去年9月、北海道室蘭市で、教え子だった49歳の女ら2人を千枚通しで刺し、殺害しようとした罪に問われている75歳の元教諭の男の裁判員裁判論告求刑公判が、15日札幌地裁であり、検察側は懲役6年を求刑しました。
 弁護側は、刑の執行猶予を求め結審しました。

 検察側は論告で「被告は2人に抵抗されても刺し続けていて、強固な殺意があった」として指摘。「被害者の落ち度は否定できないが、警察に相談することなく殺害しようとした動機は短絡的」と非難しました。
 一方弁護側は、被告は被害者に繰り返し脅迫され、追い詰められていて、酌量すべき事情があると主張し、示談が成立している点も強調しました。

検察庁に身柄を送られる野澤被告(去年9月 室蘭警察署)

 起訴状などによりますと、札幌市の元教諭、野澤俊重(とししげ)被告75歳は去年9月、自宅前の路上で、教え子だった49歳と46歳の女2人を千枚通しで刺し、殺害しようとした罪に問われています。

犯行時の野澤被告の自宅(室蘭市)

 49歳の女は中学生と高校生の時、中学時代の教諭だった野澤被告と性的関係で、その関係をめぐり、30年以上経った2021年10月、46歳の友人と共謀し、野澤被告から現金300万円を脅し取りました。

 さらに去年9月、再び女2人で現金を要求した際、野澤被告に千枚通しで刺され、恐喝と恐喝未遂の罪が発覚。

 2月16日午前の判決公判で、札幌地裁室蘭支部は49歳の女に「過去の性的関係を利用し、300万円脅し取るのは高額で、1時間半にも渡って脅迫、その2年後、また行ったことは、執拗で悪質」と指摘した一方で「野澤被告の昔の行為がこの事件を招いたのは否定できない」とし、懲役3年、執行猶予5年の有罪判決。
 
 46歳の友人にも「49歳の被告に巻き込まれたとも言えるが、積極性があり、実刑も視野に入るべきと判断」として、懲役2年、執行猶予4年の有罪判決を言い渡しました。


 その後、女2人の刑が確定し、13日の野澤被告の初公判(裁判員裁判)で、野澤被告は起訴内容について、裁判長から「間違っている点はありますか?」と問われ「ありません」と答えました。

野澤敏重被告、廷内スケッチ(13日 札幌地裁)

 冒頭陳述で検察は、女2人の公判と、ほぼ同じ内容の経緯、事実関係を明らかにしました。
 そして15日の公判では、野澤被告の妻が証人として法廷に立ちました。

■野澤被告の妻の証人尋問(15日)
・教え子だった女については、卒業後も交流があったので名前は聞いていた
・交流は、年賀状や自宅に電話がくる程度
・300万円の金額は私が決めた
・「300万円が入っています。精一杯のお金です」と言って渡すと、女は満足そうに見えた
・夫は2人を刺した後「もうおしまいだ、警察に行く」といって身支度を始めたところで警察が来た
・夫から女との性的関係があったことを説明を受けた時、とてもショックだった

 なお、13日初公判では、検察は、女2人の公判とほぼ同じ内容の経緯、事実関係を明らかにしました。


■女2人と野澤被告の初公判で、検察が指摘した経緯、事実関係

・野澤被告と49歳の女は、同じ中学校で教諭と生徒
・女が中2時~高2時、性的関係
・室蘭市外の高校にすすみ、寮生活の女を時おり、野澤被告が車で送迎
・性的関係解消後も、女が野澤被告に悩み相談

・1998年に長男誕生、その後も近況などを年賀状で報告
・長男の高校受験に向けて、野澤被告が家庭教師
・心筋梗塞を患った女を野澤被告が見舞う

・2021年、女の口座残高2860円、カードローンが約30万円
・妹分だった46歳の友人の女に性被害、フラッシュバックなどを相談
・友人が野澤被告に問い質すも、否定される

「バレたら全国ニュースだね。先生も奥さんも、ここにいられないね」

 ・同年10月、2人で野澤被告宅へ
「バレたら全国ニュースだね。先生も奥さんも、ここにいられないね」
「弁護士を介して、話し合えば?」
「面倒くさいよね」
「弁護士に払うくらいなら、直接お金を渡す」と野澤被告
「私が大袈裟にしてたら、先生パクられてたよ。誠意だよ、誠意!先生の誠意はいくらなの?誠意を見せろ!」

事件現場(室蘭市)

 ・後日、野澤被告の妻から現金300万円
・2022年8月、再び口座残高4700円ほどになり、カードローン約30万円
・野澤被告に電話するも「もう、うちには金がない」と着信拒否の設定
・去年9月26日、女が友人に性被害のフラッシュバック悪化を相談
・友人が野澤被告に電話するも「もう、うちには金がない」
・同日、2人で野澤被告宅に行き、千枚通しで刺される

 一方、弁護人も冒頭陳述で、下記のような事実関係を明らかにしました。


■弁護人の陳述

・大学同期の女性と24歳で結婚、3人の子ども
・60歳の定年後も再雇用で教壇に立ち、70歳から年金で妻と2人暮らし
・教え子からは「一番厳しいけど、一番優しい」の呼び声
・不登校生徒と向き合い、不良グループを更生

・49歳の女は成績悪く、放課後に補習
・そのうち、女からのアプローチで性的関係に
・「自分を最後に送って」「先生、大好きなの」「私を女にして欲しい」
・高3で性的関係は解消
・女の息子のいじめ被害の相談、高校受験で家庭教師、病気の見舞いなど続ける

「もう逃げられない、この苦しみから逃れられない」と思い、台所の千枚通しを手に犯行

 ・2021年10月、46歳の友人から電話「覚えていますか?(49歳の女と)性的関係あった?」
・検察指摘の経緯で、現金300万円脅し取られる
・2023年9月、46歳の友人「300万は慰謝料、今回は病院代、ジャニーズのこともあるんだからね」
・「もう逃げられない、この苦しみから逃れられない」と思い、台所の千枚通しを手に犯行

 ちなみに49歳の女は、自らの恐喝、恐喝未遂事件の公判時の被告人質問で、下記のように証言していました。

事件現場(室蘭市)

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