3月、東京新聞紙上の連載「私の東京物語」で、福島県大熊町出身の門馬好春(もんま・よしはる)さん(66)の物語を連載した。実家は東京電力福島第1原発1号機からわずか1.6キロにあり、周囲は福島県内の除染で発生した汚染土を長期保管する中間貯蔵施設に囲まれる。今なお許可を取らないと立ち入りすらできない門馬さんの実家を訪ねた。(山川剛史)  好春さん本人は取材直前に新型コロナ感染が判明し、兄の幸治さん(69)=相馬市に避難中=と2人での取材となった。  貯蔵施設エリアの大半は汚染土の処理やすり鉢状の穴への土壌投入が終わったが、実家がある長者原地区は汚染土の一時保管に使われている。除染が続く帰還困難区域などから黒い大型土のうが次々と運び込まれ、積み上げる作業が続いていた。
 「ただいま」。幸治さんがあいさつして無人の実家を開けた。家財道具が散乱している。数年前、イノシシに入られ、「ぐちゃぐちゃにされ、もう片付けをやる気がなくなった」。  屋内の放射線量は毎時2マイクロシーベルト前後と、原発直近の場所にしては低い値だったが、家の周りは8マイクロシーベルトを超える地点もあった。「これでもずいぶん下がった」
 この地は2045年3月までは中間貯蔵施設として使われる。幸治さんも田畑の多くは国に売却し、実家などは国に貸している。「30年間は引き受けるが、それ以降は県外処分の約束。全国で痛みを分かち合ってもらうか、東京電力の社有地や全国の原発に持って行ってもらいたい」と訴えた。  好春さんは回復後、「45年までどうにもならない状況を強いられることの悔しさを知ってほしい。被災者の福島県民が、それ以外の地域と対立しない形で汚染土問題を解決する道を探したい」と話した。   4兆円以上をかけた福島県内の除染で発生した汚染土は、福島第1原発周辺の農地や民家、山林などを造成して設けられた中間貯蔵施設(約1600ヘクタール)に集約される。搬入されたものだけで、東京ドーム11個に相当する1376万立方メートル(3月末現在)ある。現在も放射線量の高い帰還困難区域で除染が続いており、まだ増える。現時点の事業費見込みは2兆2000億円。  施設の事業期間は2045年まで。国は、4分の3を占める放射性セシウム濃度が1キログラム当たり8000ベクレル以下の土は全国の公共工事などで「再利用」し、残る4分の1は県外で最終処分する方針。ただし、再利用に向けた実証試験を東京の新宿御苑や埼玉県所沢市などで始めようとしたが猛反発を受けて進まず、最終処分地探しも具体的な動きはまだない。 

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