レバーを押すだけで、音も出さずに静かに動き出す「電動キックボード」。ペダルを漕ぐ必要がなく、坂道も楽に登れて快適。

国が道路交通法の規制緩和によって普及を後押しする中、新たな乗り物として急速に広がっています。しかし、一方通行を逆走したり、交差点の真ん中で停止したりと、交通違反や暴走運転も急増。事故も増え、死者が発生するケースも。電動キックボードの今を取材しました。

衝突すると大事故の可能性が…過去には死亡事故も

2024年2月、名古屋市中区の一方通行を逆走する電動キックボードが、事故を起こした瞬間を防犯カメラが捉えていました。キックボードは、後ろから歩行者の男性をはね飛ばします。

何とか立ち上がった被害者の男性は脚をおさえますが、事故を起こしたキックボードは走り去ってしまいました。男性は肋骨などを折る重傷を負い、警察はひき逃げ事件として捜査。事故を起こした40代男性は後に逮捕され、罰金50万円の略式命令を受けました。

「JAF愛知支部」は、キックボードがぶつかった時の衝撃を調べる衝突実験を行っています。歩行者に見立てたダミー人形の頭部に衝撃測定センサーを装着。頭部への衝撃を表す数値「頭部障害値」(HIC)を測定します。HICが1000を超えると、脳障害の可能性が高くなるそうです。

中区のひき逃げ事故とほぼ同じ時速20キロに加速して衝突すると、人形の頭は激しく地面に打ち付けられました。

(JAF 武藤敏行係長)
「歩行者のHICは6957.8という非常に高い数値が出ています。脳にひどい損傷が発生する可能性が考えられます」

危険は、運転する側にも。車道と歩道の境目に敷かれる縁石は15センチほどの高さですが、スピード次第では危険です。

JAFで行われた実験では、縁石に見立てた高さ10センチのレールをセット。ヘルメットなしの人形が乗った電動キックボードを、時速20キロで通過させます。最大速度20キロに達したキックボードは、レールに乗り上げて激しく転倒。人形の頭が地面にたたき付けられました。

(JAF 武藤敏行係長)
「HICの値が7000を超えているので、場合によっては死亡する可能性も考えられます」

2022年9月に東京で起こった事故では、ヘルメットを被らずに電動キックボードに乗っていた男性が、車止めに衝突して転倒。頭を強く打って死亡しました。

(JAF 武藤敏行係長)
「万が一、衝撃を受けた時にヘルメットが外れないように、正しく装着してもらいたい」

規制緩和で利用者も違反も急増

電動キックボードは元々、海外生まれ。国は原付扱いにして、免許やナンバー、ヘルメットの着用を義務化していました。しかし、2023年4月、改正道路交通法で「特定小型原付」という区分を新設。最高時速20キロ以下で16歳以上なら免許は不要、ヘルメットも努力義務とし、大幅に規制を緩和しました。

警察では、若者を対象にした電動キックボードの講習会を繰り返し開いています。名古屋市中村区で行われた講習会にも多くの受講者が訪れ、安全な運転を学びました。

(中村警察署 森本正樹警視)
「正しいルールを理解して、安全に乗車してほしいと思います」

講習会などが行われているものの、利用者が爆発的に増える中、違反も急増しています。2023年7月から2024年1月までのわずか半年で、交通違反は7130件にのぼります。

名古屋市中村区の「ブレイズ」は、クラッシックタイプの電気自動車や軽自動車のキャンピングカーを扱っている会社。5年前から電動キックボードの開発や販売にも乗り出しています。

16歳以上であれば免許不要で乗れる新区分の「特定小型原動機付自転車」は、ナンバープレートが原付より一回り小さい10センチ四方。車道を走る際には緑のランプが点灯し、最高時速は20キロまで出ます。

緑のランプを点滅に変えると、最高時速6キロになり、早歩きとほぼ同じスピードに。時速6キロまでしか出せなくなる分、条件付きで一部の歩道を通行可能になります。どちらの場合もヘルメットは努力義務です。

最近では、町のあちこちに電動キックボードのシェアリングポートも増えています。名古屋では、2023年5月に約50か所ありましたが、1年足らずで7倍の340か所にまで増加。手軽に使える環境が、さらに整いつつあります。

“新しい街の足”として広がる電動キックボード。しかし、正しく使わなければ、危険な存在となる恐れもあります。

CBCテレビ「チャント!」4月29日放送より

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