12月中旬。北海道大学で学生らが参加するビジネスコンテストが開催されました。
テーマは、地域の関係人口を創出するための新ビジネス。学生ならではの発想をカタチにしようと、日本航空と北海道大学がタッグを組み、アイデアを募集したところ35組の応募がありました。
この日は、1次、2次審査を経て、勝ち残った5組の最終審査。
サウナを使った地域づくり、アグリツーリズムを活用した産業連携、人材交流の活性化などのアイデアが発表されるなか、見事、グランプリに輝いたのは、農学部2年の小島颯太さん(19・京都府出身)でした。
小島さんのプレゼンは、次の言葉から始まります。
・小島颯太さん(19)
「まずはじめに、僕は本気です」
この一言から始まった小島さんのプレゼンに、日本航空北海道支社長ら審査員5人にも張り詰めた空気が漂いました。
■19歳の学生が目指す“オール北海道ワイン”
小島さんが発表したのは、北海道産のミズナラを使った洋酒樽づくり「洋酒樽プロジェクト」です。
森が大好きで、大学の森林研究会に所属する小島さんは、これまで北海道の林業の現実を目の当たりにした際、悔しさを感じたといいます。
・北海道大学農学部2年 小島颯太さん(19)
「価値ある北海道の森が、なかなかお金になっていないという問題を実感しました」
林業の価値をもっと高めることはできないか?林業をもっと身近な生活に溶け込んだものとリンクさせ、林業を活気づけることができないか?
考え抜いた結果が“洋酒樽”の製作でした。
・北海道大学農学部2年 小島颯太さん(19)
「北海道で“洋酒樽”を作れれば、ただ作る以上の意味があります。ワイン産業が北海道だけで完結するわけです。我々が『最後のピース』を埋めたい。そうすれば、ブドウづくり、森づくり、1次産業から3次産業まですべてひっくるめた起爆剤になり得るんです!」
小島さんが目指すのは、北海道産のブドウで造ったワインを北海道のミズナラで作った“洋酒樽”で熟成させる“オール北海道ワイン”の実現です。
実は、日本で製作している“洋酒樽”は京都に本社を置く専門メーカー1社のみ。日本に存在する“洋酒樽”の95%以上が輸入に頼っている現状に、小島さんは商機を見出しました。
さらに、北海道に自生するミズナラはいま、樽を利用するワイナリーやウイスキーの蒸留所から高い評価を得ていて、1樽20万円ほどの相場が、45万円の高値で取引されていることに着目しました。
・北海道大学農学部2年 小島颯太さん(19)
「はじめはトンカチとホームセンターの木材で樽を作るところから始まりました。今年4月から洋酒樽を作り始めて、やっと水漏れしない実用できる樽ができました。もうすぐ、僕たちの作った樽に初めてお酒が入ります。いまやっとスタートラインに立ったわけですが、これからはこの文化を“熟成”させて、世界に広めていきたいんです」
■日本一の“洋酒樽”メーカーへ
小島さんは、今回のビジネスコンテストに応募する前から、有志で樽づくりに臨んでいます。
自分たちが製作した“洋酒樽”を「MICHITAL(ミチタル)」と名付け、そこには3つの想いを込めました。
【MICHITAL(ミチタル)に込めた想い】
・人の心が“満ち”足りる瞬間をつくりたい
・サイエンスとテクノロジーで“未知”に挑む
・北海“道”でしかできない挑戦
この「MICHITAL」は、道内の家具メーカーなどの協力を得て2025年秋から量産体制に入る見通しです。そして2030年には4000樽を製造し、日本一の“洋酒樽”メーカーになる道筋を小島さんは描いています。
そして、「MICHITAL」によって完成するオール北海道ワインを、日本航空という大きな翼をとエンジンで世界へ売り出していきたいというのです。
・北海道大学農学部2年 小島颯太さん(19)
「例えば、新千歳空港のラウンジで樽出しのワインを提供する。北海道に向かう機内で樽出しのワインを提供する。そんなこともJALさんとだったら簡単にできてしまいます。そして北海道に来ていただいて、樽を作っている森を感じ、ブドウ農園で大地を感じ、樽産業というニッチな産業を見て、ワイナリーを巡ってもらい、最後はそこでできたオール北海道のワインと食を感じてもらうパッケージツアーもできてしまう。こんなツアーは世界のどこにもありません。それを北海道で、僕たちなら実現することができます」
審査員の1人は、今回のビジネスコンテストをこう評価します。
・日本航空 JAPAN AIRLINES VENTURES藪本祐介ゼネラルマネージャー
「我々も見習うところがたくさんあり、どの学生も斬新なアイディアでした。型にはまらない学生ならではの発想に、私が刺激を受けましたし、純粋にビジネスをやりたいという気持ちを忘れてはならないと感じました」
「グランプリを受賞した小島さんの『洋酒樽プロジェクト』は、これから両者がお金を稼いでいくにはまだまだハードルがたくさんあると思います。どういうところでお互いのシナジーを感じられるか、協業するための議論をしていきたいです。できればオール北海道のワインをJALで使えることが理想ですし、それに向けたスタートが今日なのかなと感じています」
■いよいよ迎える初めての樽詰め
小島さんが製作した「MICHITAL」は、北海道長沼町のワイナリーで、12月20日に初めて樽詰めされます。
・北海道大学農学部2年 小島颯太さん(19)
「まだ僕は19歳でお酒飲んだことがありません。20歳になったときの初ワインは、自分で作った樽に浸かったワインかなと思っています」
ビジネスコンテストでグランプリを獲得した副賞として贈られたのは、アメリカのシリコンバレーを視察する権利。
小島さんは2025年春、日本航空と共に現地を視察し、今後の“洋酒樽”ビジネスに弾みをつけたいとしています。
・北海道大学農学部2年 小島颯太さん(19)
「僕たちの樽の一番の強みは、デジタル化させていくことです。テクノロジーを使って、新しい樽の作り方、職人不足を解消するとともに、樽を職人の手による工芸品から工業製品にしていくのがミッション。どんなマインドでモノづくりに携わっているのか、シリコンバレーで勉強できたらいい」
樽を見つめる19歳のまなざしに、北海道の新しい産業文化が写っています。
【ビジネスコンテストの画像を見る】
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