女性の約6割、男性の約7割が「相談しなかった」。このデータは、性暴力被害を受けたあと誰にも相談していない人の割合です。('20年内閣府の調査より) 相談しなかった理由は「恥ずかしかった」「自分さえ我慢すれば…」「思い出したくなかった」「相談しても無駄だと思った」-。このように表面化しづらいといわる性犯罪。被害を防ぐためにも、幼少期からの性教育が重要と訴える元警察官の活動と、被害者の声を取材しました。

性犯罪から子どもを守る― 元警察官の活動

愛媛県松山市に住む、子育てアドバイザーのなかしまちはるさん。4児の母でもあるなかしまさんは、元警察官という経験を活かし、性犯罪から子どもを守るための活動をしています。

なかしま ちはる さん
「性犯罪は“魂の殺人”というふうにも言われているように、1度傷ついてしまったものはもう元に戻らない」

オンライン講演会なども開いているなかしまさんは、家庭内でも意識を高めることが大切だと考えていて、主に幼い子どもを育てている親たちに向け、性犯罪の実態や被害者の声などさまざまな情報を発信しています。

かつて刑事だった頃は性犯罪を担当。「被害者が警察に相談するのは、実数の10分の1ぐらいと言われている」と話し、活動には、後を絶たない被害を未然に防ぎたいという思いがあります。

なかしまさん
「性犯罪に遭ったら警察に行くけど、遭わないためにできるのが子どもへの知識を渡すことであったりとか、子どもとのコミュニケーションを取ったりとか、母親としての立場から言えることもあるので」

SNSでわいせつな画像を送らせるなど手口は多様化する一方、明るみに出るのは「氷山の一角」と言われる性被害。愛媛県が設置した「えひめ性暴力被害者支援センター」に、昨年度寄せられた相談件数は575件で、ここ数年、増加傾向にあります。

8割が顔見知りによる犯行といわれる中、今、問題となっているのが被害者の低年齢化です。なかしまさんは、未就学児の子はそもそも被害に遭ったことに気付いてない子も多くいると話し、幼少期に受けた被害で、成長後、心に大きな傷を負うこともあります。

5歳の時に見知らぬ男から性被害 約30年間、誰にも打ち明けられず

広島県に住む高橋 彩さん、36歳。5歳の時、見ず知らずの男から性被害に遭いました。

1人で保育園に登園中、車の中から声をかけきたという男。車から降りて高橋さんを民家の裏に連れて行き、無理矢理下着を下ろすなどの暴行に及びました。

高橋 彩さん
「『誰にも言うなよ』って言われて、何をされているか分からない状態で、ただ気持ち悪いっていう感情だった」

性被害だったと理解したのは高校生の頃だといいます。「自分は価値がない」「汚い」と落ち込み、誰にも言えませんでした。

高橋 彩さん
「お母さんに心配かけたくないっていう気持ちが1番にあって。親には言えない、親だけには言えない、知られたくない、というのが私の中では1番でしたね」

打ち明けられたのは、約30年が経ってからでした。

高橋さんは、子どもたちに同じ思いをさせたくないという思いから、自らの過去を発信しています。

高橋 彩さん
「やはり自分のような経験をする子を1人でも少なくしたいというのがあるので、なんでも聞いていいよっていう親子の関係さえあったら『助けて』というのも言いやすいのかなと思っています」

絵本で「性」の教育

子どもを性被害から守る活動を続けているなかしま ちはるさん。被害を防ぐ対策の1つとして、幼少期からの性教育も重要と考えています。3歳前後の子どもと親子で「性」の話をするには、絵本が有効だといいます。絵本には、性教育をテーマにしたものも数多く出版されています。

なかしまさん
「絵本には“いいタッチ” “悪いタッチ”の話も入っていて、お医者さんが触るタッチは『それいいの?』みたいな感じで聞いてくる子どももいるので、それは命を守ってくれる大事なタッチだからオッケーだよ、と」

こうした絵本を使うことで、プライベートゾーンと呼ばれる口、胸、性器、おしりは、人に触らせてはいけない場所だと伝えやすくなるそうです。

さらに絵本の中には「性的同意」を学べるものもあります。

なかしまさん
「『私はこれが好きだけど、僕はこれ嫌い』というような、結局“性的同意”というところにもつながっていくかな。みんないろんな気持ちがあるんだよ、こうされたらどんな気持ちになるかなって」

言葉が出てこなくても、相手の気持ちを尊重する大切さを感じてもらうことができます。

なかしまさんは、子どもを性暴力から守るためには、日頃からコミュニケーションをとり、さまざまな話ができる親子関係を築くことが最も大切だといいます。

なかしまさん
「何でも話せる人を作っておきましょうねって。それが親が一番なんですけど信頼できる大人でもいいので、そういう人がいるだけで私は大丈夫って思える。自分らしく生きる優しい社会になっていくんじゃないかなと思っています。被害者を二度と出したくないという強い思いがあるので、その思いとか、このリアルな話であったりとかを皆さんに聞いてもらうことで我が事にしてもらいたい

後を絶たない性犯罪。子どもを含めた被害をなくすため、なかしまさんは情報発信を続けるつもりです。

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