能登半島地震の被災地では、自治体が所有者に代わって建物を解体・撤去する「公費解体」の受け付けが、各地で本格化しています。一方、まちなかには、未だ倒壊した家屋が発災当時のまま残されている場所も少なくありません。

そこには、過疎化が進む能登半島ゆえの、一筋縄ではいかないさまざまな課題が横たわっています。公費解体の「今」を取材しました。


地震発生から4か月近くがたった先月28日。元日の地震で傾いていた建物が、突然、崩れ落ちました。

映像を撮影した人は…
「最初は旦那が車から降りたらメキメキ聞こえると言って。(建物の)後ろ側が崩れてたらしい、怖かったしビックリの方が強かった」


元は旅館だったこの建物は、地震で「全壊」と認定。すでに先月、公費解体の申請を済ませ、工事の順番を待っている状態でした。倒壊した家屋を横目に、2次災害への不安を漏らす住民もいます。


記者リポート
「数十年も人が住んでいない空き家なんですが、今回の地震で倒壊し、隣の住宅に寄りかかっています」

珠洲市飯田町に住む橋本昌一郎さんが気がかりなのは、自宅にもたれかかった空き家。「地震の前から潰す、潰さないみたいな話はしてたけど。持ち主さんにお願いして緊急解体の申請をしてもらったんです」と話していました。


地震で倒壊した衝撃で、飛んできた屋根瓦が自宅の窓ガラスを割りました。空き家の解体が進まない限りは自宅の工事の見積りも取れず、不安は募るばかりです。

自宅の隣にある空き家が倒壊・橋本昌一郎さん
「2次避難で加賀に行っているのですぐには戻れない。いや~困ってます、早く撤去して」



家屋の解体・撤去はなぜ、思うように進まないのでしょうか。「公費解体」は、地震で半壊以上となった住宅などを、自治体が所有者に代わり解体・撤去する制度。県は、およそ2万2000棟の家屋で公費解体が想定されるとの見通しを示していて、来年10月までの作業完了を目標に掲げています。一方、珠洲市では、これまでに2374棟の申請がありましたが、工事に着手できているのは、112棟にとどまっています。


「(この景色見てると)涙出てくるよね」

金沢市の解体業、中谷和浩さん。珠洲市内で発注があった解体工事を業者に割り振る調整役として、現場で指揮を執っています。


中谷さんが向かったのは、津波の被害を受けた三崎地区。

業者との会話
「ここの建物と、向こうに1本道がるが、そこまで解体します」
「(範囲が)すごいな」
「元々旅館だったらしくて…」


工事にかかる期間は平均で7日から10日ほどとされていますが、中には、1か月程度を要する場所もあるといいます。一体、何故なのでしょうか?

地元業者
「津波が来て中にあったゴミがグシャグシャの状態だから。なんせ布団類、食器が多い…大変」


建物に残された家財道具は、原則、工事が始まる前に取り出す必要がありますが、建物が完全に潰れているなど、危険を伴う場合には、住民の同意を得た上で工事と並行しながら業者が撤去するケースもあるといいます。さらに、作業の進捗を左右するのは、ライフラインの復旧。解体で出る粉塵やほこりを抑えるのに、欠かせないのが「水」です。


県は今月以降、4、5人の作業員を1つのグループとして、1日に最大600班の事業者を確保しましたが、現地の活動拠点が不足していることなどから、すべての作業員が同時に作業できる体制には至っていないのが現状です。


珠洲市で解体工事を行う・中谷和浩さん(金沢市)
「あまりにも、現状、壊れている家が多い。でも計画は計画なんでとにかく進めるしかない。目の前の一棟一棟を壊さないと先に進めないので、何が何でも『最後までやっていくぞ』という気持ち」



一方、公費解体の本格化に向けては、申請する住民にとっても、さまざまな壁が立ちはだかっています。


地震で被害を受けた住宅などを、所有者に代わって自治体が取り壊す「公費解体」。申請の受け付けは大型連休の期間に本格化し、今月9日時点では、連休前の先月22日からおよそ4割増え、県内で1万2143棟の申請がありました。


しかし…。

記者リポート
「昨日から一般受け付けが始まった珠洲市。窓口には多くの人が詰めかけている一方、手続きの煩雑さから頭を悩ませる住民も多い」


手続きを行う住民たちを悩ませているのは、「未登記問題」です。

窓口で対応する職員
「お父さんが筆頭の戸籍で昭和32年以前の分が欲しいんです」
「ご兄弟は皆亡くなってらっしゃる?」

申請する住民
「そうそう」


職員
「兄弟のお子さんは?」
申請する住民
「赤ちゃんのうちに亡くなっとるわ」
職員
「それが分かるものがどれかなと思って」
申請する住民
「え~…」

建物の所有者が亡くなった後、その所有権が何代も移動されていなかったり、相続の権利を持つ人が1つの建物に複数いる場合は、原則、関係する人すべての同意が必要となります。しかし過疎化が著しい奥能登では、所有者の分からない空き家も多く、申請や審査に時間がかかっているといいます。


申請に来た住民
「全壊した建屋が(亡くなった)親の建屋で、本当に自分が相続権利者なんかということで。大変なのは、やっぱりこの手続き」


同意が必要なきょうだいが、全員、県外に住んでいるというケースも。大阪から来たという男性は兄弟4人分の同意書と印鑑証明が必要だったといいます。


「1回大阪に戻って、兄弟のもとを全部回って印鑑証明もらいまた帰ってきた。1回往復するのにガソリン代と高速で2万円はかかる。手続きは分かりづらい、やっぱ難しい」と話します。



確認作業を行う職員らのマンパワー不足も、大きな課題に。そこで、自治体の職員に代わり、解体にかかる費用の算定や現地での調査を行うのは、「補償コンサルタント」と呼ばれる人たちです。工事を始める前には、この補償コンサルタントと建物の所有者、そして解体業者の3者が現場に立ち会って行う確認作業が欠かせません。


補償コンサルタント
「電気の切断とか、プロパンガスの関係、浄化槽の清掃は解体前やっておいてくださいね」

千葉から来た男性
「(Qテント全部自分で?)そうです。色々仕入れて、台所とか。長期戦になると思ったので」


築30年の空き家の解体を希望する男性は、立ち会いのために何度も珠洲に来ることはできないと話します。そのため、敷地内にテントを張って生活。申請から1か月あまり経ったこの日、ようやく立ち会いを終え工事が始まりそうです。

千葉から来た男性
「これから梅雨とか台風来ると屋根がないから飛んだりね。空き家ですから迷惑をかけないように。街なかはまだ大変な中、やってもらうのはありがたいね」


補償コンサルタントについて、県は今月上旬までに、先月の1.6倍にあたる約160人を順次、現場に派遣。事務処理にあたる人員の人手不足を解消することで、少しでも早く工事に着手できるようにするのが狙いです。とはいえ、現場に携わる人たちには、丁寧な作業が求められます。


国土開発センター計測保証事業部・呉座教郎さん
「倒壊しているとはいえ、個人の財産を公費、いわゆる税金で解体するのですから、行政が手続きに慎重にならざるを得ないのは、致し方ないことです」


生活再建の第一歩となる、公費解体。申請する住民はもとより、地元業者や行政にとっても、手探りの状態が続いています。

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