタさん・40代・釧路市)
「釧路湿原に、大量のソーラーパネルが設置されていますが、自然は大丈夫なのでしょうか?」

 実は今、熊本県の阿蘇山では、斜面にソーラーパネルが立ち並んだり、奈良県の古墳では、周りをソーラーパネルが埋め尽くしたりするなど、環境に優しいはずのソーラーパネルが、自然を破壊し、景観を損ねていると問題になっています。
 
 世界の湿地を保護する「ラムサール条約」にも登録されている釧路湿原は、国の特別天然記念物のタンチョウをはじめ、多くの貴重な野生生物が生息しており、4つの市町村にまたがる日本最大の湿原です。
 その釧路湿原は今、どのようになっているのでしょうか?

調査員
「ありました!多くのソーラーパネルが並んでいます」

 やってきたのは、北海道釧路市の隣にあるマチ、釧路町。
 釧路湿原には、見渡す限りのソーラーパネルが設置されており、およそ360万平方メートルにも及ぶ広大な土地は、まるでソーラーパネルの畑のようです。
 
 これだけ多くのソーラーパネルを設置して、自然環境に影響はないのでしょうか?
 50年に渡り、釧路湿原の保全と再生に取り組んでいる釧路自然保護協会の神田会長に聞きました。

釧路自然保護協会 神田房行会長
「ソーラーパネル設置業者と話したことはあるが、大元は外国の資本が主で、お金がもうかればいいというようなスタンスが見えているので、ある種の怒りも覚える」

 釧路湿原は日照時間が長く、土地が安くて平坦なので工事費用も抑えられます。
 さらに、住宅街が近いため、送電網も整備されているので、ソーラーパネルの設置に最適だといいます。
 そして、太陽光発電で作られた電気の多くは売電され、札幌などの大都市を始め、本州にも送られているのです。

 今、釧路湿原周辺の市町村には、多くの事業者から問い合わせが殺到しており、もし、その問い合わせのあった場所にソーラーパネルが設置された場合、2年後の釧路湿原は、このような姿になると神田さんらはシミュレーションしています。

釧路自然保護協会 神田房行会長
「今一番問題なのはキタサンショウウオ。生息地と太陽光パネルの開発予定地がほとんど重なっている」

 ソーラーパネルの設置予定地には、環境省のレッドリストで絶滅危惧種に指定されているキタサンショウウオの生息地や、特別天然記念物のタンチョウの営巣地や餌場があり、貴重な生物が絶滅するのではないかと神田会長らは危惧しています。

釧路自然保護協会 神田房行会長
「再生可能エネルギーを推進することは大賛成だが、立派な自然があるのに、壊してまで太陽光発電所を作るのは、いかがなものかと」

 さらに、野生生物への被害は釧路湿原周辺にも広がっていると指摘する人も。

日本野鳥の会 釧路支部 黒澤信道支部長
「どんどん工事が進んでいるところがあるので、どうやったら止められるのかなと。私たちが見たところ、レッドリストに載っている『オオジシギ』や『チュウヒ』が影響を受けている。工事以降確認できていない」

 黒澤さんは「工事が野鳥に影響を及ぼしている」と話します。

日本野鳥の会釧路支部 黒澤信道支部長
「土盛りをして作ってしまうと、餌場にもならないし、営巣地にもならない。飛びながら餌を探す鳥は、目隠しになってしまう」

 一方、太陽光発電所の事業者によると…。

太陽光発電所の事業者
「建建設前に環境影響評価を実施し、建設後も環境影響に関する調査を定期的に継続しておりますが、いずれも環境に影響は出ていないとの結果が出ております」

 さらに釧路町によると…。

釧路町環境生活課 大中公史課長
「聞いた話では、キタサンショウウオなんかは適地へ移植をして、生態系を極力維持する姿勢を見せてもらったら、なおさら町としても、法規制以外のものは、なかなかできないのが実態」

 実は、事業者に強い規制をかけられない現状があるといいます。

釧路町環境生活課 大中公史課長
「自然公園法の中で十分に規制や保全と明記されているので、法律の中でできるものはできる、できないものについてはできないという認識」

 国立公園でもある釧路湿原は、自然公園法によって規定されていますが、実は保護レベルによって大きく3段階に分かれており、民有地と公有地が混在しています。
 つまり、普通地域の民有地では、必要な手続きを行えば法律的にソーラーパネルの設置が可能なのです。
 法律で許可しているものを条例で規制することはできません。さらに…。

釧路町環境生活課 大中公史課長
「国もゼロカーボンを進めている中で、進めるべきものと保全・調整すべきものが必要」


 国は温室効果ガス削減の取り組みを進め、2050年には実質ゼロを目指しています。
 
 そのため釧路町でも、役場の駐車場にソーラーパネルを設置したり、家庭での再エネ機器の導入に補助金を出したりと、ゼロカーボンシティの実現に取り組んでいる。
 
 その一方で、HBCの取材後の5月15日、釧路町ではソーラーパネルを設置して欲しくない場所を示した地図を、“町からのお願い”としてHPに公表しました。

釧路町環境生活課 大中公史課長
「ただこれも“お願いベース”にしかならないのが実態」

 実はこの手法、別の自治体では意外と効果を発揮しているといいます。

鶴居村むらづくり推進係 和田彰係長
「2022年1月から鶴居村の太陽光の条例を制定。太陽光パネルを設置したい事業者が、村の窓口に来たときに『村として設置を控えて欲しい』と言えるようになった」

 2年前に条例を制定し、太陽光発電所を設置して欲しくないエリアを公表した鶴居村では、工事の変更に応じる事業者も少なくないといいます。

 もちろん素直に話を聞いてくれる事業者だけではありません。

釧路市環境管理係 佐々木敦史総括係長
「国が太陽光パネルの設置について、アクセルを踏み続けて推進してきたので、規制というブレーキも、しっかり実効性のある法令等の整備や仕組みを作ってほしい」

 再生可能エネルギーの推進について、今一度立ち止まり、進め方を考え直す必要があるのではないでしょうか。

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