(国民民主党 古川元久 税調会長)「向こうが全然やる気ない。これは我々の考えるような数字に達する可能性は見えないと判断せざるを得ない」

自民・公明・国民3党の実務者協議のテーブルを蹴って退席した古川税調会長は語気を強め批判した。

12月17日、3党による“103万円の壁引き上げ”についての実務者協議が事実上決裂。178万円への引き上げを目指す国民側に対し、与党側は123万円への引き上げを提案したが、折り合わなかった。

“年収103万円の壁引き上げ“はさかのぼること12月11日、自民森山幹事長・公明西田幹事長・国民榛葉幹事長の3者で178万円を目指して来年から引き上げることに合意。加えてガソリン税の暫定税率を廃止することとし、合意文書に署名した。

ただ“178万円を目指す”との書きぶりで、来年いくら引き上げるのか、ガソリン税に関してはいつから廃止するのかなど、実務者でさらなる協議が必要な余地を残していた。それでも、この合意文書を交わしたことと引き換えに、国民民主党は臨時国会で補正予算に賛成したという経緯がある。

交渉「決裂」のワケ「今度はこちらが攻めるフェーズ」

自民党関係者は「決裂」のワケをこう語る。

(自民党関係者)「合意文書に署名したのは補正予算に賛成してもらうためにこちらが折れるフェーズだったから。補正予算が成立したので今度はこちら側が攻めるフェーズだということ。合意した178万円もガソリン税の暫定税率撤廃、どちらも盛り込んだら財源がなくなってしまう」

政党間の合意文書といえば先の通常国会でのあの一件が思い出される。今年の通常国会で自民党は、維新との旧文通費改革について、党首同士が合意し署名していた。維新はこの合意文書をもって、他の野党が反対を投じることが予想された政治資金規制法の改正案に衆議院で賛成したのだ。

しかし、自民党側は“合意文書で期限については言及しておらず議論は前に進めている。通常国会だけでは時間が足りない”と維新が前国会中に求めていた旧文通費改革は実現せず。維新は「約束を反故にされた」と衆議院で賛成した政治資金規正法の改正案に参議院で反対したのだ。維新にとっては自民に振り回された国会対応となり、他の野党からも不興を買った苦々しい出来事だ。つまり、文言が詰め切れていない合意文書は最終的にどういう結末を迎えるかは極めて不透明なのである。そこを計算ずくで自民党は利用するきらいがある。

前出の自民党関係者は成果が欲しい野党の足元を見ながら合意文書を巧みに利用すればいいと語る。

(自民党関係者)「与党過半数割れの状況下なので、うまく“合意文書”を使いながら野党の賛成を勝ち取っていくしかない。今後も同じ戦法で国会を乗り切っていくのだろう」

まさに少数与党ながらなかなかにしたたかな自民党なのだが、旧文通費はこの臨時国会で法案が通過し、維新の悲願はなんとかようやく実現する。一方でいったんは幹事長同士の合意文書が反故にされた形の国民民主党は果たして壁を突破できるのか…

維新が本予算賛成示唆で崩れる政界のバランス

103万の壁引き上げの3党協議で、与党側、とくに自民税調が123万円の提案という姿勢を取り続けたのは“維新が来年の通常国会での本予算に賛成する可能性が出てきたからではないか?”という声もある。

国民民主党時代に玉木代表を痛烈批判するなど、本予算に賛成すること対しては野党の基本的なスタンスとしておかしいと否定してきた維新の前原共同代表だが、いまこの状況で所得制限なしの高校の授業料無償化実現と引き換えに来年の通常国会で本予算に賛成する可能性を示唆している。

(日本維新の会 前原誠司共同代表・12月19日)
「高校の所得制限なしの無償化については、今行われている予算編成の中に盛り込んで欲しい。本気で我々と向き合ってもらえるかどうかということを見極めさせていただきたい」

躍進を遂げた衆院選以降、国会の中心に躍り出た国民民主党からキャスティングボートを手繰り寄せようという狙いともとれる。これに対し国民・玉木氏は12月18日に自身のXで「財務省は維新と握る算段がついたということか」と維新や自民を牽制するような発信を行っている。

少数与党の中でキャスティングボートを奪い合う維新と国民

12月20日に示された、税制改正大綱。103万円の壁の引き上げについては与党側が示した「123万円」への引き上げが明記される形となった。国民民主党は不十分で幹事長合意を反故にされたと批判的だったが、ここにきて3党の幹事長会談がもたれ、協議を続けることを確認、金額についてさらに修正をせまる考えだ。

一方、維新側が求めた教育無償化については予算編成大綱には“教育無償化を求める声があることも念頭に”と記されるのにとどまり、具体的な内容や金額などへの踏み込みはなされなかった。党内には「こんな文言ではゼロ回答に等しい」と批判する声もあるが、青柳政調会長は「教育無償化を求める声があるということをはっきりと書いていただいた。今回の予算大綱に現時点で書き込めるギリギリの表現で入れていただいた」と成果を強調する。

一方で与党にとっては“どの党であっても予算や重要法案に賛成してくれればいい”というのが本音だろう。

(自民党関係者)「103万円の壁を178万円に引き上げるよりも、維新が主張する所得制限なしの高校無償化の方が財政的に安上がりで、維新と握る方が“お得”ではないのか?という声はある。とはいえ、維新は衆参で態度を覆した過去があり100%信じることは難しい。ここはどこかに絞り込まず、野党に競わせればいい。最後に一番いいところと手を結ぶという形が与党としては理想的だろう」

少数与党で国会の景色が変わる中でキャスティングボートを奪い合う維新と国民。政策実現という名の成果をめぐり両党が火花を散らす中、野党第1党の立憲民主党は打ち出しにおいてやや埋没気味だ。そんな中で苦しい政権運営と言いつつも意外にもうまく立ち回っているのは老獪な自民党なのかもしれない。果たしてそれでいいのだろうか…

MBS報道情報局 東京報道部 尾藤貴裕
最新情報はポッドキャストでも・・・「ナニワ記者永田町に猫パンチ!」

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。