女子サッカー WEリーグのアルビレックス新潟レディースに、子育てをしながら選手を指導する女性コーチがいます。
西東友里さん(さいとう ゆり)さん、34歳。
サッカー選手として活躍し、引退後はコーチとして指導に当たる彼女の夢は「いつかWEリーグの監督に」。その想いを聞きました。

「サッカーがなくなったら私、どんな仕事につけるんだろう…」

4月24日。
強い風が吹きつける中、西東さんは黙々と練習の準備をしていました。
いつもこんな感じなのかな…と思っていると、

柳澤紗希選手「いつもは、こんな感じじゃないです…」
西東友里コーチ「お互いにね」
―いつもは?「おはようございます!!!!!みたいな(笑)」

いつも元気で、選手たちからも信頼も厚いという西東さんが指導者を目指したきっかけは、現役時代の経験からでした。

高校卒業後、2008年にアルビレックス新潟レディースに加入した西東さんは中盤のサイドやボランチを主戦場に活躍しました。ただ現役時代は順風満帆とはいかなかったそうです。

「高校卒業してからは出場機会がなかなかなくて…『サッカーがなくなったら私、どんな仕事につけるんだろう…』と思っていました。その時に、高校時代のことを思い出して。小中学生にサッカーを教える機会が結構あり、教えるのが好きだなと。周りからも『友里さん、教えるの上手だよね』と言われたことを結構覚えているというか、楽しかったという経験があって、そういうのを仕事にしたいな…と」

妊娠がわかるも募る不安「迷惑かけちゃうな…」

現役時代からライセンスを取得するなど、指導者を目指した西東友里さんは2016年に引退。その後はアルビレックス新潟レディースの育成組織でコーチや監督を務めました。

子どもたちと向き合うことで、現役時代とは違った『伝える難しさ』を痛感したという西東さんは女子プロサッカーリーグ『WEリーグ』がスタートする2021年に、トップチームのコーチへの就任が決まりました。ほどなくして、西東さんは妊娠がわかります。嬉しさと同時に、不安も募りました。

「こういう仕事をしていると抜けづらいというか、動けなくなることで『迷惑かけちゃうな』という感覚、申し訳なさがありました」

アルビレックス新潟レディースの山本英明社長は、西東さんから妊娠したことを告げられた時のことをよく覚えています。
「不安を抱えながら…という感じで話してくれましたね。それでも『子育てをしながら指導者として新潟に貢献してきたい』という思いを伝えてくれたので、クラブ側としては、環境を整えていこうという話になりました」

その後、西東さんはクラブスタッフとしてはWEリーグ初となる産休・育休を取得。夫の秀明さん(35)と家事や育児を協力しながら、息子・里都(りつ)くんの出産から5か月後にコーチとして復帰しました。

「周りのサポートのおかげというのもありますし、ここまで長くサッカーをやってきて、子どもが生まれたから自分の夢を諦めますという風にはなりませんでした。私がいなくなったからといってクラブがなくなるわけでもないし、チームが崩壊するわけでもないと自分に言い聞かせながら出産から復帰するまで考えていました」

“子育てしながらコーチ” 働き方はモデルケースに

コーチとして西東さんが担当するのは、チームの分析や「NEXT(ネクスト)」と呼ばれる試合のベンチ入りがかなわなかった選手たちの指導です。

4月21日。ホームゲームのキックオフ5時間ほど前に、「ネクスト」の選手たちは西東コーチと選手たちがトレーニングを行っていました。西東さんは選手たちに細かな立ち位置などを指導していました。

この日、ネクストとして練習していた長崎咲弥選手(19)は、普段の西東さんを「日焼け止めを塗ったりして気を付けていて、女子力が高いんです」と教えてくれました。そして「1人1人をよく見ていて、プレーでも気になったところはすぐにわかりやすく伝えてくれるので、本当に勉強になります」と話します。

チームを指揮する橋川和晃監督は「男性・女性ということではなく、本当にサッカーをよく知っているので、プレイヤーとして経験してきたところを若手選手にしっかり伝えてくれている」としています。

そして、西東さんの働き方について「家庭と育児の時間をマネジメントして、コーチとしてキャリアを積み重ねていっているので、クラブやチームもサポートが必要だと思うし、このような世界が広がる一つのモデルケースになってもらえたらと思います」と話しました。

普段から明るく的確な指導をしているという西東さんですが、同い年の川村優理選手(34)は「子どもを育てることがまず大変で、でも『里都(りつ)には寂しい思いをさせない』とか『だけど仕事は仕事でしなきゃいけない』とか、つらそうな時もあった」と振り返ります。それでも…
「サッカーの練習に来たら、そんな顔ひとつ見せずに働いている姿を見ると、母強いなって思います」

そんな“強い母”の原動力は息子の里都くんです。

里都くんがチームに“帯同” 模索する“新たな働き方”

西東さんの息子・里都くんは夫の秀明さんとともに、機会があればホームゲームを観戦にやってきています。

4月21日もスタジアムを訪れた里都くんは、少し前に髪を切ってくれたという川澄奈穂美選手に抱かれて一緒に選手入場。この時に頭をなでていた園田瑞貴選手が今季初ゴールを決めるなど、AC長野パルセイロ・レディースを相手に4対1で勝利しました。

実は里都くん、今年2月の沖縄キャンプにも帯同しました。
練習前後、選手に遊んでもらったり、オフの日には一緒にお出かけしたり…
選手やスタッフが受け入れてくれたからこそ、新たなチャレンジができたと西東さんは振り返ります。

「何かにトライしようとすると『それ大丈夫?』とかネガティブな声が聞こえてきます。でも、私の性格上、あきらめたくないというか、できる方法を見つけたい。今回はクラブも監督も選手も受け入れてくれて、キャンプに里都を連れて行くことができて、チーム作りなどについて経験することができました。自分にとっても大きなプラスになったと思います」

西東さんの夫・秀明さんは「選手が近くにいるので、遊んでもらったりかわいがってもらっています」と話します。
そして、里都くんが母親の仕事場について行ったり、試合を見たりすることについては「なかなか子どももこうやって母親の仕事を見ることはできないと思いますし、ましてやトップチームのコーチという環境は貴重だと思います。私もそうですが、非常にいい経験をしていると思います」と話しました。

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